速弾き7ヶ条

公開日: 2020年2月26日水曜日 ピアノ ゆっくり弾く 持論

こんにちは、リトピです。

当ブログではピアノの弾き方について理系目線でアレコレ書いていますが、特に速弾きの方法について当記事でまとめます。

速弾き7ヶ条

はじめに

ピアノで「速弾き」、いわゆる「テクニックの強化」を謳うと、「ピアノは、ただ指が動けばいいってもんじゃない!」「そんなことよりも(感情)表現が大事だ!」などの批判があると思います。しかし、果たして「テクニック重視」というのはそこまで非難されるものなのでしょうか。

だって、いくら素晴らしい(感情)表現が頭の中にあっても、そもそも指が動かなければ、頭の中にある(感情)表現はピアノの音として現せられませんし、「指が速く動かせない = 軽快でスピーディな演奏や緩急をつけた演奏ができない = そういう表現ができない」ということにもなり兼ねません。

図1. どんなに良い音がイメージできても、実際にその音が出るように打鍵できなければ(その音が出せるような身体の使い方をしなければ)、イメージ通りの音は出ない

つまり、テクニックがないことによって表現の幅も制限されてしまう、ということです。これをうまく表現したのが、書籍『ピアノ・テクニックの科学』。この書籍の帯には…

テクニックは、テクニックそのものから解放されるためにこそ必要である

と、書かれています。例えば、高速オクターブ連打が苦手な場合。楽譜にその部分があれば、その曲の練習時間の大半が「高速オクターブ連打を弾く練習」に費やされてしまいます。

一方、「高速オクターブ連打」というテクニックを先に習得していれば、「高速オクターブ連打を弾く練習」から解放され、本来練習すべき「(感情)表現の付け方」に時間を費やすことができる、というのをこの文言で本書は訴えています。

図2. テクニックさえあれば、表現の練習に時間を費やすことができる

つまり、「速弾き」というテクニックの習得は、(感情)表現を付ける練習に素早く移行するために必要だと言えそうですね。また、速く弾ける速度が上がれば、通常速度の演奏でも心に余裕ができ、より(感情)表現に意識を置くことができる、という側面もありますから、特に初心者ピアノ弾きにとっては、「速弾き」の習得が急務とも言えるでしょう。

では早速、以下から速弾き7ヶ条を述べていきます。

概要と詳細

速弾きをするときに意識すべき点である、速弾き7ヶ条はコレだっ!!

    <速弾き7ヶ条>
  1. 「筋肉」ではなく【脳】を鍛えよ
  2. 指は、動かすタイミングを早めよ
  3. トレモロは、肘の前腕回転を利用せよ
  4. オクターブ連打は、肩・腕・指先の動きを協調せよ
  5. 練習初期では、ミスを恐れず思い切りを重視せよ
  6. 「ゆっくり練習」は練習終盤に行え
  7. 弾けないフレーズは【分割】せよ

以下で、一つずつ解説します。


速弾きのコツ1: 「筋肉」ではなく【脳】を鍛えよ

速く弾くために必要なこととして、巷でよく言われているのは「指を鍛えろ!」ということですが、05回 身体が動く仕組み (4)指を速く動かす脳の仕組み, ピアニストのための脳と身体の教科書によると、とある研究によって、

指の筋力と指を動かす速さとの間には相関がないことは既に実証されています

ということがわかっています。また、

指を速く動かすためには、指を動かすための神経細胞がたくさん必要
練習によって指をより速く動かせるようになるにつれて、活動する神経細胞の数が増えていく

とのことです。そのため、指の筋肉を鍛える代わりに、指を動かす指令を出す脳を鍛えるようにしましょう。

図3. 速弾きのために鍛えるべきは「筋肉」ではなく【脳】

しかし、残念ながら「指を動かすための神経細胞」は一朝一夕で増えていくものではありません。その代わり、

速く弾けるようになると、弾き方、すなわち身体の使い方も変わります。弾き方が変わるということは、脳からそれぞれの筋肉へ送られる指令の量やタイミング、割合などが変化するということです。

とも言われています。そのため、弾き方(身体の使い方)を変えて、速弾きする方法を考えましょう。以下でその方法を紹介していきます。


速弾きのコツ2: 指は、動かすタイミングを早めよ

弾き方(身体の使い方)を変えて、速弾きする方法の第一弾。細かいパッセージを速く弾くときに有効。

指を速く動かすためには「指を動かすための神経細胞」が多くなければいけませんが、それ以外の方法でも、弾き方(身体の使い方)を変えるだけで、細かいパッセージを速く弾くことができます。

それが【指を動かすタイミングを早める】こと。今打鍵する指が鍵盤を押し込む前に、次の指が打鍵動作を開始している、という状況を作れるように意識すれば、細かいパッセージも楽に速く弾けるようになります(詳細は、記事「お悩み相談室19: 指を速く動かしたいのですが……」を参照)。

図4. 指を動かすタイミングを早めることで(図下)、結果として速弾きができる

速弾きのコツ3: トレモロは、肘の前腕回転を利用せよ

弾き方(身体の使い方)を変えて、速弾きする方法の第二弾。高速トレモロやトリルを弾くときに有効。

練習してもトレモロがなかなか楽に速く弾けるようにならないのは、「指を動かす力」だけでどうにか乗り切ろうとするから。

トレモロを弾く動力を「指を動かす力」ではなく、それよりも大きな力を持つ【肘の前腕回転の力】に任せることで、結果としてトレモロがより楽に・速く弾けるようになります。ここでは「脱力」や「(余計な)力を抜く」のではなく、【動作をより力の大きな部位に任せる】(= 身体のコーディネート)というのが大きなポイント。

詳細は、記事「お悩み相談室17: トレモロがうまく弾けないのですが…」を参照。

図5. トレモロは、肘の前腕回転を利用した方が楽に速く弾ける

速弾きのコツ4: オクターブ連打は、肩・腕・指先の動きを協調せよ

弾き方(身体の使い方)を変えて、速弾きする方法の第三弾。高速でオクターブ連打を弾かなければならないときに有効。

どんなに練習しても高速オクターブ連打が大変に感じるのは、特に肩や腕の「脱力」や「(余計な)力を抜く」を意識してしまうから。

肩や腕の力という【腕を高速に上下させるメインの動力】がなければ、別の力が(無意識に)使われますが、その場合の動作は安定せず、その結果、腕などに痛みが現れます(これは代償動作と呼ばれる)。そのため、高速オクターブ連打は楽に速く弾くことはできません。

一方、力の使い方(弾き方)を変えて、高速に腕の打鍵方向への加速・ブレーキの交互運動をスムーズに行えるように、肩や腕の力はもちろんのこと、指先の力までもを巧みに使うと、高速オクターブ連打は、今までよりもグッと楽に速く弾けるようになります。(詳細は、記事「高速オクターブ連打を徹底解剖!」を参照)。

図6. 高速オクターブ連打は、力を上手に使うことで楽に速く弾ける

速弾きのコツ5: 練習初期では、ミスを恐れず思い切りを重視せよ

練習初期で大事なのは、「ミスをしないこと」……ではなく【速弾きするための弾き方(身体の使い方)】を習得することです。

ミスを気にするあまり、おどおど・のろのろ練習するよりも、ミスを恐れず身体を思い切り勢いよく使って(テンポを必要以上に落とさず)練習する方が、かえって【速弾きするための弾き方(身体の使い方)】が身に付きやすくなります(参考書籍『ピアニストの脳を科学する 超絶技巧のメカニズム』)。

当然、身体を思い切り勢いよく使って練習するとミスが増えます……が、いいんですそれで。

指導ではよく「ミスすると身体がそれを覚えるから絶対にしちゃダメ!」と言う人が多いですが、実はミス(運動指令誤差)は、「ミス」として適切に小脳に蓄えられ、正しい動作をするための【上達に必要な種】になるので、大切に扱いましょう(参考: 脳画像×運動失調⑥ 別図Ver., はらかずみ)。

というのも、ピアノ演奏や自転車に乗るなどの「身体で覚える動作」は、【手続き記憶】と呼ばれていますが、その運動学習(運動の習得)においては、【ミスによる学習(誤差学習)】も重要になっています(参考: 運動学習-基底核と小脳の関わり-)。

そのため、身体を思い切り勢いよく使って練習したときにミスが増えたとしても、むしろそれが【ミスによる学習(誤差学習)】という練習の一つになります。

図7. ミスを恐れず、思い切り身体を動かしたものだけが、速弾きするための弾き方(身体の使い方)を習得できる

速弾きのコツ6: 「ゆっくり練習」は練習終盤に行え

ピアノ界に限らず、練習するときに大事だと言われているのが「テンポを落として練習し、徐々にテンポを上げていく」という「ゆっくり練習」。

しかし、練習初期での「ゆっくり練習」は、意味がない……どころか、下手すると何を練習しているのかわからなくなり、変な癖がつく恐れがあります(ミスもなくなるので、上記に挙げた「ミスによる学習(誤差学習)」もできない)(詳細は、記事「速く弾くためには「速く弾く練習」が必要」を参照)。

というのも、「速い動作」は「ゆっくりした動作」をそのままビデオの早送りをした動作ではないので、「速い動作」での弾き方(身体の使い方)を習得したければ、「速い動作」のままで練習をする必要があります。逆に言えば、速い動作は「ゆっくり」練習できません

一方、練習終盤における「ゆっくり練習」は、【多様性練習】の一つとして、柔軟な演奏(【スキーマ学習】の一環)や、暗譜(【記憶の定着】)のために一役買うと考えられます(詳細は、記事「「ゆっくり練習」の良い点?」を参照)。ただし、役立つのは練習終盤であることを忘れずに!

図8. 「ゆっくり」弾いても、速い動作は習得できない。しかし、練習終盤では柔軟な演奏をするために役に立つ。

速弾きのコツ7: 弾けないフレーズは【分割】せよ

「ゆっくり練習」が練習終盤にしか行えないのなら、練習初期では弾けないテンポの速いフレーズはどうやって練習すべきか?

その答え(の一つ)が【分割】です。弾けないフレーズは、1小節ごと、何なら1拍ごとでもいいので【分割】して練習すること強くオススメ。そうすれば、ある程度テンポが速くても弾けるはず。

テンポを落とすと上記の問題が発生しますが、テンポはそのままにフレーズを【分割】するだけであれば、「ゆっくり練習」で発生する問題は起こりません。また、【分割】して練習したときに得た動作は、分割数を少なくしたとき(= 分割する長さを長くしたとき)にも再利用できます(一方「ゆっくり練習」では、テンポを変えると弾き方が変わるため、再利用不可)。

詳細は、記事「「ゆっくり練習」は練習にならない ~フレーズ練習編~」を参照。

図9. 弾けないフレーズを【分割】して練習することで、効率よく速弾きの練習ができるようになる。

まとめ

復習です。速弾きをするときに意識すべき点である、速弾き7ヶ条はコレ。

    <速弾き7ヶ条>
  1. 「筋肉」ではなく【脳】を鍛えよ
  2. 指は、動かすタイミングを早めよ
  3. トレモロは、肘の前腕回転を利用せよ
  4. オクターブ連打は、肩・腕・指先の動きを協調せよ
  5. 練習初期では、ミスを恐れず思い切りを重視せよ
  6. 「ゆっくり練習」は練習終盤に行え
  7. 弾けないフレーズは【分割】せよ

「テクニックそのものから解放」されるために、速弾きというテクニックを上記の方法でササッと習得し、日々の練習で「(感情)表現の付け方」に時間を費やせるようにしましょう。

では。

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