番外編11: 「力を抜く」だけでは絶対に解決しないことがある

公開日: 2019年8月30日金曜日 ピアノ 持論 脱力

こんにちは、リトピです。

ピアノを練習しているときに必ずと言っていいほど言われるのが「力を抜きなさい!」という言葉。確かに、身体がガチガチになっていたら、ピアノを弾くのが大変になってしまうので、有効なアドバイスである……とは言えない、と当ブログでは散々言っているのですが、なぜ「力を抜きなさい!」というアドバイスがダメなのか、別視点から考えてみようと思います。

誤用(ミスユース)を正す、という考え方

先に結論!「力を抜く」だけでは絶対に解決しないことはこれだっ!!

間違った(身体の)使い方(= 誤用、ミスユース)をしている場合

「なんのこっちゃ?」と思う人は多いと思いますが、最近、楽器演奏者のケガは、単なる「弾き過ぎ(身体の使い過ぎ)」ではなく、【間違った(身体の)使い方をし続けた】ことが原因だ、と言われてきています(参考: ピアニストの脳と身体の教科書 第13回 ピアノ演奏による身体の故障(2))。

そのため、単に「力を抜く」とか「休息を増やす」ということをしても、ケガの根本原因である【間違った(身体の)使い方】を取り除くことはできない、というわけです。

これ、初めて見る人にとってはイメージしにくいと思うので、「ハサミの使い方」を例に、誤用について説明します。

「ハサミ」を誤用した場合

ハサミの使い方を知らないAさん。こんな風に使うと考えたそうです(図1)。

図1. ハサミを逆に持っているAさん

逆にハサミを持っているもんだから、紙が切り難くてしょうがない。でもAさんは、この使い方でどうにかしようと頑張っており……そのせいで、腕にはかなりの力が入っています。

このとき、先生から受けたアドバイスはコレ。

「力を抜きなさいっ!」

Aさんは、そのアドバイスを信じ、力を抜く努力をしていますが……彼はこれからどうなってゆくのでしょうか。。。(図2)

図2. 「力を抜きなさいっ!」というアドバイスを信じ、頑張り続けるAさん

「ハサミ」を正用した場合

一方、Bさんはこういうハサミの使い方をしていました(図3)。

図3. 正しくハサミを持っているBさん

Bさんは何の苦労もなくハサミを使えています。そのため、ツラそうにしているAさんを見てこう言います。「もっと力を抜けば?」と。。。

誤用の見つけ方

上記の内容を見たとき「いやいやいや、あんなハサミの持ち方するわけないじゃん!」「AさんとBさんの違い、見ればすぐわかるじゃん!最初っから力を抜くっていう問題じゃないよね!?」と思う人は多いでしょう。

でもそれは、アナタが【ハサミの正しい使い方(正用)】を知っていて、かつ、Aさんがハサミを【どうやって持っているかを実際に見て】いるからです。もし、ハサミの部分がブラックボックス化されていたら、Aさんのことをどう思います??(図4)

図4. AさんもBさんも同じことをしているのに、Aさんだけツラそう。。。

このとき、Aさんは「単に力の使い過ぎでツラそうにしている」のか、それとも「ハサミを誤用していて、ツラそうにしている」のか、全くわかりません。わかるためには、このブラックボックスを開けなければなりません(図5)。

図5. ブラックボックスを開けることで、Aさんがハサミを誤用していることがわかる

こういった誤用に気付かず、「力を抜きなさいっ!」というアドバイスを信じたまま、ハサミを使い続けるとどうなるでしょうか。もしかしたらこういった事態に陥るかもしれません(図6)。

図6. 力を抜き過ぎたせいで、ハサミを落とし、その落ちた勢いで腕をケガしてしまったAさん。あぁ、なんて可哀想……

ピアノの場合

では、上記の内容をピアノに置き換えて考えてみましょう。

ピアノの弾き方を知らないCさん。自分なりにあれこれ考えたそうです(図7)。

図7. 何とか頑張って必死に弾こうとしているCさん

正しい弾き方を知らないもんだから、ピアノが弾き難くてしょうがない。でもCさんは、この弾き方でどうにかしようと頑張っており……そのせいで、腕にはかなりの力が入っています。

このとき、先生から受けたアドバイスはコレ。

「力を抜きなさいっ!」

Cさんは、そのアドバイスを信じ、力を抜く努力をしていますが……彼はこれからどうなってゆくのでしょうか。。。(図8)

図8. 「力を抜きなさいっ!」というアドバイスを信じ、頑張り続けるCさん

このときCさんは、「単に力の使い過ぎでツラそうにしている」のか、それとも「ピアノを弾くときの身体を誤用していて、ツラそうにしている」のか。。。このままでは同様に全くわかりません。

もし、前者だった場合、「力を抜きなさいっ!」というアドバイスは恐らく有効でしょう。でも、もし後者だった場合は……そのアドバイスがアダとなって大ケガする恐れだって十分にあり得ます。そのため、本来ならば「力を抜きなさいっ!」というアドバイスをする前に、「単に力の使い過ぎでツラそうにしている」のか、それとも「ピアノを弾くときの身体を誤用していて、ツラそうにしている」を見極める必要があるわけです。

しかし、余計な力を使っているときは、大抵、「ピアノを弾くときの身体を誤用していて、ツラそうにしている」と言えるでしょう。なぜなら、身体を正しく使っていれば(正用していれば)、そもそも余計な力なんて発生しません(余計な力を発生させない身体の使い方が正用だ、とも言える)。

そのため、ピアノを弾いていて「ツラいな」と思ったときは、ピアノを弾くときの身体を誤用していないか?をまず初めに疑った方がいいです(図9)。力の入り過ぎは、その誤用した身体を無理やり動かそうとしているから、と考えましょう。

図9. 弾けないと感じたら、まず誤用を疑おう

ピアノでの誤用の見つけ方

では、どうやってピアノを弾くときの身体の誤用を見つければ良いのでしょうか?

みなさんがハサミの誤用を見抜いたとき、みなさんには以下の状態があったからでした。

アナタが【ハサミの正しい使い方(正用)】を知っていて、かつ、Aさんがハサミを【どうやって持っているかを実際に見て】いるから

っということは、ピアノを弾くときの身体の誤用を見つけるには、以下の2つを調べればよいです。

  • ピアノを弾くときの正しい身体の使い方を調べる
  • ピアノをどうやって弾いているかを実際に見る
図10. 誤用かどうかを見極めるために大事なこと

前者については、書籍『ピアニストならだれでも知っておきたい「からだ」のこと』などで勉強すればOK。

後者については、いろんな研究者が実際に初心者とプロの弾き方の違いを実際に調べてくれていますので、そちらを参考にしましょう。当ブログではそれをわかりやすくお伝えしています。また、書籍『ピアニストの脳を科学する 超絶技巧のメカニズム』も非常にオススメ。

まとめ

ピアノの練習で「上手くいかないなぁ……」と思ったとき、「力を抜きなさい!」という意識だけでは、上手くいかない根本原因である【誤用】を取り除くことは、絶対にできません。そのせいで、大ケガしてしまう恐れだってあり得ます。そういったアドバイスは、百害あって一利なし、と心得ましょう。

一方、「脱力」の代わりに【誤用】を意識し、それらを正用に変えていくことで、ピアノはもっと楽に弾けます。そして、そういった意識がケガの【予防】につながり、ピアノを長く弾き続けることもできますので、是非みなさんも意識してみてはいかがでしょうか。

では。

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