番外編8: プロと初心者の「打鍵の仕方」の違い~簡易版~

公開日: 2016年9月4日日曜日 ピアノ 脱力

番外編8: プロと初心者の「打鍵の仕方」の違い~簡易版~

こんにちは、リトピです。

ピアノに限らず、上達するために【プロの演奏】を参考にする人も多いでしょう。前回の記事「番外編7: プロと初心者の「打鍵方法」の違い」では、ピアノ打鍵動作の熟練技能:「重量奏法」の科学的検証の実験結果を用いて、初心者の弾き方とプロの弾き方の違いについてお話ししましたが、それをもっと簡略化してみました。両者の違いについて学んで、自身の練習に生かしましょう!

追記(2023/09/06): 2023/09/05に、とある閲覧者様より「前腕」を「上腕」と誤記載しているとのご指摘を受け、当記事全体を見直して修正しました。ご指摘してくださった方、誠にありがとうございます。

プロと初心者の差とは

今回、プロの「打鍵の仕方」を良い弾き方、初心者の「打鍵の仕方」をダメな弾き方として紹介します。

おさらい: 良い「打鍵の仕方」とは

前回の記事「番外編7: プロと初心者の「打鍵方法」の違い」でご紹介した、良い「打鍵の仕方」について再掲します。

---------------再掲ココから---------------

打鍵するときに力をバンバン使うと疲れちゃいますよね?そのため、【打鍵の際、少ない力で鍵盤を押せる】というのが一つの良い「打鍵の仕方」でしょう。

また、打鍵後は、鍵盤を下向きに押し続けても仕方がないですよね?そのため【打鍵後、鍵盤に下向きの力がかかる時間が短い】というのも一つの良い「打鍵の仕方」と言えるでしょう。

一旦まとめます。良い打鍵の仕方というのは、以下の2つと言えそうです。

  1. 打鍵の際、少ない力で鍵盤を押せる
  2. 打鍵後、鍵盤に下向きの力がかかる時間が短い

---------------再掲ココまで---------------

さて、プロの良い「打鍵の仕方」と初心者のダメな「打鍵の仕方」の簡易的な説明に入る前に…「打鍵する前」、つまり「ピアノを弾く構え」をしているときの状態をちょっと見てみましょう。これは、きっとプロも初心者もさほど変わらないでしょう。

この図1は、「ピアノを弾く構え」をしているだけなので、前腕(手首から肘の間の腕)は上がることも下がることもなく、ある位置で停止している、という状況だとしてご覧ください。図の下には、図の解説を設けてあります。

    <図の見方>
  • 画像: 打鍵の前、打鍵の時、打鍵後の状態
  • 数字: 話の流れの順番
  • オレンジの楕円: 筋肉
  • だいだい色の矢印: 筋肉の収縮によって生み出される力の方向
  • 青い矢印: 重力によって生み出される力の方向
図1. 「打鍵の前」
  1. 前腕は、重力によって 下がろうとする
  2. 前腕を支えるために収縮
  3. 上腕二頭筋の収縮によって 前腕を持ち上げようとする
  4. (1) = (3) より、前腕は下がらないし 上がりもしない = 支えられている

では、次は初心者のダメな「打鍵の仕方」を見てみましょう。

初心者のダメな「打鍵の仕方」

実際の「打鍵の時」→「打鍵後」の流れの様子です。早速見てみましょう。

初心者のダメな「打鍵の時」

図2. 初心者のダメな「打鍵の仕方」1: 打鍵の時
  1. 前腕を下げようと上腕三頭筋が収縮
  2. (1)によって生み出される下向きの力
  3. 重力によって生み出されている下向きの力
  4. (3) + (2)の力で打鍵 = 叩いているように見える

これが初心者のダメな「打鍵の仕方」の「打鍵の時」の状態。「打鍵の時に、力を入れる」というアドバイスによって、このような弾き方をしてしまっている人はいるのでは?

初心者のダメな「打鍵後」1

図3. 初心者のダメな「打鍵の仕方」2: 打鍵後
  1. 打鍵後に「力を抜いて」と言われる部分?
  2. 打鍵の勢いを止めるために上腕二頭筋を収縮(でも控えめ)
  3. (3)が控えめなため、前腕を持ち上げる力が小さい
  4. (3)の力が弱いので、打鍵時の勢いが止まらず…
  5. 前腕は、重力によって下がろうとする
  6. (3) < (5) のため、打鍵後でも鍵盤を押す下向きの力が残る

これが初心者のダメな「打鍵の仕方」の「打鍵後」の状態。「打鍵後は、すぐ力を抜いて」というアドバイスによって、このような弾き方をしてしまっている人はいるのでは?

また初心者の場合、上記(2)で、上腕二頭筋の収縮を控えめにしてしまっているのは、もしかしたら「脱力」という意識がそうさせているのかも。。。

もし、この後「脱力」という意識が強すぎる場合、以下の状態が起こる可能性があります。

初心者のダメな「打鍵後」2: 「脱力」を意識しすぎた場合

図4. 初心者のダメな「打鍵の仕方」3: 打鍵後~「脱力」を意識しすぎた場合~
  1. 「脱力」の意識1
  2. 「脱力」の意識2
  3. (2)がないので、前腕を持ち上げる力がなくなる
  4. 前腕は、重力によって下がろうとする
  5. (4)によって、鍵盤を押す下向きの力が発生
  6. (5)によって指がつぶれないよう(折れないよう)に、(無意識に)指を固める
  7. 指を固めるために前腕内の筋肉を収縮させる(前腕がこわばる) = (6)せいでそこの力は(意識的には)抜けない

これが、「脱力」を意識しすぎた結果です。(6)が起こる原因は、恐らく【無意識な】防衛反応によるものではないか、と推測しています。

また、この状況が起こっているとき、(7)の力は【意識的に】抜けない = 抜いてはいけない力、と捉えることができます(指がケガしないように…)。つまり、この状況において「力を抜いて」 or 「指を鍛えろ」はアドバイスになりません。力は(意識的に)抜けないし、鍛えたところで状況は変わりません。

この(7)の力みを取り去るには、この状況を変える必要があります。この状況に適したアドバイスは「上腕二頭筋の力を入れて、前腕を【支える】こと」です。それ以外に、この(7)の力みを取り去る方法はありません。

簡単に言うと、ピアノを弾いているとき、前腕が強張るのであれば、以下のことを意識してみると、良い結果が得られるかもしれません。

  • 問題: ピアノを弾いているとき、前腕に必要以上の力がはいる
  • 原因: 上腕二頭筋の力を必要以上に「脱力」させている可能性大
    (それによって腕の重さを指先で耐える(前腕内の筋肉が使われる)羽目になる)
  • 解決方法: 上腕二頭筋の力を入れて、前腕を支える

では、次はプロの良い「打鍵の仕方」について見てみましょう。

プロの良い「打鍵の仕方」

実際の「打鍵の時」→「打鍵後」の流れの様子です。早速見てみましょう。

プロの良い「打鍵の時」

図5. プロの良い「打鍵の仕方」1: 打鍵の時
  1. 上腕二頭筋の収縮量を、支えているときの力(色の薄い矢印)より弱める
  2. (1)によって、生み出される上向きの力が弱まる
  3. 重力によって生み出されている下向きの力
  4. (3) + (-(2))の力で打鍵 = 適切な力で打鍵

これがプロの良い「打鍵の仕方」の「打鍵の時」の状態。プロは「打鍵の時」、【重力を利用】して、上記のような弾き方をしています。このような弾き方だと、力をほとんど使わないため、非常に楽にピアノが弾けます。

プロの良い「打鍵後」1

図6. プロの良い「打鍵の仕方」2: 打鍵後1
  1. 上腕二頭筋の収縮量をかなり強める(上腕三頭筋も収縮する)
  2. (1)によって生み出される上向きの力
  3. 打鍵の勢いがすぐ止まる

これがプロの良い「打鍵の仕方」の「打鍵後」の状態。プロは「打鍵後」、上腕二頭筋の【力を使って】打鍵の勢いを止めます。そのおかげで、打鍵後は無駄と言われている「鍵盤を押す下向きの力」をすぐになくしています。

プロの「打鍵後」にはこの後の行動もあります。

プロの良い「打鍵後」2

図7. プロの良い「打鍵の仕方」3: 打鍵後2~元の状態に戻す~
  1. 前腕は、重力によって下がろうとする
  2. 前腕を支えるために収縮
  3. 上腕二頭筋の収縮によって前腕を持ち上げようとする
  4. (1) = (3) より、前腕は下がらないし上がりもしない = 支えられている = 鍵盤を押す下向きの力がなくなる

プロは、打鍵の勢いを止めた後、「ピアノを弾く構え」の状態に戻します。そのおかげで、打鍵後は無駄と言われている「鍵盤を押す下向きの力」をゼロにした状態を保たせています。

まとめ

上記図を見ながら、初心者のダメな「打鍵の仕方」を止め、どうすれば、プロの良い「打鍵の仕方」ができるかを考えてみましょう!

    <良い「打鍵の仕方」>
  1. 打鍵の時: 前腕を支えている力(上腕二頭筋)を弱めよう
  2. 打鍵後1: 打鍵の勢いを止めるため、前腕を支える力を強めよう
  3. 打鍵後2: 「ピアノを弾く構え」の状態に戻り、無駄と言われている「鍵盤を押す下向きの力」をゼロに保とう

では。

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4 件のコメント :

  1. 素晴らしい・・・ やっとよく分かりました。
    私は筋肉の疾患に悩まされ、古谷先生の治験にも参加していたものです。
    彼の読み物等も参考にしたり、ボディワークも試したりしてきましたが、結局脱力と演奏についての関係はよく分からずじまいでした。
    ようやく脱力を体感するところまで来たのですが、それでもプロとの差や違和感は否めませんでしたが、ようやく腑に落ち、心から感謝します!

    ただ、脱力の模索自体はマイナスどころか、色々なことを気づかせてくれる有効な手段です。目的を誤らないという観点からリトピ様の啓蒙活動とご尽力はとても素晴らしいと思います。
    これからもさまざまな視点から、より良いピアノ演奏についてご教示お願いいたします。

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    1. コメントありがとうございます。

      実は私も、過去10年位は「脱力と演奏」についての関係がさっぱりでした。
      当ブログは、いろいろ考えた結果、腑に落ちたと感じる内容を文章 & ビジュアルで示したものです。それが同じように悩んでいた他の方にも効果があるという事実は大変嬉しいです。こちらこそ、今のお気持ちを書き込んでくださってありがとうございます。

      今後も、ためになる記事を書いていこうと思いますので、もしよろしければ、今後もよろしくお願いいたします。(更新は不定期ですが…)

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  2. 最後の図7ですが、
    1、3、4で上腕とおっしゃっている部分は前腕のことでしょうか。

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    1. おっしゃる通りです!ご指摘ありがとうございます。
      これから修正します。

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