お悩み相談室20: スムーズに弾けないのですが……

公開日: 2020年3月6日金曜日 ゆっくり弾く 持論

こんにちは、リトピです。

さて、今回の「お悩み相談室」の内容はこちら。

悩み20: スムーズに弾けない

たくさん練習しているのに、なぜかつまづいたり、こけたりする部分ってありますよね。そのせいで演奏が不自然になり、なんだかしっくりこない状態が延々と続く。。。なーんて経験をされている方、多いと思います。

こんな時、「ゆっくり練習」で乗り切ろう!と(なーんとなく)考えてたりしません?(図1)

図1. どんなに練習しても演奏がぶつ切りになってしまう。この解消方法はやっぱり「ゆっくり練習」か!?

さて、スムーズで自然な演奏は、本当に「ゆっくり練習」(= 徐々に弾くテンポを早くする練習)をするだけで、出来るようになるのでしょうか?

えっ?
「は、そんなの疑問に思う必要なんてないだろっ!」
「効果があるに決まってるから、みんな「ゆっくり練習」をやってるんでしょう!」
だって??

そう思っている人にこそ、この記事は読んでほしい。たぶん、驚くこと間違いなしです。

英語の場合

いきなりピアノで話を進めるのは難しいと思うので、英語を例に考えてみましょう。

実は徐々にテンポを速くしてもスムーズにはならない

例えば、とある本を音読中、 "check it out" というフレーズが出てきたとき、これをスムーズに読もうとして、仮に「ゆっくり練習(= 徐々に言うテンポを早くする練習)」をしたとしましょう。

すると、最初は "check"「チェック」→"it"「イット」→"out"「アウト」……と各単語をゆっくり読んでいきます。で、これを少しずつ早く言おうとすると……なんと、こうなります(図2)。周りにいませんか?こうやって頑張って英語をしゃべろうとしている人。

図2. 英語のフレーズは、どんなに頑張って「ゆっくり練習」しても、スムーズに話せるようにはならない。

なぜこうなってしまうのか。

答えは簡単。「ゆっくり練習」は、各単語を早く言うのには役立つかもしれませんが、最終的にフレーズ全体として見ると、スムーズで自然なしゃべりにはならないんです。

では、どうすれば、スムーズで自然なしゃべりが可能になるのか。そのキーワードは【チャンク】(文字の固まり)です。

チャンクを大きくしていくとスムーズになる

英語は、チャンクを意識することで会話力が高まっていくと言われています(参考: 英会話力はチャンクが決め手, Success English)。

そして、このチャンクを徐々に大きくしていくことで、スムーズで自然なしゃべりが可能になります。流れとしては以下のような感じです(図3)。

図3. 英語のフレーズは、【チャンク】を大きくしていくことで、よりスムーズに話せるようになる。水色枠がチャンクを表している。

ここでのポイントは、スムーズに話せるようになるのは…

  1. × しゃべるテンポを上げて各単語とその間を短くしていくから
  2. 〇 チャンクを意識し、その大きさを大きくしていくから

ということです。そのため、実はチャンクさえ意識できていれば、わざわざしゃべるテンポを速くしなくても、スムーズかつ自然なしゃべりになるんです。英語の音読で苦労している人は試してみて!

ピアノの場合

では、ピアノではどうなるかを考えてみましょう。

やはりチャンクを大きくしていくとスムーズになる

実はピアノも、上達過程で意識しているチャンクの大きさが大きくなっていることがとある研究でわかっています(図4, 参考: 大角悠華ら, "ピアノ熟達におけるチャンク形成要因の分析," 情報処理北海道シンポジウム 2014)。

図4. 論文Fig.8の抜粋。初心者が練習を重ね、上達するにつれて、【チャンク】が大きくなっていることがわかる。水色の枠がチャンクを表している。

英語の例に加え、この研究結果を逆手にとり、あえて意識的にチャンクの大きさ(= 1度にまとめて演奏する長さ)を徐々に大きくするという練習を取り入れれば、「ゆっくり練習」なんかよりもはるかにスムーズで自然な演奏が可能になるんです。流れとしては以下のような感じ(図5)。

図5. チャンクの大きさを少しずつ増やすことで、英語の例のように最終的にはフレーズ全体をスムーズかつ自然に演奏ができるようになる。

チャンクを意識する真骨頂: 跳躍の克服

チャンクを意識することでスムーズかつ自然な演奏が可能になる、というのはご理解いただけたかと思いますが、実はチャンクを意識することが一番活きてくるのは【跳躍】を克服するときです。

特にテンポの速い曲の跳躍は練習がとても大変。当然、速く弾こうとすると音を豪快に外してしまうので、そのミスタッチの連続を極端に嫌い、「ゆっくり練習」をしてしまおうとする人は大変多いと思います。

でも、実はそれが逆効果だったり。。。例えば、リスト作曲「メフィストワルツ」の難関の一つである跳躍の連続。記事「「速く弾く練習」の具体例」でもご紹介しましたが、ここでも取り上げてみます。

このフレーズは「休符」「音符」「音符」というフレーズが連続で現れるパートですが、これを「ゆっくり練習」すると、どんなに頑張って徐々にテンポを上げて練習していっても、結局は速く弾きにくいまま&不自然な演奏しかできません。まるで、英語の "check"「チェック」 "it"「イット」 "out"「アウト」 をただ早く言うかのように。。。

一方、チャンクを意識し、その大きさを大きくしていくと、こようなの跳躍は意外と楽に弾けてきちゃうんです。まるで "check it out" をひと固まりとして「チェキラゥ!」と言うように(図6)。

図6. リスト作曲「メフィストワルツ」の難関の一つ、跳躍の連続は、「ゆっくり練習」ではなく【チャンク】を意識し、それを大きくしていくことで、徐々に弾けるようになってくる。

当然、この練習をしているときは、たーーーくさんのミスタッチをします。……が、それでいいんですっ!(CV ジョンカビラ)

そこら辺の話は、記事「ゆっくり練習」は練習にならない ~跳躍練習編~をご覧ください。ミスタッチは【成長の種】として扱うと、驚くほど上達が早くなりますよ。

補足: チャンクを意識する = 目線を意識する

さて、これまで「チャンクを意識することが大事!」と言ってきましたが、具体的にはどうすればいいのでしょうか。ヒントは【目線】を置く場所。

例えば英語の場合。次に読もうとするところが "check" に差し掛かった時、目線が "check" にしかなくて、その先にある "it" と "out" が見えてなければ、チャンクは形成されず、「チェック」しか読めません。(その後、「イット」「アウト」と1単語ずつ読まれていく……)

一方、チャンクを意識して "check it out" = 「チェキラゥ!」と読むためには、次に読もうとするところが "check" に差し掛かった時、それを読む前に、その先にある "it" と "out" も目に入っていなければいけないんです。

つまり、チャンクを意識するため(≒ チャンクを形成するため)には、目線を【読もうとする単語よりも先】に置いておく必要がある、というわけです(図7)。

図7. 英語は、目線を【読もうとする単語よりも先】に置くことで、チャンクを意識した音読ができるようになる。

どんなに練習しても英語の音読がスムーズに行かない人は、目線を【読もうとする単語よりも先】に置くことを意識してみてください。それでチャンクが正しく形成されれば、たちまちスムーズに音読できるようになるでしょう。

次は、ピアノで考えてみましょう。英語の例で考えれば、目線を【弾こうとする音よりも先】に置いておけば、チャンクを意識したスムーズかつ自然な演奏が可能になる、というわけです(図8)。練習でチャンクを大きくしていくときは、この目線の動かし方も一緒に練習しましょう。

図8. ピアノは、目線を【弾こうとする音よりも先】に置くことで、チャンクを意識した演奏ができるようになる。

これは「ゆっくり練習」では実現できない意識の仕方でしょう。なぜなら、テンポが遅いときは、目線を【弾こうとする音よりも先】に置けない(もとい、置いても意味がない)ですから、目線を移動させる練習ができません。

まとめ

今回は、スムーズに弾けない悩みを、よくある「ゆっくり練習」ではなく、【チャンク】(音の固まり)を意識することで解決に導きました。

チャンクは、言語学習だけではなく、ピアノでも意識されているというのは面白い発見だったのではないでしょうか。

実は、「ゆっくり練習」は、ある意味チャンクを無視した練習になっている(テンポを落とすと各音は離れ離れに…)ので、(少なくとも練習初期では)練習の効率が非常に悪い、とも言えます。この練習は目線を先に置く練習もしにくいですからね。。。

そのため、「ゆっくり練習」をするときは「なーんとなく」「先生が口酸っぱく言ってたから、とりあえず」で始めるのではなく、【その練習は、目の前の問題を解決するための手段となっているのか】をじっくり考えるようにしましょう。

では。

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