特集: ピアノ界における「脱力」のまとめ

公開日: 2015年11月22日日曜日 ピアノ 持論

こんにちは、リトピです。
(更新: 2015/11/25)

現在、ピアノ界にはびこっている「脱力」という言葉、辞書で調べると、まったく良い言葉ではないのですが、 なぜかピアノの基本、としてピアノ界に非常に深く浸透していますよね。「脱力」に関連した「無駄な力/余分な力を抜く」という説明もありますね。でも、そのアドバイスを言葉通りに受け止めて練習して、アナタは上達しているでしょうか?

もし上達していないのであれば、それはアナタの練習量が足りないわけではなく、「脱力」という言葉を、本当に言葉通りに受け取って練習してしまっているせいかもしれません。(参考記事「番外編2: 「脱力」というワードは危険」) 間違った練習をしないためにも、間違った練習を続けてケガをしないためにも、「脱力」という言葉のウラにある本当の意味を、我々は読みとり、理解する必要があります。

「じゃ、本当の意味になる言葉でキチンとアドバイスしてよ!」と思うかもしれませんが、残念ながら、「脱力」という言葉は、少なくとも、もうピアノ界には十分すぎるくらい浸透してしまったようです(例: 書籍『ピアノ・脱力奏法ガイドブック Vol.1〈理論と練習方法〉』)。「自分の身は自分で守る」ということで、我々自身が「脱力」に隠された本当の意味を理解し、正しい方法で練習していかなければなりません。

「脱力」のオモテとウラ

よく「脱力」というアドバイスに付随して、さまざまな言葉が飛び交っていますが、それらの傾向、特徴をまとめてみました。以下のようにまとめています。

  • 「脱力」に関するワード(ミスリード)
    1. 言葉通りにとらえると...
      → 言葉通りに捉えたときに生じる悩み
    2. 本当の意味は...
      → 正しい練習をするための意識
では、早速見てみましょう。

<筋肉系>

なお、「プロは「脱力」している」なんて真っ赤なウソ。本当は、「上腕二頭筋の伸張性収縮」と「肘と手首の運動依存性トルク」を利用しています。ちなみに、筋肉に対して「力を抜け!」という指令は存在しません。つまり、人間の脳の構造上、人間は「脱力」という行動はできないんです。

<骨格系>

自分の手の骨格・筋肉くらいは、プロだけじゃなく、趣味程度の人でも、知識として持っていた方がいいと思います。ケガのないピアノ・ライフのためには、重要な知識だと思います。

<身体系>

  • 肩は上げない
    1. 肩周りに作られる力みを無駄な力/余分な力と捉え、その力を抜かせることが目的。
      → そう言われると肩周りに意識を集中せざる負えなくなり、演奏に集中できなくなる。
    2. 首をすぼめない。身体・気持ちを委縮させない。
      → 行動は制限させると逆にこわばる原因になる。むしろ、肩は最大限利用すべし!
  • 背筋を伸ばす / 背中をまっすぐにする
    1. 背筋をピシッと伸ばして、(一般的に言われている)正しい姿勢にさせる。
      → 背筋をピシッと伸ばした結果、逆に身体がこわばってしまう
    2. 背骨の自然なカーブを殺さないよう、身体を(骨格的に)正しいポジションに移動させる。
      身体の骨格を知り、正しい身体の使い方を覚える。
身体に関する記述は、「アレクサンダー・テクニーク」の知識がないと、上記のようなミスリードに惑わされ、逆に身体をこわばらせる可能性が高いです。

現状では、「アレクサンダー・テクニーク」は(少なくとも)ピアノ界にはまだまだ浸透しておらず、 様々な著名人のアドバイスやピアノ奏法の書籍でも、上記のような、逆に身体をこわばらせるようなミスリードを見かけます。(例: 書籍『ピアノ・脱力奏法ガイドブック Vol.1〈理論と練習方法〉』)気を付けましょう。

「自分の身は自分で守る」ために

上記の解説の補足のために、私の記事に飛べるようにリンクを貼りましたが、単なる私の素人考えなので、上記とは違う間違いやミスリードを含んでいる可能性があります。これも「自分の身は自分で守る」練習、ということで注意しながら、でも気軽に読んでいただければ幸いです。(一応それなりに多方面から調べてまとめた記事ですので、大きな間違いはしていないはず。。。)

今や、パソコンやスマホで、インターネットを介して、ある程度の情報は簡単に取り出せ、それなりに調べられる時代です。間違った情報に流されないよう、「自分の身は自分で守る」ためにも、ピアノを弾くアナタ自身(人間の骨格・筋肉・神経など)を調べてみることをオススメします。

それらはよっぽどのことがない限り、(現状では)普遍の正しい(とされる)知識です。それをベースに様々なことを読み解くと、上記のような間違いやミスリードに自ら気が付けると思います。

まとめ

(更新: 2015/11/25)
ピアノ界で言われている「脱力」とは…

  1. ×「力を抜く」という文字通りの行為
  2. ○「楽だ」という状態を得るための行為
ということです。「楽だ」という状態は、支え(適度な力)があるから起こるのです。これは絶対にはき違えないようしてください。

ただ、個人的には「脱力」という言葉は、あまりにも語弊を生みすぎる(人によって「脱力」という言葉からイメージされる感覚が違いすぎて誰ともかみ合わない)ので、ピアノ界においては、絶対に使用してはいけない言葉、だと思っています。

ちなみに、スポーツ界で言われている「脱力」も、ただ単に「力を抜く」という行為ではなく、本当の意味は「インピーダンスマッチング」を見つける行為のことです。あぁ、ややこしい。。。

また、一番気を付けるべき点は、なんと、すでにネイガウス先生がおっしゃっています。

生徒たちは、"楽なポジション"と"効率が良い"ことを、"だらんとした怠慢"と混同しがちだ
出典: 『音楽家のためのアレクサンダー・テクニーク入門』
なぜ、このお言葉の方がピアノ界で流行らないんだろう。。。どう考えても「脱力」のイメージは、まさにこの「だらんとした怠慢」でしょう。 それを助長するような言葉・イメージは、ホント、アドバイスとしては止めてほしいものですね。

というわけで「自分の身は自分で守る」ためにも、この点は気を付けていただければと思います。

では。

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4 件のコメント :

  1. はじめまして。
    匿名にて失礼いたします。
    ピアノを再開して約1年。力みが悩みで、全国で「脱力奏法」の講演をしている先生
    の教室に何度か通ってみました。
    最初のうちはなるほどと思って鵜呑みにしていたのですが、なんとなく腑に落ちない点も多くあり。。
    いろいろ悩んで調べた結果、こちらのサイトに行きつきました。
    どの記事も非常に納得できる内容で、とても参考になりました。

    ところで、ピアノを弾いている最中に脱力奏法の先生に前腕を上からポンと叩かれた
    ことがありました。
    どうやら、「力がはいっていなければ、上から叩かれた時に腕は自然にぶらんと下に落ちるはずだ」ということを言いたいようなのです。
    何度かしつこくやられたので、仕方なく自分でだらんと腕を下におろしてみたら、
    「まだ自分でおろしてしまってる。もっと力を抜かないと。」と言われました。
    でも、ピアノを弾いている時点で、腕をささえる必要があるのだから、
    よっぽどの強さで上から叩かれない限りは腕は下に落ちることはないのでは?と
    思いました。
    これは、明らかに間違った指導だと思うのですが。。
    はじめてのコメントで恐縮ですが、ご意見いただければ幸いです。

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    1. すみません、返信がだいぶ遅くなってしまいました。
      「脱力」は、物理的におかしい主張がはびこっているので、腑に落ちない点が多くあるのは当然です。アナタ様の方が、その全国で「脱力奏法」の講演をしている先生なんかよりも正常な思考を持っていますので、どうぞご安心ください。

      さて、「前腕を上から叩く」という行為ですが、その先生の主張のおかしな点は次の通りです。そもそも、最初から「力が入っていなければ」、その前腕は、上から叩かれる【前】にすでに重力で落ちていて、腕は自然にぶらんとしてます。でも、これじゃ話が成立しないので次へ。
      この前提として、前腕がその場(空中)で停止しているとき、少なくとも上腕二頭筋の力は、その前腕を引っ張る重力に拮抗しています(つまり、前腕がその場にいられるのは「上腕二頭筋が前腕を上に引っ張るの力 = 前腕を下に引っ張る重力」となっているから)。では、この最低限の力がある状態で前腕が上から叩かれ、もし、その腕が自然にぶらんと下に落ちたら……少なくとも以下の2つが考えられます。
      (1) 自分で上腕二頭筋の力を抜いたとき
      (2) 上から非常に強い力で叩かれ、収縮していた上腕二頭筋が勢いよく伸ばされ……ブチッと切れたとき
      先生曰く、(1)はダメとのことなので、きっと「(2)を目指せ!」とその先生は言いたいのでしょう。まぁ、その先生の家/指導場所が無重力状態ならこの話は別ですけど。。。

      というのが、その先生の指導に対する私の見解です。これは、アナタ様が疑っている通りだと思います。その人にいくらか指導料を払ってしまったと思いますが、残念ながらその指導内容は完全に忘れた方が賢明だと思います。

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  2. こんな記事を書いている人が居たなんて!感激です。
    ちょっと今から全体的に読ませていただきます。

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    1. コメントありがとうございます。気になる点等ございましたら、コメントいただければ幸いです!

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