特集2: プロは本当に「脱力」や指の「独立」をしているのか

公開日: 2016年1月3日日曜日 ピアノ 持論

こんにちは、リトピです。

皆さんは、プロの演奏を【見て】、以下のことを感じることはありませんか。

  • 軽やかな演奏 → 力を抜いている → 「脱力」している!
  • 音が均一で粒がそろっている → 各指の力が均一かつバラバラに動いている → 指が「独立」している!
それで「プロは「脱力」や指の「独立」をしている!」と断言してしまうことがありますが…その判断って本当に正しいのでしょうか?というのが今回のお話。

人間の感覚は「ずさん」である

2つの線の長さ、下の方が長い?

早速ですが、以下の図1を【見て】ください。

図1. ミュラー・リヤー錯視
これを「下の方が長い!」と断言する…なんて人は今時いないですよね。でも、どう【見て】も下の方が長いのに、なぜ「下の方が長い!」と断言する人はいないのでしょうか。。。

明確に違うと言える【知識】がある

皆さんはもうご存知かと思いますが…あの図1は、有名な目の錯覚の絵の1つです。本当は2本の線の長さは同じであるという【知識】を持っているから、「下の方が長い!」という答えは明確に違うと言え、「下の方が長い【ように見える】だけ」と言えるんですよね。

これが目の錯覚であり、人間の感覚が「ずさん」である一つの良い例です(ここでは視覚が「ずさん」である、という例)。でもなぜ、どう【見て】も下の方が長いと感じるのに、その2本の線の長さは「下の方が長い【ように見える】だけ」と我々は理解出来るのでしょうか。

その【知識】は【内部まで調べる】から得られる

図1の2本の線の長さは、「下の方が長い【ように見える】だけ」で本当は同じである、と明確に言える【知識】を持つために、実際に2つの図形を重ねてみたり、それぞれの長さを測ったりと、皆さんは視覚だけに頼らず、【内部まで調べる】ことを行っていたはずです。その結果から得られた事実が【知識】となり、その【知識】のおかげで、「【見て】た感覚と、実際の結果は違う」という判断できるわけです。

目の錯覚が「脱力」や指の「独立」と誤認させる

これは、プロの演奏を【見た】ときも同様です。「プロは「脱力」や指の「独立」をしている!」と思ったとしても、本当は「「脱力」や指の「独立」をしている【ように見える】だけ」かもしれません。これが本当かどうかを判断するための【知識】を得るためには、実際に【内部まで調べる】ことをしてみないと、本当にプロが「脱力」や指の「独立」をしているのか、もしくは違うのかどうかがわかりません。

つまり、自信をもって「プロは「脱力」や指の「独立」している!」と断言する人は…

  1. 単に【知識】がなく目の錯覚に騙され、見た目通りに信じ込んでいる人
  2. キチンと【内部まで調べる】ことをして得た【知識】を持って判断した人
このどちらかでしょう(でも#2の人はいないと思う。そこまで調べたら「脱力」や指の「独立」なんて言えないはず)。アナタがプロの演奏を【見て】感じたものに対して、そのまま「プロは「脱力」や指の「独立」をしている!」と断言する前に、図1での判断同様、キチンと【内部まで調べる】こと(人間の身体の構造、打鍵のメカニズムや物理学、脳と筋肉などの関係、(神経)心理学などの調査)をしてみましたか?

私が【内部まで調べる】ことをした結果、プロの演奏を【見た】ときに感じるものは単なる目の錯覚で、本当は「「脱力」や指の「独立」をしている【ように見える】だけ」だとわかりました。理由は以下の通り。

  1. プロは「脱力」している【ように見える】だけ
  2. プロは指の「独立」をしている【ように見える】だけ
*特定の指(親指など)や特定の関節(MP関節)は除く

これらは身体の大きさも考えも違う人それぞれの意見・感覚ではなく、(少なくとも現時点では)れっきとした事実です。恐らく、この事実はほとんど覆ることなく、キチンと【内部まで調べる】と誰もが同じ結果にたどり着くはずだと推測しています。

どういう【目標】を立てるべきか

今まで、「脱力」や指の「独立」を【目標】に練習に励んできたと思いますが、それは目の錯覚などによる、人間の「ずさんな感覚意識」が作り出した幻想だった、ということがこれでわかったと思います。では、これからはどういう【目標】を立てればよいのでしょうか。

最初に行うべきことは、【自分の感覚】(視覚・聴覚・触覚など)は「まったく利用しないこと」です。何にも鍛えられていない「ずさんな」感覚は、利用してはいけません。最初からにそんなのを利用したら、今回のように「脱力」や指の「独立」といった間違った結果が得られるに決まってます。後々、自分の感覚を意識的に鍛え、本当に正しい(事実との差異がほとんどない)と信じられるものになったときに始めて、正しい【自分の感覚】を信じるのがベストでしょう。

×「脱力」 ○腕を「支える」

軽やかな演奏を行えるのは、腕の「支え」があるからです。まずは、腕を「支える」ことを【目標】にしましょう(書籍『ピアノを弾く手』を参照)。

ただ、それで得られる「楽だ」という状態を、「脱力」と誤認しないようにお気を付けください。(重力に負けないように)腕を支えるために力を使っているので、「脱力」という言葉は、ピアノにおいて全然ふさわしい言葉ではないです。(詳細は、記事「番外編1: なぜ人は「脱力」できたと思うのか」を参照)

×指の「独立」 ○指の「調和」

各指がバラバラに動いている【ように見える】動きをするためには、全くバラバラになっていない指の神経や筋肉の「調和」を【目標】にすることが大変大事です。もし指の「独立」を目指そうものなら、長さも太さも構造も違う各指を均一にするために「鍛える」という誤った練習を行ってしまう可能性が高いので、絶対にやめましょう。(詳細は、記事「ピアノ・コラム1: 指は「独立」ではなく「調和」させるべし」を参照)

音が均一で粒がそろっている演奏をするには、各指の力が均一かつバラバラに動ける必要はなく(そもそもそんな状態は人間には不可能)、身体の「コーディネート」をうまく利用すればすぐに解決します。(詳細は、記事「お悩み相談室1: 薬指、小指が弱くて弾きにくいのですが…」を参照)

まとめ

以下、今回の要約と教訓です。

  • 「脱力」や指の「独立」は人間の「ずさんな感覚意識」によって作られた幻想
  • まず信じるのは感覚ではなく事実(でも今後信じれるように感覚を意識的に鍛える努力はしましょう)
  • ダメな【目標】は、ダメな練習課題を作り、最終的に手や腕をダメにしてしまう
間違った【目標】である「脱力」や指の「独立」という考えを捨てる、正しい【目標】を立てていけば、良い練習方法が見つかり、ケガをすることなく演奏技術も向上しながらピアノを弾き続けられるようになりますよ。

では。

P.S.1
ちなみに、図1の2本の長さが違うように見えない人種もいるそうです。これは、目自体が錯覚を起こすのではなく、目から得た情報を処理する部分が(今までの経験から導き出した答えで)錯覚を起こす、という考えの心理学の分野だそうです。

P.S.2
なお、人間の感覚が「ずさん」なのは何も視覚だけではありません。全ての感覚についても「ずさん」です。

  • 寝るときに時計の針の音が気になるときがありますが、普段、何かしているときではどうでしょう?
  • 夏に井戸の水を触ったとき、冬に井戸の水を触ったとき、水の温度はどう感じますか?
  • プリンだけを食べたときはプリンの味ですが、プリンと醤油を同時に食べたときの味は?
  • 人の部屋の匂い(臭い?)には敏感ですが、自分の部屋の匂い(臭い?)はどうでしょう?
ただ、この「ずさん」さは、すべてにおいて悪く働くわけではなく、人間としてうまく生きられるようにしているんだと思います。

P.S.3
ちなみに、このように「人はどのような認知や判断をしているか?」の考え方については、人間行動学の考えを基にしています。WISDOMの記事「行動経済学とは? ~理性と感情のダンス~」によれば、

脳内には判断・決定に関する2つのモードが存在する。前者は直感・感情に関するモードであり、後者は思考モードである。
システム1は、素早く、労力を必要とせず、無意識のうちに作動し、止めるのは難しいという性質を持つ。これに対してシステム2は、時間がかかり、努力やエネルギーを必要とし、意識しなければできない。「感じる」のは簡単だが「考える」のは難しいのだ。人間の判断や意思決定は、システム1とシステム2の共同作業でなされ、これを「理性と感情のダンス」と表現することもある。
とのことのようです。つまり今回は、システム1の「直感」で得た判断を修正すべくシステム2の「思考」を利用したわけです。ただ、これはよほど意識しなければできないものだと思います。なぜなら、自分の感覚(視覚に限らず、すべての感覚)がどんな状況でも「ずさん」であることを、まず認める必要があるのですから。。。
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