番外編2: 「ゆっくり練習」は練習にならない ~フレーズ練習編~

公開日: 2017年11月13日月曜日 ピアノ ゆっくり弾く 持論

こんにちは、リトピです。

前回の記事「番外編1: 「ゆっくり練習」は練習にならない ~弾き方編~」では、ピアノの「弾き方」から、なぜ「ゆっくり練習」が練習にならないかを説明しましたが、今回はもうちょっと具体的な例を交えて、なぜ「ゆっくり練習」が練習にならないのかについて、もっと追求するとともに、より良い練習方法を提示したいと思います。

とあるフレーズが弾けないときに練習する場合

「ゆっくり練習」では…

練習中「このフレーズが弾けない!」と思ったとき、アナタはどのような練習をしているでしょうか?やはり、定番の練習方法である…まずはテンポを落として「ゆっくり弾く」…なんてことをやっていることでしょう。

ここで、「その定番の練習方法の何がいけないの?」という声が聞こえてきそうですが…この「ゆっくり練習」には以下の4つの問題点があります。

  • <フレーズを「ゆっくり練習」する問題点>
    1. 練習時間が長くなる(フレーズ感がなくなる)
    2. 今までの練習を次のステップに活かせない
    3. 速く弾く「弾き方」が身に付かない
    4. ミスのない練習には意味がない

これらについて、一つずつ説明します。

1. 練習時間が長くなる(フレーズ感がなくなる)

これは単純に、「ゆっくり弾く」と1フレーズを弾き切るのに時間がかかる、というお話。当たり前だと思われるでしょうが…我々一般人は、ピアノ演奏を専門にされている方と比べて、確保できる練習時間は圧倒的に少ないです。我々は、「少ない練習時間の中で、どれだけ効率良く練習できるか?」というのを考える必要があります。

それを考えると、この「ゆっくり弾く」という練習は、あまりにもお粗末な練習方法だと言えるでしょう。ここで、1つのフレーズを練習するうとき、「ゆっくり練習」での最初のテンポが、「速く弾く練習」の半分だったとしましょう。このとき、同じ練習時間で、「速く弾く練習」は、「ゆっくり練習」の2倍も多くこのフレーズを練習することができます。

2倍も多くフレーズ練習ができるということは、その分、練習中に得られるフィードバックの数(= 1度弾いた後に、「今、どれくらい弾けたかな?」という評価の数)も多くなります。もし、1度弾いたときにミスをしていれば、「今の弾き方でここをミスしたから…次はこう弾いてみよう!」という考えが生まれます。この考えが練習の質を良くする、と私は考えています(例: 図1)。

図1. 「ゆっくり練習」では、少ない練習時間を有効に使えないが、速く弾く練習をすると、フレーズの練習回数が増えるので、同じ時間でもより効率の良い練習ができる。

また、「ゆっくり練習」では、一つ一つの音が間延びしてしまうので、「フレーズ感がなくなる」というデメリットが存在します(後述)。

2. 今までの練習を次のステップに活かせない

正直、これが「ゆっくり練習」最大のデメリットだと、私は思っています。

「ゆっくり練習」では、ゆっくりなテンポから徐々にスピードを上げていく…という手法を取っていますが、これがよろしくない。前回、ピアノの「弾き方」の説明で、ポイントは、テンポによって弾き方が変わる、ということをお話ししました。

つまり、最初の練習である「ゆっくりなテンポ」で弾けたからといって、「次のステップ = 前回よりもテンポを上げる」ときの練習では、最初の練習である「ゆっくりなテンポ」での「弾き方」はほとんど使えないんです(図2)。この場合の「ゆっくり練習」は無駄でしかないでしょう、残念ながら。。。

図2. テンポを変えると弾き方が変わるため、いくら「ゆっくり練習」でテンポを上げていっても、今の練習は次のステップにほとんど活かせないので、練習にならない。

3. 速く弾く「弾き方」が身に付かない

「ゆっくり練習」では、徐々にテンポを上げていったとき、急に弾けなくなるテンポに出会うことが多々ありますよね。このとき、みなさんはどう対処していますか? 恐らく、大半の人が「このテンポではまだ弾けるレベルになっていない。なので、このテンポよりもスピードを落としてもっと練習しなければ!!」と考えていることでしょう。

残念ながら、またもや、その手法に問題があります。前回の記事からポイントは、テンポによって弾き方が変わるということを散々話していますが、ここで大切なのは、急に弾けなくなるテンポに出会ったとき、実は…

  • × まだそのテンポでは弾けない
  • ○ 今の「弾き方」では「弾けない領域」に入った

…と考えるべきなんです。ここで、「弾けないから・ミスタッチが多くなるから」といっていちいちテンポを下げていたら…速く弾く「弾き方」なんて身に付くわけがありません(図3)。

図3. とあるテンポで「弾けないから」といって、テンポを落としていたら、いつまでたっても「弾けない領域」を攻略することはできない。

いいですか、そのテンポで「弾けないから・ミスタッチが多くなるから」そのテンポではまだ練習しない…のではなく、そのテンポでの練習には【価値】があるんです。この点、はき違えないようにお気を付けください。

4. ミスにない練習には意味はない

「ゆっくり練習」の過程で、テンポを上げるタイミングとして挙げられているのが「そのテンポでミスがなくなったとき」だと思いますが、その練習方法にも問題があります。

「ゆっくりなテンポ」でミスなく弾けたとき、「正しい弾き方で演奏できた!」とか「速く弾くための準備ができた!」とか考えていませんか? 何度も何度も言っていますが、ポイントは、テンポによって弾き方が変わる、ということなので、たとえどんなに練習して「ゆっくりなテンポ」でミスなく弾けても、その練習は、残念ながら、速く弾くためにはならないです。

むしろ、ゆっくりなテンポでたくさん練習したせいで、ゆっくりなテンポでの「弾き方」だけが強化されてしまい、速く弾くときの妨げになる恐れだってあるでしょう。そのような機械的な反復練習は、害しか生み出しません。この場合、「ミスなく弾けた」ということに【価値】はほとんどない、と言っても過言ではないでしょう(図4)。

そのため、速く弾くため(「弾けない領域」を弾けるようにする)には、たくさんミスが出るであろう「速く弾く練習」(= 「弾けない領域」で練習)をするしかないです。

図4. たとえ「ゆっくりなテンポ」でミスなく弾けても、その練習に意味はほとんどない。

小まとめ

さて、ここでは、「ゆっくり練習」のデメリットについて4点説明しました。もう一度挙げておきます。

  • <フレーズを「ゆっくり練習」する問題点>
    1. 練習時間が長くなる(フレーズ感がなくなる)
    2. 今までの練習を次のステップに活かせない
    3. 速く弾く「弾き方」が身に付かない
    4. ミスのない練習には意味がない

では次に、「速く弾く練習」に上記のデメリットを改善する効果があるのか、一緒に見てみましょう。

「速く弾く練習」では…

「速く弾く練習」にはこんなメリットがあります。

  • <フレーズを「速く弾く練習」の利点>
    1. 練習時間を有効活用できる
    2. 今までの練習を次のステップに活かせる
    3. 速く弾く「弾き方」が(ミスのおかげで)身に付けられる

このうち、「1. 練習時間を有効活用できる」は、上記の「ゆっくり練習」のところで説明したので割愛します。その他のメリットについて詳しく見てみましょう。

2. 今までの練習を次のステップに活かせる

これは「ゆっくり練習」にはなかった、「速く弾く練習」の最大のメリットとなっています。

「速く弾く練習」では、弾けないフレーズに出会った時、テンポを落とす代わりに、楽譜を【分割】するという手法を取ります。これが非常に強力で、【分割】のサイズや位置を変えても、今の練習を必ず次のステップに使えるので、全ての練習が、その後の練習の役に立ちます(図5、図6)。

なお、【分割】したフレーズの間は、単なる「休み」ではなく「今の弾き方はどうだったか?」「次はどう弾けばいいか?」を考える時間です。

図5. 「速く弾く練習」の例1。この練習では自分が弾きやすいテンポで、【分割】のサイズを少しずつ(ここでは1拍ずつ)大きくしていく。この練習方法では、今の練習を次に活かせるので、今までの練習が無駄にならなくて済む。
図6. 「速く弾く練習」の例2。この練習では自分が弾きやすいテンポで、【分割】のサイズを固定(ここでは1拍に固定)しながら位置を少しずつ(ここでは1拍ずつ)ずらしていく。この練習方法でも、今の練習を次に活かせるので、今までの練習が無駄にならなくて済む。

3. 速く弾く「弾き方」が(ミスのおかげで)身に付けられる

この「速く弾く練習」に対してよくある批判が…「速く弾く「弾き方」がわからないから困っている。だから、まずは「ゆっくり練習」するんだよっ!」という内容。これ、練習としては矛盾しているんですよね。。。

私だったこう言います。「速く弾く「弾き方」がわからないから困っている。だから、【「速く弾く練習」でその弾き方を見つけるんだよっ!】」ってね。

要は、「とあるテンポ」で弾けなければ、そのテンポで弾ける「弾き方」を、そのテンポで(テンポを下げずに)練習しましょう、ということ。当然「とあるテンポ」で弾けないのだから、そのテンポで練習をしたら、たくさんミスするでしょう。でも、それが本当の練習というもの。その練習での「ミス」には大きな【価値】があります。だって、ミスによって【この弾き方では弾けない】というのがわかるんですから。そのようなミスをたくさんすれば、おのずとそのテンポでの「弾き方」が見つかります(図7)。

図7. 「速く弾く練習」では、「弾き方」をいろいろ変えて、「その弾き方で弾けたかどうか?」を考えることが大事になってくる。そのような練習を重ねていけば、誰でも絶対に、今速いと感じているテンポで弾けるようになる(当然、その上げられる速度の限界は人それぞれですが…)。

小まとめ

さて、ここでは、「速く弾く練習」のメリットについて3点説明しました。もう一度挙げておきます。

  • <フレーズを「速く弾く練習」の利点>
    1. 練習時間を有効活用できる
    2. 今までの練習を次のステップに活かせる
    3. 速く弾く「弾き方」が(ミスのおかげで)身に付けられる

最後は全体のまとめです。

まとめ

今回も、長々と図付きで説明してきましたが、一言でいえば「弾けないテンポでの練習(ミスがたくさんある練習)こそ、その練習には【価値】がある」ということです。ミスをしなくなるまでテンポを落として練習しても、その練習には(初期練習においては)何の【価値】もありません。

今までずーっと「ゆっくり練習」をしてきた人にとっては、この記事の内容は信じがたいと思いますが、皆様がその練習で上達できているのは…

  • × 頑張って「ゆっくり練習」をしたから
  • ○ 常に「どうやったら弾けるようになるのか?」を考えているから

…だと、私は思っています。この上達するための「どうやったら弾けるようになるのか?」という考えは、ミスがなければ絶対に考えることはないでしょう。そのために、弾けないテンポでの練習(ミスがたくさんある練習)をする必要があるんです。

ここら辺を意識しながら練習をすると、今まで「ゆっくり練習」をしてもなかなか上達できなかった人たちは、どんどん上達するようになるでしょう。ぜひ試してみてください。

次は、「~跳躍練習編~」で、なかなか当てるのが難しい「跳躍」の練習についてお話します。

補足: 「ゆっくり練習」もメリットがあるでしょ?

巷では、「ゆっくり練習」のメリットがいくつか挙げられていますが、そこで挙げられているメリットは、(練習初期においては)「速く弾くため」のメリットにはなっていないことが多いです。以下に例を示します(赤字は、利点に対するリトピのコメント)。

  • <「ゆっくり練習」の利点!?>
    1. 1音1音確認できる
      → 裏を返せば、フレーズがバラバラになる → 練習にならない
    2. 運指や弾き方を覚えられる
      → 遅いテンポでの「弾き方」を覚えても意味はない → 練習にならない

我々が練習したいのは、あくまで【弾きたいテンポでの演奏】であり、「ゆっくりなテンポでフレーズがばらばらになっている演奏」ではないです。よく言われている「ゆっくり弾けないと、速く弾くことはできない」はウソ。本来は【ゆっくり弾けても、別に速く弾けるようにはならない】とか【普通のテンポ(弾きやすいテンポ)で弾けなければ、ゆっくりも速くも弾けない(弾く練習ができない)】と言うべきだ、と私は思っています。

何度でも言いますが、ポイントは、テンポによって弾き方が変わる、なので、(初期の)練習ではなるべく自分が弾きやすいと感じるテンポで、弾けないフレーズを弾けるようにする練習(= 速く弾く練習 = 【分割】を取り入れた練習)が必要です(図8)。

図8. ここで練習したいのは「どうやったら速く(弾きたいテンポ)で演奏できるか」ということ。

では。

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