スポーツは「脱力」じゃない?!
こんにちは、リトピです。
このコラムでは、ピアノ以外の雑多なことを書いていきます。今回は、スポーツにおける「脱力」のお話。
ピアノと同じように、スポーツでも技術の習得・練習で、「「脱力」しなさいっ!」という指導が多いようです。ここでは、いくつかのスポーツの動作をピックアップして、「脱力」がどれだけ重要か、一緒に考えてみましょう。
スポーツの動作のカギは「脱力」?
今回は、以下のスポーツの動作に注目してみたいと思います。
- 野球: ピッチャーの投球動作
- サッカー: インステップキックの動作
- フィギュアスケート: 回転ジャンプの動作
- ボウリング: 投げる動作
どれも、「大事なのは「脱力」だよ!」という話をよく聞くのではないでしょうか。では、それらの動作を一つずつ見ていきましょう。
野球: ピッチャーの投球動作
この動作は、サイト「野球動作論文:【2015.03蔭山】大学野球投手における投球動作中の地面反力の経時的変化および力積が投球速度に及ぼす影響, 野球動作分析強化指導サイト「ヤキュウモーション」」によれば、以下の図1ような流れで行われているそうです。
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図1. ピッチャーの投球動作 |
あれ?この動作を見ると、ピッチャーは…
っということがわかります。うーん、おかしいなぁ、ピッチャーの投球動作って「脱力」がカギじゃなかったのかな??
と、とりあえず、次の動作を見てみましょう。
サッカー: インステップキックの動作
この(足の甲で蹴る)動作は、論文「中村康雄ら, “熟練者・未熟練者におけるインステップキック動作解析,” バイオメカニズム 20巻, 2010」によれば、以下の図2ような流れで行われているそうです。
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図2. サッカーのインステップキック動作 |
あれ?この動作を見ると、サッカーのキッカーは…
っということがわかります。うーん、おかしいなぁ、サッカーのインステップキック動作ってのも「脱力」がカギじゃなかったのかな??
と、とりあえず、次の動作も見てみましょう。
フィギュアスケート: 回転ジャンプの動作
この動作は、サイト「フィギュアスケートの科学, 目がテン!」によれば、以下の図3ような流れで行われているそうです。
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図3. フィギュアスケートの回転ジャンプ動作 |
あれ?この動作を見ると、フィギュアスケートの選手は…
っということがわかります。うーん、おかしいなぁ、フィギュアスケートのジャンプ動作っても「脱力」がカギじゃなかったのかな??
ボウリング: 投げる動作
もう大体わかってきたと思うので、ここではスライドだけを乗せておきます。参考: プロが教える「助走」,中スポ
小まとめ: 「脱力」って一体。。。
これはおかしいぞ。。。スポーツを適当に4つ選んで、それらの主要な動作を調べただけのに、どれも動作のカギが「脱力」じゃなかったって、いったいどういうこと!?
うーん、何がおかしいのかな。。。もしかして、「脱力」って使えないヤツ??
……ここで、「あのさぁ、「脱力」ってのは「余計な力」を抜くことなんだよっ!」という声が聞こえてきそうなので、次は「余計な力」にフォーカスしてみましょう。
スポーツのカギは「余計な力」を抜く?
では早速、「余計な力」にフォーカスしてみましょう。先のピッチャーの投球動作では、恐らく図4のような状況が「余計な力」というわけでしょう。
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図4. 投げるときに腕に「余計な力」が発生している。これを抜けばいい…のか? |
なるほど、確かにこの腕に発生している「余計な力」が抜ければ、楽にボールを投げれるようになりそうでs……
っとはならないんだな、これが。
「余計な力」は、実は【必要な力】だった!?
そもそも、なぜ図4では腕に「余計な力」が発生しているのでしょう?この時の状況って、このように考えられると思いませんか?
-
その腕に発生している力みは……
さらに、このように考えると、このような指導をすることもできるようになるんです。
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その腕の力みを取り払うには……
この状況で発生してしまっている腕の「余計な力」は、その動作をツラくさせている原因……ではなく、別の原因があることによって、腕を(無理やり)速く降るための【必要な力】だった、というわけです。
その腕の力みを取り除くには、その【原因となっている状況】を取り除く必要があるわけです。ここで「(余計な)力を抜こう!」と考えても、その【原因となっている状況】がなくならない限り、腕の力みは取り除けません(図5)。
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図5. ただ、腕の力みを抜いても何も改善しない。代わりに、その【原因となっている状況】を取り除けば、結果として腕が楽になる。 |
なお、「力を使わずに済む」ことと「脱力」「(余計な)力を抜く」ことは、全く違う行動なので、十分注意してください。
力は(適切に)【使う】からうまくいく
また、フィギュアスケートの例で言えば、高く飛べるようになったのは、股関節の筋肉を【使った】から。上記サイトではこのような説明をしています。
股関節の筋肉を使うだけで、本当に高く跳べるようになるんでしょうか!?さっそく実験です!
男女5人ずつに2種類の跳び方で垂直跳びをしてもらい、高さを計測します。まずは、上体はまっすぐのままヒザを深く曲げて跳ぶ、ヒザを伸ばすジャンプ。続いて、上体を倒し、ヒザは浅く曲げたところから跳ぶ、ヒザと股関節を伸ばすジャンプ。すると・・・股関節をのばす動きを加えただけで6cmもアップしたんです!
この実験で参加した男女5人は、飛ぶときに発生していたであろう「余計な力」を抜いた……のではなく、股関節の筋肉を使うようにしただけ。たったそれだけで彼らは高く飛べるようになったんです。
このような実験結果を見るだけでも、「脱力」や「余計な力」を抜くというアドバイスが、ある力み過ぎな動作を改善させるために、いかに不適切かがわかると思います。
より良いアドバイスのために
そもそも、こういった「脱力」や「余計な力」を抜け、というのは、どういう人たちから出てきたアドバイスなのでしょうか。
恐らく、各スポーツ選手(やピアニスト)たちが、自分らのプレイ感覚を元に、我々一般人に広めたアドバイスだと思われます。
果たして、そういったプレイ感覚を元にしたアドバイスが、我々一般人にどれほど役に立つのでしょうか、ちょっと考えてみましょう。
選手サイド
フィギュアスケートの回転ジャンプの仕方についてインタビューで聞かれたとき、とある選手はこう答えたそうです。
「……ぃゃぃゃ、「よいしょ」ってなんだよ。。。」と思った方は多いと思います(笑。まぁ、このセリフが実際に直接アドバイスとして使われることはないと思いますが、実際は上記参考のサイトを読むと…
浅田選手は上体を曲げ股関節の筋肉も使って真上に高く跳んでいるのがわかります。
だ、そうです。うーん、これは「よいしょ」とはかけ離れた飛び方だ、と思いませんか?
恐らく、この選手は、「こうやって飛ぶ」「ああやって飛ぶ」というイメージを、すべてひっくるめて【よいしょ】という感覚的なワードに詰め込んだんだと思います。イメージとしてはこんな感じ(図6)。
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図6. 「よいしょ」の真理 |
選手は、このような「身体で覚えた動作」を、「よいしょ」などという(他の人にはほぼ絶対に想像できない)感覚的ワードに置き換えることが多いです。だって、その動作は「身体で覚えている」んだから、わざわざ具体的な言語化なんて面倒なことをする必要性が選手側にないので。
感覚的ワードの問題点
でも、そんな感覚的ワードがはびこると大変なことが起こります。
みんな憶測で動作をイメージし始めるので、各人のイメージがバラバラになります(特にピアノ界では、人によって指導内容が真逆だったりするのはこのため)。
もちろん、指導内容がバラバラになるだけなら構いません。しかし、そのように憶測で動作をイメージすることは大抵、その人の妄想が入り込み、信ぴょう性のない理論が各人で出来上がってしまいます。それが大きな問題です(図7)(ただし、その人に最低限「解剖学」「生理学」「運動学」の知識があれば別)。
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図7. 感覚的ワードは、人によってイメージされる動作が異なるのが問題 |
教師サイド
上記問題が発生しないようにするために、教師は「彼らが実際にやっていること」を、彼らの言う感覚的ワードではなく、具体的に言語化して生徒に説明して、思い込みによる自説(もとい、信ぴょう性のない妄想)から解放してあげる必要が出てきます。
その具体的な言語化の助けになっているのが「スポーツ科学」や「運動学習理論」なのでしょう。教師は、生徒らのために、選手とは異なった視点(や知識)を駆使して、「身体で覚える動作」を具体的に言語化することが求められている、と私は思います(図8)。
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図8. 教師は、「身体で覚える動作」を具体的に言語化する必要がある |
上記で、選手は「わざわざ具体的な言語化なんて面倒なことをする必要性がない」と言いましたが、それが「名選手が必ずしも名監督にはならない」理由の一つなのでは、と思います。
ピアノに置き換えると…
さて、この話を一旦ピアノに置き換えてみましょう。
ピアノは、上達のカギとして「脱力」を上げることが多いですが、そういう感覚的ワードは、このような状況を生み出している恐れがあります(図9)。
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図9. 教師のイメージする「脱力」は、初心者のそれとは大きく異なる |
ピアノ界における教師の大半は、教師がやるべき努力(「身体で覚える動作」を具体的に言語化すること)を怠り、感覚的ワードを駆使して(プレーヤー(奏者)気取りで)生徒に教えている、というのが大きな問題になっているのでは、と私は懸念しております。
また、「余計な力」を抜くという考えも、ピアノに置き換えたところで実はうまくいかないんです(図10)。
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図10. ピアノも、「余計な力」を抜くからうまくいく…のではない |
具体例は以下の通り。どれも、「余計な力」を抜くという考えでは解決しません。
- 速いパッセージ: 指を動かすタイミングを早める
- トレモロ: 肘の前腕回転を利用
- 連続オクターブ連打: 肩・腕の筋肉を(適切かつ十分に)使う
まとめ
今回はスポーツにおける「脱力」についてフォーカスしてみました。物理的に考えてみると、意外と(?)「脱力」や「余計な力」を抜くという考えは、ピアノだけじゃなくスポーツでも通用しないもんですね。
ピアノ界では、いろんな人が「ピアノ奏法では【スポーツと同じように】、「脱力」が大事!」と謳っていますが、私は……
と言いたい。いろんなスポーツの動作を見る限り、こっちの方が真理に近い、と私は思います。
皆さんも、自分の好きな・身近なスポーツのいろんな動作を注意深く観察してみてください。よーーーーく観察することで、「脱力」や「余計な力」を抜く以外のコツ(正しい身体の使い方、身体の正用)が少しずつ見えてくると思います。
では。
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