特集7: 「ゆっくり弾く練習」は速く弾くために有効か
こんにちは、リトピです。
今回は、「ゆっくり弾く練習」についてです。本記事は、その練習は、速く弾くためには、「ゆっくり弾く練習」は有効なのでしょうか、というお話。結構長い記事 & ちょっと(だいぶ?)深い内容になっていますので、もしご興味があれば、お時間がたっぷりあるときにお読みください。
(本件を、当記事より簡単に理解できそうな記事特集を作りました。→「「ゆっくり弾くこと」の罠」)
「えっ、今更何を…?有効に決まってるじゃん!」と皆さんお思いでしょう。恐らく皆さんは当たり前のように、速く弾けるようにするために、まず「ゆっくり弾く練習」しなきゃ!と考えているでしょうから。えぇ、みんな確実にやっているだろうし、その練習方法は誰もが推奨しているでしょう。
しかし、またしても私の主張はあまのじゃくです。先に結論を述べます。
「…さすがにそれはおかしーんじゃねーの?」「じゃあ、今まで私たちがやってきた練習はなんだっていうの!?」という声が聞こえてきそうですね。ただ…私も別に好きであまのじゃく発言をしているわけではありません。キチンとした理論―今回は「制御工学」的な考え方を応用―によってそういう結論が出てしまっただけなんですから。。。
動作の「慣れ」を獲得する方法
っと失礼、前置きが長くなりました。では、なぜ、「ゆっくり弾く練習」が、速く弾けることに全然結びつかない、という結論に至ったのか…気になった方は、以下お付き合いください。
【ピアノが弾ける】状態とは
「ゆっくり弾く練習」~の内容に取りかかる前に、そもそも【ピアノが弾ける】状態とはどういうことか考えてみましょう。ピアノの上達には人間の脳の大脳にある【前頭葉】(特にそのうちの【高次運動野】)の機能が向上すること、というお話を記事「特集6: 「神経心理学」からピアノ練習方法を学ぶ」でご紹介しましたね。
これは、【意識的に】動作をする随意運動(「自己の意思あるいは意図に基づく運動」のこと(wiki調べ))でした。しかし…動作するときはいつも【意識的に】行っているわけではありません。「歩く」「自転車をこぐ」という動作・行為は完全に【無意識】に行われています。つまり、歩くときは、いちいち「よし、歩こう!右足!左足!…」なんて【意識】しないですよね?
この、わざわざ【意識】しない動作のことを、我々は「慣れ」と呼んだりします(動作が悪い場合は「(変な)癖」「(悪い)習慣」なんて言ったりしますが…)。ピアノを弾く際、この動作の「慣れ」を獲得できた状態を【ピアノが弾ける】状態と呼びましょう。さて、この状態はどこから来るのでしょうか。
「慣れ」を形成するのは小脳の働き
記事「コラム6: 人間の動作の意識、無意識と自動化」で小脳の働きについてちょこっとお話ししましたが、動作の「慣れ」、つまり【ピアノが弾ける】状態は、人間の動作の自動化の一種であり、頭の後ろ側・下の方にある小脳が大きく関わっていることがわかります(参考: 脳の仕組みを図入りで詳しく解説)。そのため、今回は小脳の機能から話を進めていきましょう。
小脳と聞くと…スターフォックス64のアンドルフ(本物)の第2形態目の弱点を思い浮かべますが(ぇ)、それはさておき。小脳の機能は主に以下の3つと言われています(参考: 脳のお勉強会)。
- 運動機能(姿勢反射、随意運動)の調整
- 体で覚える
- 大脳の思考をコピーして保持する
今回大事なのは、小脳の機能の「体で覚える」という部分。これが、いわゆる「慣れ」になりますが…我々は、「体で覚える」や「慣れ」をどうやって獲得しているのでしょうか?キーワードは以下の2つ。(ちなみに、「慣れ」の獲得のことを【学習】と呼びます。)
- フィードバック制御(前に得たの動作結果を次の動作に活かす)
- フィードフォワード制御(あらかじめ次の動作を予測)
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図1. 大脳と小脳の動作に関するブロック図 |
フィードバック制御による学習: 「慣れ」の獲得
慣れない動作を行うときは、【意識的に】動作させます。その時、図2の経路を通りますが、これがフィードバック制御(前の動作結果を次の動作に活かせるように、入力側に動作結果に戻す機構)になっています。その動作指令の流れが小脳にもつながっていますが、それがフィードバック制御による学習、つまり「慣れ」の獲得が行われるサイクルです。
このサイクル(【意識的な】動作)が繰り返されることで、小脳にその動作の情報が蓄えられていきます。その情報が小脳に十分に蓄えられて初めて、小脳による動作の自動化、つまり、その動作に「慣れ」ます。「体で覚える」とは、そのサイクルを繰り返すこと、というわけですね。
なお、この【前の動作結果を入力側に戻す】というフィードバック情報を利用した動作は、必ず【遅れ】(前の動作結果が戻って来るまで次の動作ができないという状況)が発生します。この【遅れ】は後々重要になるので、頭の片隅に入れておいてください。なお、フィードバックは50 ms以上の時間かかるそうです(参考: 内部モデル学習制御と腕の柔らかさ調節の統合に関して)。
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図2. フィードバック制御による学習 |
フィードフォワード制御: 「慣れ」による動作
さて、小脳にある動作の情報が十分に蓄えられると、ある動作を行うときは図3の経路を通るようになります。これが「慣れ」による動作です。小脳が学習することで、いちいち前の動作結果を待つことなく(【意識的な】動作をすることなく)、動作の内容を実行できるようになります。
イメージとしては、大脳を含むフィードバックのループをすっ飛ばして、小脳で動作指令を出しちゃいます(本当は、小脳自体に動作指令を出せる機能はないので運動野と連携しています)。このとき、フィードバック制御と違い、前の結果が戻って来るのを待つ必要がなくなるため、動作の【遅れ】は生じなくなります。
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図3. フィードフォワード制御による動作の流れ |
「ゆっくり弾く練習」は速く弾く練習にならない
基礎的な話はここまで。これで、ようやく本題に入れます。うーん、長かった…。でもここで、「このような理屈なんて、知っても意味ないでしょー」「練習はやってナンボでしょう」と思う方もいると思います。
でも、それは少々違うでしょう。このような理屈・人間の構造やシステムを知ることで、【何が(人間の脳に)良い練習】で【何が(人間の脳に)悪い(合っていない、効率の悪い)練習】なのかが明確化します。つまり、それらの知識を得ることによって、効率の良い練習を【意識的に】取り入れることができ、それと同時に、効率の悪い練習を【意識的に】排除することができます。
これは、「練習の効率化を探すこと」でもあり、「何も考えずに、とりあえず、がむしゃらに練習を続ける」ということより、このような理屈を考える方がよっぽど意味のあることだと思いませんか。
ピアノ演奏の「慣れ」の獲得と「慣れ」による演奏
では、上記で学んだ「大脳-小脳の働き」をピアノ演奏に応用してみましょう。ここでは、記事「特集6: 「神経心理学」からピアノ練習方法を学ぶ」で紹介した、時系列で並べたピアノ演奏動作(図4)が理解の役に立ちそうなので、利用してみます。ここでは、今の打鍵動作の前に、1度同じ打鍵動作をしている、とします。
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図4. 時系列で並べたピアノ演奏動作(簡易版) |
フィードバック制御による打鍵動作の学習
その打鍵動作の「慣れ」の獲得は図5のように行われるでしょう。なお、前の打鍵内容の動作結果はすでに大脳に送られているとします。その前の動作結果を、次に打鍵するための動作指令に反映させます。
例えば、前の打鍵に誤差(ミスタッチなど)があれば、大脳(運動野)で修正をかけ、新たな(誤差のない)打鍵動作の指令を出力します。その新たな打鍵動作の情報が小脳に送られ、学習される、という流れになっています。
その今の動作結果も当然入力側に戻します。ピアノを弾いた後に聴こえてくる音も耳でキャッチして入力側に戻し、その情報を次の動作に活かそうとします。これのループを繰り返すことで、その(大脳から送られている)打鍵動作の情報が小脳に蓄えられます。これが打鍵動作の学習となります。
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図5. フィードバック制御による打鍵動作の学習 |
フィードフォワード制御による「慣れ」の打鍵動作
上記の動作を繰り返し、その打鍵動作を「身体で覚える」ことができた(小脳に十分の情報が蓄えられた)とき、【無意識】に行われるその打鍵動作は図6のように行われるはずです。この状態になったときを【ピアノが弾ける】状態と呼びましょう。
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図6. フィードフォワード制御による「慣れ」の打鍵動作 |
「ゆっくり弾く練習」による学習と「慣れ」の動作
では、速く弾きたいときに皆さんが行っている「ゆっくり弾く練習」はどのように学習されるか、見てみましょう。大抵「ゆっくり弾く練習」をする場合、まずは非常にゆっくり弾いて、少しずつ弾くスピードを上げていく…という図7のような練習方法をとると思います。なぜ、この練習方法が速く弾くことにまったくつながらないのか、今までの知識を用いて考えてみましょう。
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図7. (a)ゆっくり弾く練習。少しずつ演奏速度を上げて、インテンポである(b)に近づけていく練習スタイルが、昨今ピアノ界で流行っている |
「ゆっくり弾く練習」の学習1: ゆっくり弾く
速いフレーズ【ドレ…】を、1音1音ゆっくりと【意識的に】弾く練習、つまり【ド】・・・・【レ】・・・・と弾く練習をした場合、我々の脳内では図8のような学習が行われるでしょう。
ゆっくり弾いているときの2音目は、最初の1音目(ド)を弾いたときの動作結果(身体の状態、ピアノから出る音など)が十分大脳にフィードバックされた後で演奏が開始されます。つまり、その2音目を弾く動作は、1音目を弾いたときの動作を反映(誤差などを消去)した形で現れます。
おぉ、キチンと誤差がなくなっているので、このフィードバック制御による学習(小脳に蓄えられる情報)は良さそう…に見えますが、実は全然ダメなんです。
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図8. 「ゆっくり弾く練習」の初期段階。非常にゆっくり弾いているので、キチンとフィードバック情報が得られ、キチンと処理されている。 |
「ゆっくり弾く練習」の学習2: 段々弾くスピードを速くしてみる
さて、「ゆっくり弾く練習」の最大の特徴は、、そのように1音1音ゆっくりと【意識的に】弾きつつ、その弾く速度を少しずつ上げていく、ということですよね。しかし、ここで皆さんは次のことを絶対に経験しているはずです。
「うーん、インテンポにすると急に弾けなくなる…」
これが「ゆっくり弾く練習」が速く弾くことに全く有効でない理由につながります。さぁ、上記と同じくこの学習状況がどうなっているか見てみましょう(図9)。
演奏動作がある速度を超えたとき、「ゆっくり弾く練習」の学習1(1音1音ゆっくりと【意識的に】弾く練習)の恩恵である【前の動作のフィードバック】が得られない、もしくはそれが大脳で処理しきれない、という状況が必ずやってきます。その状況になる演奏スピードに達したとき、「あれ、これ以上速くするとうまく弾けない…」と感じるわけです。この状況は、小脳にも蓄えられてしまうわけですから、練習としては最悪ですね。。。
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図9. 「ゆっくり弾く練習」の途中段階。速い演奏になってきたので、1音ずつのフィードバック情報が得られない、大脳での処理が追いつかない、などが起こる。 |
「ゆっくり弾く練習」の「慣れ」は、速く弾くときに利用できるのか
ここで…「だったら、「ゆっくり弾く練習」の学習1で獲得できた「慣れ」を、速く弾くときに利用すれば、「ゆっくり弾く練習」は意味のある事になるじゃん!」と考える人もいるでしょう。
でも…それ、おかしいと思いませんか?小脳の働きを思い出してみてください。「運動機能(姿勢反射、随意運動)の調整」があるものの、それは単なる調整でお終いです。本当に会得したい【無意識】に動作できる状態、というのは「体で覚える」ですから。
これをわかりやすくします。「ゆっくり弾く練習」の学習1で学習できた動作は【ドの動作のフィードバックをもらった状態でのレの動作】、つまり【ゆっくり弾くこと】です。大脳による【意識的な】動作の中で【速く弾くこと】をしていないので、【速く弾く動作】をしたいといきなり言われても、小脳は図10のように困ってしまう…というわけです。
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図10. 「ゆっくり弾く練習」による学習を利用して、小脳に【速く弾くこと】をさせようとした場合。小脳はそんな動作を蓄えていないので、当然【無意識】による動作はできない。 |
速く弾くためには「速く弾く練習」が必要
そういえば、小脳の働きの3つ目は「大脳の思考をコピーして保持する」、でしたよね。これは、小脳は大脳以上のことは出来ない…とも言えそうですね。と、いうことは、【速く弾くこと】を【無意識に】行う、つまり、小脳に【速く弾くこと】をやらせたいのであれば、大脳側(フィードバック側)で「速く弾く練習」をしなければならない、ということが導けます。
この「大脳-小脳の働き」に沿った、効率の良い練習方法を以下の図11に示します。「ゆっくり弾く練習」では、【ド】【レ】…と1音1音ゆっくりと【意識的に】弾きましたが、ここでは最初から速く【ドレ…】という【1フレーズのかたまり】をまとめて弾きます。(なお、スピードが速すぎる場合は【弾きやすいスピード】で、フレーズが長すぎる場合は、より細かく分割すると良いです。)
なぜ、このよう【1フレーズのかたまり】で捉えるかというと…そもそも、「ゆっくり弾く練習」でダメな部分は、少しずつ速くしていったときに、あるところで【1音ずつのフィードバック情報が得られない、大脳での処理が追いつかない】状態になってしまうからです。これは、そもそも音を1音ずつ扱っていたのが原因です。速く弾くためには、音全体を【1フレーズのかたまり】と捉えなければなりません。
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図11. 【ドレ…】を速く弾くための練習方法 |
「速く弾く練習」の学習
では、図11の練習方法を行ったときの「大脳-小脳の働き」を見てみましょう。まずは、そのフィードバック制御による学習です(図12)。図11のような練習方法を行うことで、1回目の【1フレーズのかたまり】の練習結果を、次の【1フレーズのかたまり】の練習に活かすことができます。
大脳が前回の練習結果をうまく生かすことができれば、2回目以降の練習動作がより良いものになり、その時の情報が小脳にドンドン蓄えられていきます。これは良い流れですね。
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図12. 【ドレ…】を速く弾くための練習方法を利用した学習 |
「速く弾く練習」によって獲得した「慣れ」による動作
上記で、良い流れの学習ができた(小脳に良い情報がドンドン蓄えられた)わけですから、小脳を介した動作、いわゆる「慣れ」による動作は当然良いものになります(図13)。
これはもう説明不要ですかね。上記のような「速く弾く練習」を続け、その動作を学習させることで、最終的に小脳による【無意識な】速い演奏が可能になる、というわけです。
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図13. 【ドレ…】を速く弾くための練習によって「体が覚えた」状態になったとき |
番外1: 長いフレーズの練習
ちなみに、この「大脳-小脳の働き」がわかると、長いフレーズの練習にも応用できます。長いフレーズ練習の最初では、途中でつまづいたり、途切れたりすることありますよね。
それは、フィードバック制御による学習におこる動作の遅れ(フィードバックの遅れによるもの)があるからでしょう。つまり、長いフレーズを一度に弾こうとすると、学習するためのフィードバックの処理が追いつかなくなります。それがつまづきや途切れとして現れる…と考えています。
長いフレーズの練習でも、演奏速度が速ければ当然「ゆっくり弾く練習」に意味がありません。最も効率の良い練習方法は、その長いフレーズを分割して練習することです。長いフレーズでつまづく理由がフィードバック制御による動作の【遅れ】であるとするならば、その動作の【遅れ】がないフィードフォワード制御、つまり、小脳に長いフレーズを任せるしかありません。
分割したフレーズを練習し、小脳にそれらの動作が蓄えられた後、その分割されたフレーズ1つ1つが小脳で動作できるようになる(フィードフォワード制御に変わる)と、それらの動作の遅れがなくなるため、長いフレーズもスラスラ弾けるようになる…というわけです。
番外2: 【ミスタッチ】は小脳に蓄積されてしまうのか
ピアノ演奏で気になるのは、いろいろあると思いますが、その代表が【ミスタッチ】だと思います。小脳が動作の情報を蓄えるということは、その【ミスタッチ】も繰り返すと蓄えられてしまうのでしょうか…だとすると、みなさんが「ミスタッチしたくない!」と思うのは至極普通のことでしょう。
【ミスタッチ】を恐れている場合の学習
記事「コラム6: 人間の動作の意識、無意識と自動化」では、以下のお話をしました。
小脳に動作が保存されないように【ミス】をすること自体を避けよう!と思う方は結構いらっしゃると思います。でもそれは、【ミス】し続けることが悪いんじゃなくて、その【ミス】を解析せずに放っておく行為、蓋をする行為、避ける行為が悪いんです。そのような【ミス】をぞんざいに扱う行為を続けていると、その行為をすること自体が小脳に保存され、逆に【ミス】を誘発させてしまいます。これを図解します。図14を見てください。アナタ自身が「ミスしたくない!」と強く願う【だけ】であれば、何も変わりません。小脳も「大脳の思考をコピーして保持する」ので、小脳自体も「ミスしたくない!」と強く願う【だけ】になってしまうでしょう。これでは負の練習スパイラルに陥るだけで、何にも変わりませんね。。。
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図14. 【ミスタッチ】をぞんざいに扱う人の「大脳-小脳の働き」 |
【ミスタッチ】をキチンと分析した場合
では逆に、【ミスタッチ】に向き合い、キチンと分析した場合はどうなるのでしょうか(参考: 『ミスタッチを恐れるな』)。図15が1回目の演奏、図16が2回目以降の練習です。【ミスタッチ】をきちんと分析していれば、2回目以降に【同じミス】はしなくなるので、少なくとも1回目と同じ【ミスタッチ】の動作情報は、もう小脳に蓄積されません。
お分かりだとは思いますが、小脳に蓄積されるのは動作の結果ではなく、大脳から出される動作指令の情報です。【ミスタッチ】をしても、キチンと分析していれば、次第に【ミスタッチ】は起きなくなり、その良い状況が小脳に蓄積されていきます。
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図15. 1回目の練習。当然その時のミスタッチの情報は小脳にも送られるが… |
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図16. 2回目以降の練習。キチンと【ミスタッチ】を分析していれば、大脳からの動作指令は次第に良いものになる。 |
まとめ
今回は図をふんだんに使って、頑張ってわかりやすく(?)タイトルの内容について解説してみました。以下、そのまとめです。
- ピアノが弾ける状態 = 小脳に動作指令を任せている
- フィードフォワード制御のこと
- #1の状態を得るためには、【意識して】練習することが必要
- フィードバック制御による学習のこと
- 記事「特集6: 「神経心理学」からピアノ練習方法を学ぶ」の内容を駆使しすべし!
- 「ゆっくり弾く練習」をしても無駄。やるなら「速く弾く練習」を。
- 小脳は大脳以上のことはできないため
- 長いフレーズの練習は分割することがベスト
- 【ミスタッチ】は身体に染みつかない
- ただし、キチンと分析をすること
- 小脳に蓄積・コピーされるのは「ミスをぞんざいに扱う行為」
えっ…「ゆっくり弾く練習」で速く弾けるようになったけど?
…それは「ゆっくり弾く練習」によって速く弾けるようになったのではなく、「速く弾くにはどうすればいいのか?」という考えから「たくさんいろいろ弾いてみる」という試みを通して「速く弾く方法」が身に付いてきたからだ、と私は推測しています。つまり、速く弾けるようになった背景に「ゆっくり弾く練習」は全く関係ありません。
なぜなら…例えば、自転車で速くこぐとき、「立ちこぎ」をすると思いますが、それって、「ゆっくり自転車をごく練習」をして身に付いたものですか?また、短距離走でスタートを速くする「クラウチング・スタート」は、「ゆっくりスタートする練習」から生まれたものですか?
どれも違うでしょう。「立ちこぎ」も「クラウチング・スタート」も、「どうすればその動作が速くなるか?」を追求して出てきたもののはず。ピアノも考えるべきは「どうすればその動作が速くなるか?」ではないでしょうか。
では。
P.S.1
たまに…「私、運動神経がないの」と言うのを聞きますが、どうやら【運動神経】という神経は存在しないそうです。運動がうまくできないのは、【無意識な】動作ができていない、つまり小脳がうまく機能していない、という状態だそうです(参考: Sports Medical & Mental Coach)。
また、小脳はアルコールに弱いそうで、酔っぱらうと千鳥足になってしまうのは、小脳の機能が低下し、運動機能(姿勢反射、随意運動)の調整が効かなくなるから、だそうです(参考: 稲村脳神経外科クリニック)。
P.S.2
この「大脳-小脳の働き」のモデルは、なんとロボット工学にも応用されています(参考: 人間学習システム研究室 福井大学 大学院 知能システム工学専攻)。【ロボット自身】が動作のフィードバック制御による学習を行い、その学習した情報を基に【ロボット自身】がフィードフォワード制御により高精度な動作を実現させています。いやぁ、科学ってスゴイですね。
お礼の気持ちを伝えさせてください。
返信削除5歳から中学生くらいまでピアノを習い、ソナタ程度を最後に遠ざかっていましたが、30年近くたってポップスのピアノソロがやりたくなった者です。先日のTEPPENも影響ありです。
かつてそうであったように、右手を練習し、左手を練習し、両手にしてゆっくり練習し、だんだん速くしていくというステップを踏んでいたのですが、ある程度のところで必ず頭打ちになり、さらにゆっくりにして練習するのですがどうやっても上達しないんです。
で、昨日こちらのサイトにたどりつき、ゆっくり練習の部分全部読みました。
ミスしてもいいから、自分が弾きたい速度を意識して両手でどんどん弾いていくことにしたところ、経験したことのない上達スピードを感じることができました。脳からのピアノ練習方法へのアプローチ、知ることができてとてもよかったです。子どものときに出会いたかったです。
お礼のコメントありがとうございます。
削除TEPPENという番組は、ピアノ弾きにとって結構良い刺激になりますね。ピアノ再開ということで…お帰りなさいませ!
当記事を読まれて「経験したことのない上達スピードを感じることができました」というコメントをいただけて、私も大変嬉しいです。
実は「ミスをすることで成長する」という考え方は、楽器練習以外では(?)一般的な考え方なんです。この考え方は、スポーツはもちろんのこと、子どもの成長過程や経済にまで発展しています(ご興味があれば書籍『失敗の科学』を読まれると良いと思います。この書籍は非常に勉強になりました)。なぜ、楽器練習ではその成長に大事な「ミス」が粗末に扱われているのだろうか…といつも不思議に思っています。
さて、私の書いた「ゆっくり練習」関連の記事ではハッキリとは説明していませんが、これらの内容は【いかに良質なミスをするか?】がポイントになっています。是非これからも「良質なミス」を重ねて、そのミスを楽しみながら、どんどん成長していってください。
> えっ…「ゆっくり弾く練習」で速く弾けるようになったけど?
返信削除> …それは「ゆっくり弾く練習」によって速
> く弾けるようになったのではなく、「速く
> 弾くにはどうすればいいのか?」という考
> えから「たくさんいろいろ弾いてみる」と
> いう試みを通して「速く弾く方法」が身に
> 付いてきたからだ、と私は推測しています。
を受けて
> 速く弾けるようになった背景に「ゆっくり
> 弾く練習」は全く関係ありません。
と書いていますが、「ゆっくり弾く練習」は
「たくさんいろいろ弾いてみる」の一例です
から、「全く関係ありません」とは言えない
かと思います。(もしかして、ここで言う
「たくさんいろいろ弾いてみる」には「ゆっ
くり弾く」が【全く】含まれていない、とい
うこと? いろいろ弾く際には、本来よりも
多少なりともスピードを落として弾くのが普
通なように思いますが…。)
さらにこれを受けて
> なぜなら…例えば、自転車で速くこぐとき、
> 「立ちこぎ」をすると思いますが、それっ
> て、「ゆっくり自転車をごく練習」をして
> 身に付いたものですか?
と書いていますが、これは「確証バイアス」
の気配がありますね。自転車の練習で反証を
挙げたいのであれば、例えば「自転車の練習
で、体をゆっくり動かして確認することは、
【全く】ない」などを立証していくのが妥当
ではないでしょうか。
ところで、「「脱力」という非常にあいまい
な表現をなくし」と標榜していますが、「あ
いまいさが無いのが、理想の姿」と決めてか
かるのは、それ以外の可能性 (その中には真
理が含まれているかもしれない) を排除して
しまい、危険かと思います。(権威を振りか
ざして煙に巻くような議論は無くなれば良い
ですが、それを無くすために別の権威を振り
かざしてしまっては、元も子も無くなります。)
コメント、ありがとうございます。
削除ゆっくり弾くことが「多様性練習」になりうる、というのは別記事(「「ゆっくり弾くこと」の罠8: 「ゆっくり練習」の良い点?」http://lppianolife.blogspot.com/2017/02/8.html)で書いておりますが、ここではそれに触れていないので、そう思われても仕方がないと思います。ご指摘ありがとうございます。
また、「本来よりも多少なりともスピードを落として弾くのが普通」な点には当然同意です。しかし、よく言われている「ゆっくり練習」は「退屈なほどに非常にゆっくりなテンポで」と言われているのが常だ、と少なくとも私は感じています。
「確証バイアス」、ご指摘ありがとうございます。なるべく気を付けているつもりですが、やはり全てのバイアスを取り除く、というのはいくら理系とはいえ、人間だから難しいですね。。。
最後のコメントについて。
当ブログは、「脱力」という曖昧な表現を用いて「ピアノを弾く」という真理の追究から【逃げている】錚々たる肩書きを持つ人達に喝を入れたい、というのが根底にあります。彼らの言う「脱力」は、わかり難い言葉で人を釣り、自身のセミナーで儲けるための道具、という印象しか受けません。正直なところ、彼らのせいで日本のピアノ演奏技術は海外に比べてはるかに遅れているといっても過言ではない、と私は思っています。
そこで私は、不変の原理原則や最新の研究結果から引用・考察して、そういった非常にあいまいな表現をなくし、真理を追究しようとしていますが……この「不変の原理原則や最新の研究結果」を別の権威と言われたら、それこそ元も子もないです。確かに、研究内容や結果の考察に不備はある可能性は十分すぎるほどありえますが、少なくとも、その実験で得られた測定値は紛れもない事実です。それらは、彼らの言う「脱力」という妄想よりは、はるかに信頼できる結果・データです。
そもそも、「脱力」という曖昧な表現を用いてその説明責任から【逃げる】ことのどこに、アナタ様の言う真理が含まれているのか、申し訳ないですが私にはわかり兼ねます。