番外編1: 「ゆっくり練習」は練習にならない ~弾き方編~

公開日: 2017年11月10日金曜日 ピアノ ゆっくり弾く 持論

こんにちは、リトピです。

皆さん、ピアノの練習中に弾けないところを見つけると、すぐに「ゆっくり練習」をすると思います。「ゆっくり練習」とは、最初はゆっくりなテンポで、その後少しずつテンポを上げて…というヤツです。でも、この練習をずーっとやっても、なかなか速く弾けない、あるテンポで急に弾けなくなる…ってことありませんか?かなり定番な練習のはずなのに、おかしいなぁ…単なる練習不足かな??

いえいえ、そんなことはありません。だって「「ゆっくり練習」は練習にならない」のですから。。。今回はその点について、テンポとピアノの「弾き方」の関係から、なぜ「ゆっくり練習」が速く弾く練習にならないのかを説明します。

ピアノの「弾き方」のまとめ

まずは、今回の軸となるピアノの「弾き方」について簡単にまとめます。

トレモロの弾き方

トレモロは、テンポが速くなるにつれて…

  • ひじの回転量が増える

…という「弾き方」をします(図1)。ここでのポイントは、テンポによって弾き方(ひじの使い方)が変わる、という点です。詳細は、記事「お悩み相談室17: トレモロがうまく弾けないのですが…」をご参照ください。

図1. トレモロの弾き方

オクターブ連打の弾き方

オクターブ連打は、テンポが速くなるにつれて…

  • 肩の力の利用量が増える
  • 重力の利用量が減る

…という「弾き方」をします(図2)。ここでのポイントは、テンポによって弾き方(肩や重力の使い方)が変わる、という点です*。詳細は、記事「番外編4: 重力奏法を徹底解剖!」(演奏速度が遅いとき)や、「番外編4: 「脱力」で、高速和音打鍵は絶対に出来ない」(演奏速度が速いとき)をご参照ください。

*) 参考: 古屋晋一ら, "熟練ピアニストによるピアノの打鍵テンポと音量の調節に関わる運動制御," バイオメカニズム学会誌 Vol. 30, No. 3 (2006)

図2. オクターブ連打の弾き方

「ゆっくり練習」は練習にならない

ゆっくりなテンポは速く弾くための準備?

さて、上記2つのピアノの「弾き方」で注目してほしいのは、上記でも述べましたが、ポイントは、テンポによって弾き方が変わる、という点です。この点を考慮すると…「このフレーズが速く弾けない…」と悩んでいる人は…

  • × 「ゆっくり練習」をしていない
  • ○ 速く弾くための「弾き方」を会得していない

…ということが言えます。例として、オクターブ連打を考えてみましょう(図3)。オクターブ連打が速く弾けないのは、「ゆっくり練習」をしていないから…ではなく、オクターブ連打を速く弾くときの「弾き方」(= 肩の使い方)が会得できていないからです。

そのため、ゆっくりなテンポで練習しても、その練習は速く弾くための準備にはなりません。ここで「ゆっくり弾けないと速くも弾けないぞ!」と言う人がいますが、そんなことはない。実際には【ゆっくり弾けたからといって、速く弾く弾き方を知らなければ速くは弾けない】です。だって、ここで練習したいのは「ゆっくりなテンポで弾くこと」ではなく【どうやって弾けば(肩を使えば)速く弾けるのか?】を探すことなんですから。。。

図3. たとえオクターブ連打がゆっくりなテンポで弾けたとしても、残念ながら速く弾くためにはならない。

徐々にテンポを速くすると速く弾ける?

「ゆっくり練習」は、遅いテンポから徐々にスピードを上げていく練習だそうですが…その練習の仕方にも問題があります。

徐々にスピードを上げていくとき、みなさんはどのような意識で練習していますか?恐らく大半が「ゆっくり弾いたときと同じように弾こう!」と思っているのではないでしょうか。この意識が、ずーっと練習しても、なかなか速く弾けない、あるテンポで急に弾けなくなる、という状況を作り出している、と私は考えています。

「ゆっくり弾いたときと同じように弾こう!」という意識で徐々にスピードを上げていくと…こうなります(図4)。

図4. どんなに頑張ってゆっくりなテンポでの演奏を極めても、その「弾き方」は速く弾くための「弾き方」ではないので、残念ながら速く弾くことはできない。

この記事で散々述べていますが、ポイントは、テンポによって弾き方が変わる、です。そのため、徐々にスピードを上げていったときに、「急にこのテンポから弾けなくなる」とか「速いテンポで弾いていると腕が痛くなる」という人は、大抵…

  • × 単なる練習不足
  • ○ 弾き方が悪い(= ゆっくりな弾き方のまま、無理やり速く弾こうとしている)

…ということが考えられます。それらの問題は、練習不足によるものではないので、「とにかくたくさん(ゆっくり)練習しろ!」とか、「努力で乗り切れっ!」などのような【根性論】でどうにかなるものではないです(そもそも、努力は「やれば上達するもの」ではない)。

ちなみに…このオクターブ連打の高速化が難しいのは、「脱力」という言葉の弊害によるものだ、私は思っています(肩の力さえ正しく使えていれば、高速オクターブ連打は誰でも楽に弾けるので)。

「ゆっくり練習」に代わる練習方法

「弾き方」の習得について

これは、「このフレーズは、どうやったら速く弾けるか?」を考えることで解決できます。そもそも、速く弾くためには、実際に速く弾いてみないとわからないものです。「ゆっくり練習」に代わる練習方法は…その名も「速く弾く練習」です。

…「なんだ、そのままじゃねーか!」と思われるでしょうが…、そう、その通り(ぇ。そろそろ耳にタコが出来ていると思いますが、ポイントは、テンポによって弾き方が変わる、です。先ほど「速く弾くためには、実際に速く弾いてみないとわからない」と言いましたが、速く弾くためには、まず自分が弾きやすいと感じるテンポでの「弾き方」はどうなっているのか?というのを練習で模索していくんです(図5)。

図5. 自分が弾きやすいと感じるテンポで、いろんな「弾き方」をしてみることで、弾きやすい「弾き方」が見つかる。

練習時のテンポ設定

ここで、「速く弾いてもミスするだけ。だから、ミスしないためにゆっくり弾くんだよ!」とか「速く弾くと、自分では気付かないミスがある。これこそ練習の意味がない」という批判をする人がいますが…どれも見当違いな批判です。

練習中の「ミス」は「失敗」ではなく、【成功の種】です。なぜなら、もしミスをしても、上記図5にあるように、【練習中にミスをして「弾きにくい…」と感じる = その「弾き方」では速く弾けない】というのがわかるからです。ゆっくり弾いてミスをなくしてしまったら…「その「弾き方」では速く弾けない」というのが見えなくなるため、速く弾く練習にはなりません。ミスをするから「次はどうしよう?」という思考が生まれ、そのおかげで充実した練習ができるんですから。

また、ミスを自分で気付けないのは「速く弾いているから」ではなく【ミスに注意を払う余裕がないから】です。そのため、練習時のテンポ設定は、簡単に言えば、ミスした時に「なぜミスしたのか?」が分析できる程度( = 自分が弾きやすいテンポ)と考えて練習するのが良いでしょう。

まとめ

今回のまとめです。

  • <「ゆっくり弾く」は速く弾く練習にならない>
    • テンポによって「弾き方」が変わる
      • 「脱力」という固定概念に捕らわれるな
    • ミスによって速く弾く「弾き方」を見つけよ
      • ミスは「失敗」ではなく、【成功の種】と心得よ
      • ミスに注意を払う余裕を作れるテンポで練習せよ

最後に一つ。

「ミスしないためにゆっくり弾くんだ」と言っている人は…練習って何のためにしているのでしょうか? だって、練習というのは…

  • × 最初からミスしないのが練習
  • ○ ミスを分析し、二度と同じミスをしないようにするのが練習

…ではないですか? ミスは、きちんと分析すれば癖にならないです(詳細は、記事「「ゆっくり弾く練習」は速く弾くために有効か」を参照)。

そもそも、そのような「最初からミスせずに演奏(練習)したい」という考えは、水泳で「泳げるようになってから水に入りたい」**と言っているようなもの。それ、おかしいと思いませんか?ミスをなくしたければ・速く弾けるようになりたいと願うなら、その練習の中で、たくさんミスをしなさい。ミスから学べるものはたくさんありますから(参考書籍『ミスタッチを恐れるな』)。

**)参考: 書籍『ずるいえいご』

この練習の具体例については、次回「~フレーズ練習編~」とその次の「~跳躍練習編~」で説明します。

では。

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