コラム6: 人間の動作の意識、無意識と自動化

公開日: 2016年2月29日月曜日 持論

こんにちは、リトピです。

このコラムでは、ピアノ以外の雑多なことを書いていきます。今回は、記事「コラム5: イメージを良くすることが上達につながる」でお話しした「イメージ」についての考察です。記事の最後で、以下のような疑問点がありました

疑問点1: なぜ良い動作を【する】ではないのか?
疑問点2: 良い動作イメージの定着って何?

疑問点1については「良いイメージを【保持】するだけでいい、だなんて都合が良すぎない?」という声が聞こえてきそう。疑問点2については、いわゆる【慣れ】というものですが、前回の記事では割愛しました。そして、以下のようなヒントを出して締めくくりました。

  1. ヒント1: 人間の身体は【意識的に】コントロールできない。
  2. ヒント2: 小脳の働きによって一連の動作は自動化される。
では、これを一つ一つひも解いていきましょう。今回は神経心理学の分野なのでかなりハイレベルな内容ですが、頑張ってわかりやすくかみ砕いてみます。

人間の動作の意識と無意識

人間はどのようにして動作をしているのでしょう。ここでは特に随意運動(「自己の意思あるいは意図に基づく運動」のこと(wiki調べ))について考えます。つまり、自分の意思で身体を動かそうとしたときにのメカニズムについて、という意味です。

人間の動作自体については、例えば前腕を持ち上げようと思ったとき、図1のような流れ――(1)【脳】が筋肉を収縮させる信号を送り、(2)その信号が【神経】を伝わり、(3)その信号を受け取った【筋肉】が収縮し、(4)その筋肉に(腱で)繋がっている【骨】が、筋肉の収縮方向に引っ張られる――で身体が動く、というのは皆さんすぐにご理解いただけると思います。

図1. 前腕を持ち上げようと意識したとき、前腕自体が持ち上がるまでの動作の流れ

この動作について、もっと詳しく見ていきましょう。つまり…意識してから前腕を上げるまでは、脳は何をやっているのでしょう。正確には…いや、まずそれを考えてみましょう。

事実: 人間は【無意識に】自分が行う動作を決定している

先に結論を述べてしまいましたが…個人的には衝撃の事実でした。なんと、人間は、身体を動作させることを【意識する】ちょっと前に、脳は何らかの動作準備を【無意識に】しています(図2)。

図2. 前腕を持ち上げようと意識するの前に「運動準備電位」という信号が、脳から【無意識に】出ている

その自分の「○○しよう!」という【意識】が始まるちょっと前に【無意識のうちに準備】しているものは、どうやってその動作を実現させるか、というプログラミング(動作手順のメモ的なもの)を作っている、と言われています(参考: ≪神経心理学コレクション≫ 『アクション』, 医学書院)。

自分自身の動作を【意識的に】コントロールできないワケ

上記の事実から、なぜ人間の動作(随意運動: 自分の意思で身体を動作させる運動)は【意識的に】コントロールできないのか、考えてみましょう。例えば、ピアノで「ミスしないように指をコントロールさせよう」と【意識的に】指を動かそうと思ってもうまくいかないことがあります。その時、脳内ではどのようになっているか見てみましょう(図3)。

図3. 【意識的に】指をコントロールさせようとした場合
図2で、ある動作を行おうと【自分自身で意識する】前に、脳はすでに【無意識のうちに】動作準備をしているんでしたね。これは、自分が動作を【意識】した時点で、動作内容(動作の仕方メモ、プログラミング)はほぼ決まっている、とも言えるのではないでしょうか。そんな状態で【意識的に】指・身体を動かそうとしても、その動作内容は急に変えられないため、「思い通りに身体が動かない」と考えてしまうわけです。

この【無意識のうちに】動作準備をしている動作内容自体を【意識的に】無理やり書き換えようとすると【ジストニア】という症状が出てしまうのではないか…と考えていますが、その話はここでは割愛します。

ここまでをまとめると、人間は、自身がある動作を【意識する】ちょっと前に、その動作準備を【無意識のうちに】作っていて、それを実行して身体を動かしている。動作内容は自分が【意識】する前から作っているので、いきなり【意識的に】身体をコントロールすることはできない、というわけです。

もうちょっと簡単に言うと、動作が始まる0.5秒前にはすでに【無意識のうちに】動作準備が始まっています。動作するときはその動作準備通りに身体を動かしているだけなので、どう頑張っても動作中の動きは【意識的に】変えられない(動作準備をする時間を作れない)、ということになります。

これを知ったときには、マジで鳥肌が立ちました(ちなみに、鳥肌は随意運動ではなく、【反射】の運動なので、これらの考え方とは違う方法で身体に現れます)。だって、これちょっと怖いですよね。【意識による動作】が、脳内の【無意識】に支配されているとも言えるんですよ!でも、よくよく考えると、ある動作の準備は【無意識のうちに】作られるので、「無意識のうちに○○してた」とか「酔っぱらってたけど、気付いたらちゃんと家に帰ってた(ぇ」というのは、【無意識のうちに】脳の機能を最大限利用していた、というわけですね。

それはさておき。。。では、我々はどうやったら、【無意識】に支配された【意識】的な動作を良くすることができるのでしょうか。ヒントは【無意識のうちに】準備される動作内容です。その動作準備の良い物だけを【意識的に】選択できれば、もしくは、その動作準備の内容自体を【意識的に】良いものにできればいいわけです。次はそれについて考えてみましょう。

人間が【意識的に】コントロールできるのは、動作の【遂行】と【中止】

人間の【意識的な】動作は、神経心理学の書籍『タッチ』によると…

随意運動の開始そのものは無意識のうちに行われ、運動の随意的コントロールというのは、随意運動を開始することではなく運動の選択やコントロールを行うことである。つまり、無意識に始まった運動のための神経過程をそのまま遂行したり、中止させたりすることである
だそうです。つまり…

人間の動作は【無意識のうちに】動作準備を始めており、【意識的に】身体の動作内容をコントロールすることはできませんが、その動作自体を【遂行】するのか、【中止】するのかは、【意識的に】決めることはできます。イメージとしてはこんな感じ(図4)。

図4. 脳内イメージ。無意識ゾーン内にいる動作イメージ、動作の実行前に【意識的に】開閉できる扉がある。

無意識ゾーンにいる動作内容(動作イメージ)を【遂行】させる場合は、扉を【意識的】に開け、その動作内容(動作イメージ)を通し、無意識ゾーンにいる動作内容(動作イメージ)を【中止】させる場合は、扉を【意識的】に閉め、その動作内容(動作イメージ)をブロックする、ということが【意識的】に出来ます(図5)。

図5. 扉は【意識的に】開閉でき、開けると動作の【遂行】、閉めると動作の【中止】がなされる。

これらの事実を総合すると、自分自身の動作を【意識的に】より良いものにするためには、以下の2つを同時にする必要があると考えられます(図6)。

図6. 【意識的に】動作をより良いものにする方法。
  1. 悪い動作イメージを意識的に「中止」させる(【抑制】・ノンドゥーイング)
  2. 無意識ゾーンにいる良い動作イメージを増やす(上向き思考の【方向性】)
もちろん、これらをやる前に、物事の良し悪し(【形成概念】)を知っておく必要がありますが…まずやるべきことは、自分自身の持っている悪いイメージの動作を【意識的に】「中止」させること。そして、それらを「中止」すると同時に、良い動作イメージを持ち続け、無意識ゾーンにいる良い動作イメージの数を増やすことを考えます。

そうすることで、実際の動作の前に【無意識のうちに】行われる動作準備の質が良くなり、実際の(【意識的】にはコントロールできない)動作に反映されるようになる、という流れです。この具体的な方法が、書籍『音楽家のための アレクサンダー・テクニーク入門』に書かれています。この書籍で、楽器演奏の上達に必要な流れについて、最初の方に書かれていたのが…

概念形成 → 抑制 → 方向性 → 行為
という方法。なんと、上記の考え方にピッタリとマッチングしています(というか、マッチングするのかな?と考えてみたら、寸分狂わずピッタリ合致していた…という方が正しいかな)。このように、「アレクサンダー・テクニーク」は神経心理学の分野とも密接に関わっているように感じます。だから独学では理解に苦しむのだろうけど…

人間の動作の自動化

さて、ここでちょっと気になるのは、自分の意思で身体を動かそうとしているときの運動がすべて上記の手順を踏んでいるのか?ということ。少し考えればわかりますが…普通に歩いている状態は、いちいち「歩こう!右足!左足!」という風に【意識的に】考えることなく、完全に【無意識に】身体が進んでいるのを感じるかと思われます。これはなぜなんでしょうか。

小脳の働き = 一連の動作を一塊に保存・自動化

この内容も結構濃くなりそうなので、ここでは簡単に述べておきます。完全に【無意識に】身体が動くとき、実は、その前に小脳がその一連の動作を一塊にして保存していて、必要な時にその一連の動作を自動的に再生させているんです(参考: yochiのWeb 小脳の内部モデル)。これを巷では【慣れ】と言います。その動作が悪い場合は、【(変な)癖】や【(悪い)習慣】とも呼ばれるでしょう。

完全に【無意識に】良い動作が行われるようにするためには、小脳にその良い動作を保存してくれればいいわけですから…小脳が良い動作を保存してくれるまで、その良い動作を続けていればいいんです。非常に単純ですが、ここにも重要なポイントがあります。

続ける動作は、常に【良い】ものでなければなりません。巷でよく言われる「とにかく反復練習」「とりあえずハノン」「まずはゆっくり練習を続けて」なんて悪影響でしかない、ということは、ここまでくればすぐにわかるでしょう。どんなに練習しても、そもそも【脳内】に良い動作イメージがなければ意味がないし、適当に練習していると、その適当さが小脳に保存されてしまいます。これでは良い練習とは言えないでしょう。

ただし、【ミス】することは別です。小脳に動作が保存されないように【ミス】をすること自体を避けよう!と思う方は結構いらっしゃると思います。でもそれは、【ミス】し続けることが悪いんじゃなくて、その【ミス】を解析せずに放っておく行為、蓋をする行為、避ける行為が悪いんです。そのような【ミス】をぞんざいに扱う行為を続けていると、その行為をすること自体が小脳に保存され、逆に【ミス】を誘発させてしまいます。

まとめ

長くなりましたが…上記を踏まえて、楽器奏者として、もしくはスポーツするにあたって、どんなことをすればいいのか簡単にまとめます。

  1. 人間の動作は【意識的に】コントロールできない
    1. 【形成概念】物事の良し悪しを学ぶ
    2. 【抑制】悪い動作イメージを【意識的に】「中止」させる
    3. 【方向性】良い動作イメージを持ち続ける
    4. 【行為】自然に(いつの間にか)良い動作が開始される
  2. 小脳の働きによって一連の動作は一塊に保存され自動化される
    1. 「とりあえず…」という考えをやめること
    2. 【ミス】をぞんざいに扱う行為がダメ
これらの考えがしっかりできていれば、人間の脳から(神経心理学の分野から)見たら、誰でも絶対に上達できる…と考えられそうです。

この次も、もうちょっと神経心理学の考えをまとめをさせてください。次は、人間の【意識的な】動作のちょっと前に、【無意識のうちに】作っている情報は何なのか、を楽器演奏・スポーツに絡めて記事にしたいと思います。

では。

P.S.
人間の意識と無意識について、もっといいたとえをしているブログがありましたので、ご紹介しておきます。

無意識を知ろう♪極楽とんぼの精神分析学入門

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