特集5 「包丁を扱う」ことからピアノ練習方法を学ぶ

公開日: 2016年2月12日金曜日 ピアノ 持論

こんにちは、リトピです。

今回は、「包丁を扱う」ことからピアノ練習方法を学んでみましょう。

包丁が上手に扱えない理由や、包丁を上手に扱う【コツ】から、なぜピアノを上手に弾けないのか、ピアノを弾く【コツを見つける方法】(詳細は、記事「お悩み相談室10: ピアノを上手に弾くコツを教えてほしいのですが…」を参照)とは何なのかを学ぼう、という記事になっています。

悪いイメージ・固定概念は、悪い結果しか生まない

皆さんは包丁を扱ったことがありますか?料理をする人なら必須なアイテムの一つですが、どうやって包丁を扱えば物がスパッと切れるのでしょうか。

切る物にもよりますが、包丁は「押し切り」「引き切り」することで物がスパッと切れます。それが包丁を上手に扱う【コツ】の一つです。(この【コツ】は、NHKで取り上げられていました。参照: ためしてガッテン「研がなくても切れた!包丁テクニック感動編」

この事実、主婦にとっては(or 物理(特に材料力学)を知っている人なら)当たり前のことかもしれませんが…なぜ、この【コツ】が見つけられない人、つまり、包丁を上手に扱えない人がいるのでしょうか。考えてみましょう。

固定概念: 包丁は真下に降ろせば物は切れる!!

包丁が上手に扱えない人は、図1のようにすれば物が切れる!という固定概念が(無意識的に?)あるのでしょう。

図1. 包丁を真下に降ろすと物は切れるんだ!!
ご存知のように、これだと物は切りにくいです。切りにくいと当然力が入ります。これを【無駄な力】と呼んで、力を抜きつつも物が切れる方法を考えますが…この図1の固定概念がある限り、つまり、「包丁を真下に降ろす → 物が切れる」という(悪い)イメージがある限り、包丁を上手に扱うことはできません。

しかも、この方法だと力を入れる以外に解決策(物を切る方法)はありません。つまり、先ほど【無駄な力】と呼んでいたその力は、決して無駄ではなく、【図1のような(悪い)イメージのせいで、物を切るときに発生する必要な力】だったんです。「…えっ、それってどういうこと!?」

使っていたのは【無駄な力】ではなく【必要な力】だった

そもそも、包丁を使うとなぜ物が切れるのでしょうか。物は、その物を構成している分子や原子が強く結びついて形を成しています。その分子や原子の結びつきを外せば物が切れるわけです。その結びつきを外すために必要な力は、以下の2つ(図2)が大きく関係しています(本当はいろいろな要因があるようですが、わかりやすくするため、おおざっぱにしました)。

図2. 物を切るために必要な力
  • 圧力 (分子・原子間を押してつぶしながら(割りながら)切る)
  • 摩擦力 (分子・原子間を引っ張ってちぎりながら切る)
(詳しくは、他ブログ: 今日のおじさん、なに食べました? (仮)「ブラボー,押し切り!~包丁の切れ味も使い方しだい」を参照)

包丁を用いたとき、上記2つの力が合わさって物が切れるわけですが、包丁を動かす方向について図1のイメージしか持っていない場合、どう頑張っても得られる力は#1の圧力のみです。この力だけで物を切らなければならなくなるので、切りにくいとき力が入るのは当然です。よって、その「切りにくいときに入る力」は【無駄な力】ではなく、【図1のような(悪い)イメージのせいで、物を切るときに発生する必要な力】だった、というわけです。

楽に切るための【コツ】は「脱力」ではない

さて、上記の「切りにくいとき力が入る」状況を打破するために「脱力」、つまり「力を抜く」という行為は意味がない…どころか、物が切れる要素の【必要な力】(圧力)がなくなり、もっと物が切れなくなるので逆効果だ、というところまでは、皆様にご理解いただけたと思います。ではどうすれば、この「切りにくいとき力が入る」状況を打破できるのでしょうか。

悪いイメージ・固定概念を払拭することから始める

ここまででお気づきになられた方もいると思いますが、包丁で物が切れにくいと感じてしまう最大の理由は「包丁を真下に降ろす → 物が切れる」という(悪い)イメージ(図1)を持っているからです。そのせいで、物を切るために必要な力は「圧力」しか使えなかったわけです。まずは、その固定概念を捨てることから始めましょう。

図1のような(悪い)イメージを払拭すると、「切りにくいときに入る力」をどうすべきか、を考える以前に、包丁で物を切る方法(包丁を動かす方向)から考えるようになります(図3)。

図3. 包丁を動かす方向は真下以外にも考えられる
こうなれば、「押し切り」「引き切り」を試すことになります。物を切るために必要な力である「圧力」だけでなく「摩擦力」も加わり、図1のときよりも物がスパッと切れる感覚を味わえます。いわゆる包丁を上手に扱う【コツ】が掴めるようになったわけです。めでたし、めでたし。

「脱力」は【楽に切れる】から感じられる

「押し切り」や「引き切り」をすることで、図1のイメージの時の「切りにくいときに入る力」よりとっても「楽な力」で物がスパッと切れるわけですが、これは、【無駄な力】が抜けたからではなく、単に【必要な力】の方向を変えただけに過ぎません。「圧力」だけで物を切ろうとしていたところを、「圧力」+「摩擦力」にしただけです(図4)。どちらも包丁で物を切るには【必要な力】です。

図4. 「押し切り」「引き切り」は、真下に降ろす力(圧力)のいくつかが摩擦力に代わっただけ

言い換えると…物がスパッと切れるようになったのは、【「脱力」したおかげ】ではなく、【悪いイメージを払拭し、それより良い方法が見つかったおかげ】です。つまり【楽に切れる】方法が見つかったから「力が抜けた!」と感じられたわけです。ここをはき違えていはいけません。

「脱力」出来たと感じられる裏には、必ず何か【今までと違う方法】をしています。我々が、やるべき内容・探すべき方法は「脱力」ではなく【今までと違う方法】です。(そのため、教師は、「脱力」なんて意味の分からない言葉ではなく、【今までと違う方法】を教えるのが本来の仕事のはず。)

まとめ

今回は、「包丁」という比較的身近なアイテムを題材に、大事なのは「脱力」ではなく、「(悪い)イメージ・固定概念」の払拭である、というお話をしました。これをピアノに置き換えてみましょう。

ピアノに置き換えてみよう~ピアノが上手に弾けない理由~

ピアノが上手に弾けるようにならない最大の原因は「(悪い)イメージ・固定概念」を持ってることだ、ということがわかりそうですね、上記の「包丁を扱う」ことから考えれば。では、ピアノにおける悪いイメージはなんでしょうか。いくつかあると思いますが、以下に例を挙げておきます。皆さんも考えてみてください。

  1. 「脱力」すれば / 「無駄な力」を抜けば、ピアノは楽に弾ける
    → 違います。理由: 記事「なぜ「脱力」は敵なのか6: まとめ ~打鍵後の「脱力」はダメ~
  2. 肩の力を抜けば、ピアノは楽に弾ける
    → 違います。理由: 記事「番外編4: 「脱力」で、高速和音打鍵は絶対に出来ない
  3. 指を「独立」させれば、ピアノは楽に弾ける
    → 違います。理由: 記事「お悩み相談室4: 指を独立させたいのですが…
  4. 指(関節)を鍛えれば、ピアノは楽に弾ける
    → 違います。理由: 記事「お悩み相談室6: 指の関節が弱いのですが…
  5. 重力奏法をマスターすれば、ピアノは楽に弾ける
    → 重力奏法の正しいイメージ、持ってますか?詳細: 記事「本当は怖い重力奏法(全6回)

ピアノがうまく弾けない時「脱力」という考え方がダメなのは(意味がないのは)、上記の「包丁を扱う」の「楽に切るための【コツ】は「脱力」ではない」の章でお話ししたのと同じ考え方です。つまり、ピアノを弾くとき、自分が【無駄な力】と思っていた身体の力みは、実は【(悪い)イメージのせいで、ピアノを弾くときに発生する必要な力】だったわけです。

その力は、自分の持っている(悪い)イメージそのものを捨てない限り、「脱力」と考えても絶対に抜けません。詳細は、記事「番外編5: 【力み】の発生理由とその対策方法」をどうぞ。

【コツを見つける方法】とは: いろいろ試してみること

さて、「包丁を扱う」お話で、物がスパッと切れるための包丁を上手に扱う【コツ】は、図1の(悪い)イメージを捨てることから始まりました。実は、それが【コツを見つける方法】の第一歩です。固定概念がなくなると、図3のようにいろんな方法(上記では包丁を動かす方向)を考えられるようになります。

例えば、打鍵時、指だけを使うのと、身体全体を使う「コーディネート」ではどちらが楽にピアノを弾けそうでしょうか(図5)。弱いと感じる指は、無理に鍛えるのではなく、他の部位(そもそも指より強い筋力を持つ腕や肩など)の助けを借りるだけで十分だと思いませんか?どちらが現実的な打鍵方法か、考えてみてください。(注意: 腕や肩の力を打鍵方向に入れて、指を鍵盤に押し付ける、という意味ではない)

図5. このグラフを見ても、まだ「指を鍛えたい」と思う人はいるのだろうか

ただ、どんなにアドバイスをもらっても、どうするのが自分にとってベストかは自分自身にしかわかりません。書籍『ミスタッチを恐れるな』でも言っているように、「コツをつかめるのは自分だけ」です。自分専用のコツを見つけるために、たくさん、いろいろ試してみましょう。

大人ならではの【問題解決能力】を最大限利用

…とはいえ、「がむしゃらにいろいろ試しても、無駄が多いんじゃないか?」と思う人もいらっしゃるでしょう。。。ここで活用できるのが、大人ならではの【問題解決能力】。これはピアノの実力度合いだとか、ピアノ歴だとか、全く関係ありません。皆さんが普段から活用している【問題解決能力】をピアノにも活かせばいいのです。そんな素晴らしい能力を使わない手はありません。

例えば、上記の「包丁を扱う」という話。中学物理を知っていれば、物体に力を加える方法として、「摩擦力」がある、ということに気付けます。また、包丁についてちょっと調べれば「包丁の刃先は目に見えない細かいギザギザがついている」という情報もゲットできます。すると、わざわざがむしゃらに試すことなく「押し切り」「引き切り」という包丁を上手に扱う【コツ】にたどりつけるわけです。このような考え方、考察のプロセスをピアノにも応用すればいいのです。

最後のまとめです。「悪いイメージを捨てること」「いろいろ試してみること」が【コツを見つける方法】というお話をしましたが、それにプラスして、大人ならではの【問題解決能力】を駆使し、自分専用の【コツ】をバンバン見つけていきましょう!

では。

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