本当は怖い重力奏法3: 「脱力」したまま音量はコントロ―ルはできるのか1
こんにちは、リトピです
前回の記事「腕の自由落下を利用した打鍵は危険!」では、打鍵時にも「脱力」せず、必要なところに力を入れることで、打鍵の動作方向を適切な方向にコントロールすることができる、というお話をしました。しかし、それを実現できたからといって、重力奏法や「脱力」奏法でピアノの音量はコントロールできるのでしょうか。今回は、そんなお話です。
ピアノの音量は何で決まるか
ピアノの音量の変化をもたらすのは唯一、ピアノの弦を叩くハンマーの速度のみです。 打鍵時、指が鍵盤に接触してから、鍵盤が底を突くまでの間 (実際はその接触時間の70%程度 (『楽器の物理学』, 丸善出版(株), p.356参照))以外は何しても、理論上はピアノの音量自体に何の影響も及ぼしません。
これは、重力奏法や「脱力」奏法をこよなく愛する人たちも、当然だと納得する内容でしょう。
問題は、そのハンマーの速度は何によって決められているのか、です。彼らはよく「打鍵スピード」という言葉を使って説明しています。でも、この言葉も実は厄介なんですよね。だって...
スピードやエネルギーはイメージしにくい
打鍵するときのイメージを図1に示します。ピアノの内部構造はかなり複雑なので、ラフに描いています。 詳しく知りたい方は『楽器の物理学』, 丸善出版(株)の p.356~をご参照ください。
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図1: 打鍵するときのイメージ。 打鍵位置とハンマーの位置が鍵盤の支点から等距離にあると仮定 |
ここで、重力奏法を謳う人たちはしばしばエネルギー保存の法則を引合いに、打鍵する高さhから腕を自由落下させたとき、打鍵時(鍵盤に当たる瞬間)のスピードvを以下のように求めようとします。(mは腕の質量)
あ、あれ...?
この式を見て、何かおかしいと思いませんか?自由落下の場合、速度を変更する手段は高さしかありません。 つまり、腕じゃなくても、ボウリングの玉だろうが、ピンポン玉だろうが、自由落下させる物体はまったく関係なく、打鍵時(鍵盤に当たる瞬間)のスピードは、自由落下させるときの高さのみで決まるわけです。(一応言っておきますが、ここまでの理論は正しいです。)もし、ピアノの音量が打鍵スピードのみで決まるのであれば、同じ高さから腕、ボーリングの玉、ピンポン玉を落としたとき、ピアノから同じ大きさの音量が出てくるはずです。
でも、ちょっと待って。
ご想像の通り、ボーリングの玉を落とした場合はピアノが破壊され、ピンポン玉を落とした場合にはピアノの音はまったく出ません。どちらも同じ打鍵スピードなるのに。。。これは、運動エネルギーの式を見れば明らか (質量が大きい方がエネルギーが大きい)ですが、運動エネルギーはイメージしにくいので、ちょっと視点を変えてみましょう。
ボーリングの玉もピンポン玉もある力で落下方向に引っ張られています。そう、重力奏法を謳う人たちがもっとも崇拝している重力(F = mg)です。式からもわかるように、重力によって重たいものは落下方向に強く引っ張られ、軽いものは弱く引っ張られる。だから自由落下の際、物体の質量に関係なく同じ速度で落ちていくんですよね。ボーリング玉は質量が大きいので、かなり強い力で地面方向に引っ張られています。つまり、ピアノの音量を決める要素で重要なのは、「打鍵時に鍵盤にかかる力」であり、打鍵スピードは、その「打鍵時に鍵盤にかかる力」で決まります。
今回はここまで。次回の記事「「脱力」したまま音量のコントロールはできるのか2」は、この続き。 重力奏法が、いかにピアノ演奏向きではない奏法なのか、というところをさらにお話しできればと思います。
では。
P.S.
ここでの打鍵スピードは、鍵盤に当たる瞬間の物体のスピードとしていますが、本来は恐らく、鍵盤が底まで突くまでのスピードと考えるべきなのでしょう。
でも、ピンポン玉を見てください。軽くて素早く動かせるから打鍵スピードを速くできそうですが、残念ながら鍵盤を押し込む力はまったくありません。
いくら、重要なのは鍵盤が底まで突くまでのスピード、と言っても打鍵時に鍵盤が押し込まれなければ、そもそもピアノから音が出ないですからねぇ。
よって、何度も言いますが、ピアノの音量を決める重要な要素の一つは、打鍵スピードというよりかは、「打鍵時に鍵盤にかかる力」です。
物体が鍵盤に衝突したとき、鍵盤がそこに沈むスピードを決定しているのは、衝突する物体の質量と速度です。つまり、運動量です。
返信削除コメントありがとうございます。この記事では、腕を脱力させると起こる【自由落下】(中学物理)に焦点に当てているので、運動量(高校物理)は除外しています。
削除……が、どうやらアナタ様は【運動量】が何かを全然わかっておられないようですね。。。
鍵盤の【運動量】(の変化←ここに鍵盤が沈むスピードが含まれている)は【打鍵時に鍵盤にかかる力】と【その力がかかっている時間】の積で決まります(これを力積と呼ぶ)。後者を含めると話が難しくなるのでこの記事では除外していました(別記事では紹介しています)。
ですが、アナタ様が述べている「鍵盤がそこに沈むスピードを決定しているのは、衝突する物体の質量と速度です」というのは「運動量保存の法則」なので、話が全然違います。
(……が、結局「鍵盤がそこに沈むスピード」は、この場合【衝突する物体の速度】が支配的になるので、その速度をどうすれば変えられるかを考えれば、「脱力」という考えがおかしいことがわかってくる)
それらの違いがわからなければ、アナタ様はまだこの手の話題に首を突っ込むレベルにはいません。今後、この手の話題にツッコみを入れたければ、まずはもうちょっとマジメに高校物理を勉強されることをオススメします。