番外編10: 「無駄な力」を取り除く唯一の方法

公開日: 2019年8月9日金曜日 ピアノ 持論 脱力

こんにちは、リトピです。

ピアノを弾くときによく言われるのは「無駄な力を抜きなさい!」というセリフ。確かに、「無駄な力」が抜ければ身体が楽になる!と思うのは当然のことでしょう。このとき、よく「肩や腕の力が無駄だっ!」とか「重力に対抗する力は無駄ですっ!!」という風に言われますよね。そして、それに何の疑いも持たず、それらの力を抜こうと必死になろうとしている方々が多いと思います。

でも、これ……おかしくない?というのが本日のお話。

「無駄な力」を取り除く唯一の方法

先に結論!「無駄な力」を取り除く唯一の方法はこれです。

初めから【必要な力】だけに注目していればいい

「えっ、ピアノってまず無駄な力を抜くことが必要でしょ?だって、肩や腕、重力に対抗する力は無駄なんだから。。。」と思う人がいるでしょうが、その思考がおかしいってこと、気付いてます?

まず最初に「無駄」にフォーカスした場合、どうなってしまうのか、ちょっと例を出してみます。

前編1: 無駄な数字はコレだっ!

さて、図1(a)には1~9の数字が並んでいますよね。実は、この中で「無駄な数字」は2,6,4,8,9でーす(図1(b))!これからは、それらを抜いた数字を使ってね♪

図1. (a)1~9までの数字が並んでいる。(b) 「無駄な数字」に×を付けた。

ここで「えっ、なんで?」と思ったアナタ、それ、次のことに対しても同じこと言ってます?

前編2: 無駄な力はコレだっ!

さて、図2(a)には人間の筋肉が並んでいますよね。実は、この中で「無駄な筋肉」は「上腕の屈筋」「肩を上げる筋肉」「脇を締める筋肉」でーす!これからは、それらを抜いた筋肉を使ってね♪

図2. (a)人間の筋肉が並んでる。(b) 「無駄な筋肉」に×を付けた。

ここで「えっ、なんで?」と思わない人が多いらしい。言っていることは、上記の「無駄な数字」とほとんど変わらないのに。

中編: そもそも「無駄」とは?

そもそも、「無駄」って何なんでしょう?いきなり「これは無駄だっ!」って言われたら、アナタはどう思いますか?(図3)

図3. 何の根拠もなくいきなり、何もかも「無駄」と言われたら、アナタはどう思う?

上記の「無駄な数字」の例を示したとき、「えっ、なんで?」と思われた方ばかりだと思いますが、そのときこんな疑問が頭の中を駆け巡っているはず。

  • なぜ、その数字が無駄だと言えるの?
  • 本当にその数字は無駄なの?

この2つの疑問が解消されない限り、その掲げている「無駄な数字」が本当に無駄かはわからないはずです。

でもこれ、ピアノも同じはずなんですよ。いきなり「無駄な筋肉」はこれだ!と提示されたとき、本来ならば、こんな疑問が頭の中を駆け巡らなければいけないんです。

  • なぜ、その筋肉が無駄だと言えるの?
  • 本当にその筋肉は無駄なの?

この2つの疑問が解消されない限り、その掲げている「無駄な筋肉」が本当に無駄かはわからないはずです。でも、それを議論している人はほとんどいないのが現状でしょう。

仮に、それらの筋肉は「重力に逆らう筋肉だから無駄!」という説明があったとしても、「なぜ重力に逆らう筋肉が無駄だと言えるの?」「本当にその筋肉は無駄なの?」という疑問から解消されることはありません。

では、どのように考えればよいのでしょうか?

後編1: 【必要な数字】はコレだっ!

さて、図1(a)には1~9の数字が並んでいましたね。実は、この中で【必要な数字】は奇数でーす!これからは、奇数を使ってね♪

「なるほど、だから2,4,6,8は「無駄な数字」だったんだな……って、おい!9は奇数だから「無駄な数字」じゃないだろ!最初にリトピが言ってたのは間違いじゃねーか!!」

あちゃー。。。すまんすまん。

ってな具合で(ぇ、「無駄な数字」がなぜ無駄なのか?その「無駄な数字」は本当に無駄なのか?というのは、まず初めに【必要な数字】がわかってようやく議論できるんです。要は、まず最初にフォーカスすべきは【必要な数字】は何かってこと。

後編2: 【必要な力】はコレだっ!

さて、図2(a)には人間の筋肉が並んでいますよね。実は、この中で【必要な筋肉】は腕を支える筋肉でーす!これからは、それらの筋肉を使ってね♪

「なるほど……って、おい!「無駄な筋肉」として挙げられていたのは、ほとんどが腕を支える筋肉だろっ!最初にxxが言ってたのは間違いじゃねーか!!」

って……ならないのがピアノ界のダメなところ。本来ならば、「無駄な筋肉」がなぜ無駄なのか?その「無駄な筋肉」は本当に無駄なのか?というのは、まず初めに【必要な筋肉】がわかってようやく議論できるんです。要は、まず最初にフォーカスすべきは【必要な筋肉】はどこかってこと。

【必要な筋肉】とは?

ところで。上記で「【必要な筋肉】は腕を支える筋肉だ」と言いましたが、きっとみなさんはこんな疑問が頭の中を駆け巡るはず。

  • なぜ、その筋肉(力)が必要だと言えるの?
  • 本当にその筋肉(力)は必要なの?

でも、無駄な力とは違って、それらが必要である理由を探すのは非常に簡単。もしそれがなかったらどうなるか?を考えればいいです。腕を支える筋肉がなかったら……腕は重力によって垂れ下がり、鍵盤の上に持っていくことができません。仮にその筋肉を使わずに打鍵できても、腕を支える筋肉がなければまた元の体勢に戻ることはできません。

あともう1つ、それらが必要である理由を探す方法があります。それは、いろいろ実験してみること。これまでいろんな研究者がいろんな研究をして、いろんな実験をしています。その実験結果を見ると、何が【必要】なのか?が見えてくるんです(その、何が【必要】か、というのを当ブログではたくさん紹介している)。

上級編: 「無駄な力」は考えなくていいの?

今回、「無駄な力」を取り除く唯一の方法として、「初めから【必要な力】だけに注目していればいい」と言いました。勘のいい人はここで気付いたはず。「なぜ必要な力【だけ】に注目していればいい」と書いてあるのか、ということに。

これ、実は人間の脳が筋肉を動かす仕組みに従っています。看護roo!, 骨格筋の構造|動く(3)によれば、人間の脳は筋肉を動かすとき、このようになっている、と説明しています(太字下線はリトピによる)。

中枢神経から運動神経を通り「腕を曲げろ」と指令が届くと、上腕二頭筋が収縮します。筋肉が発達している人の場合、このとき力こぶができます。

上腕二頭筋が収縮すると、その外側の筋肉―上腕三頭筋―は同時に弛緩し、それによって前腕の骨格が引っ張られて腕が曲がります。これが、筋肉の収縮によって肘関節が曲がる仕組みです。

肘関節を伸ばすときは、この逆になります。


注目すべきは、中枢神経からの指令は、収縮させたい筋肉にしか届かないということです。弛緩の命令は下りません脳は腕を曲げたいと思うときは上腕二頭筋へ、伸ばしたいときは上腕三頭筋へ「収縮しろ」と命令するだけです。
(中略)
筋肉の弛緩は、脳からの指令が止まることでスタートします。

大事なところには太字にして下線を引きました。これを簡単にまとめるとこんな感じ。

  • 脳は、収縮させたい筋肉に「収縮しろ」と命令する【だけ】
  • 脳には弛緩の命令はなく、筋肉の弛緩は脳からの指令が止まることでスタートする
    → 脳には「脱力しろっ!」という命令はない。

これ、「脱力」信者には驚きの事実でしょう。彼らの存在意義がなくなりますからね。

それはさておき。。。つまり、ピアノを弾くとき、いくら「無駄な筋肉」の「脱力」を強く意識したところで、脳は該当する筋肉に対して「弛緩しろっ!脱力しろっ!!」という命令は出せないので、問題は何も解決しません。それどころか、「無駄な筋肉」を意識し過ぎているせいで、その筋肉に対する「脳からの指令」を止めるのも難しくなってしまう……という弊害が起こり得ます(図4(a))。

一方、ピアノを弾くときに【必要な筋肉】を使うように意識すれば、脳はその筋肉に対して「収縮しろ」と命令してくれます。さらにそのとき、「無駄な筋肉」に対して(意識して)何もしなければ(アレクサンダー・テクニークでいう「ノン・ドゥーイング」をすれば)、その筋肉に対しての指令が止まるので、筋肉の弛緩がスタートするわけです(図4(b))。アレクサンダー・テクニークが非常に効果的なのは、人間のこういった仕組みがあるからでしょう。(でも本当は逆で、人間のこういった仕組みを利用して、アレクサンダー・テクニークを作り上げたんだ、と私は思う。)

図4. ピアノを弾くとき(a)「無駄な力」を抜こうと努力する……が脳にはそれが出来ない。(b)【必要な力】を使おうと努力する……と脳がそれに答えてくれる。

ただ、これだけが「無駄な筋肉」を意識しないでよい、という理由ではありません。他にも理由があります。ちょっと次を見てみてください。

突然ですが、「ピンクの像」を思い浮かべないでください。

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・

はい、いかがだったでしょうか?恐らくほぼ100%の人が「思い浮かべないで」と言ったにもかかわらず、「ピンクの像」を思い浮かべてしまったのではないでしょうか。

実は心理学では、人間の脳は「否定語を理解できない」と言われています(参考: 心を自由に表現したい人のための「しつもんアート・パステル」福岡・北九州, 心理学のお話「ピンクの象」)。そのため、「「無駄な筋肉」を使うな!」という言い方が、「ピンクの像」同様、かえって「無駄な筋肉」を強く意識させてしまうんです。

このようなことも考えると、意識するときに大事なのは「無駄な力」ではなく、【必要な力】だ、ということがよくわかると思います。

ここまで難しく考えなくても。。。

ただ、こんな難しいことを考えなくても、純粋に【必要なもの】だけを集めてくれば、勝手に(意識せずとも)「無駄なもの」は排除される、というのはみなさんすぐに体感できます。最初に述べた数字だって、【必要な数字】である奇数だけを凝視すればこうなります(図5)。

図5. (a)1~9までの数字があります。(b)【必要な数字】だけにフォーカス。

ね、必要な数字【だけ】見ていれば、それだけでもう十分でしょう?「無駄な数字」なんて意識するだけ無駄ってこと。

まとめ

今回は、「無駄な力」を取り除く唯一の方法として、「初めから【必要な力】だけに注目していればいい」ということを紹介しました。

その理由として、以下の3つを挙げました。

  • 先に「無駄な力」を見ると、なぜ無駄か?本当に無駄か?がわからない
  • 先に【必要な力】を見れば、何が無駄かがハッキリする
  • でも、その無駄を意識するのは無駄(脳の仕組みを考慮)

もし先生に「無駄な力を抜け!」と言われたら、「どこが無駄な力ですか?」「なぜそれが無駄な力なんですか?」「本当にそれは無駄な力なんですか?」と訊いてみてください。たぶん、誰もそれを明確に答えられないと思います。

逆に、「では、必要な力は何ですか?」とも訊いてみてください。きっと良い議論が出来ると思います。(もしその先生と良い議論が出来なければ、その先生に就くのは止めた方がいい。たぶんピアノの弾き方を何もわかってないから。。。)

では。

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