「ゆっくり弾くこと」の罠3: 速く弾くためには「速く弾く練習」が必要
こんにちは、リトピです。
ピアノ上達方法、練習方法において、「ゆっくり弾くこと」が挙げられることが多いですが…「ゆっくりした動作」と「速い動作」では、その動作をこなすための難しさが違う、というのをご存知でしょうか?今回はその部分を紐解いていきましょう。
速く弾くために
導入部
初回の「「ゆっくり弾くこと」の罠1: 「ゆっくり弾くこと」の罠とは」では、以下の点について問題提議をさせていただきました。
- 「ゆっくり弾くこと」が練習の目的になっていませんか?(解決)
- 練習中、テンポ取りをメトロノーム任せにしていませんか?(解決)
- 練習の前後で、自分の弾き方がどう変化したか、把握できていますか?
- 普段の練習が、反復練習・機械的な練習になっていませんか?
- ゆっくりな動作と速い動作の大きな違いに気付かれていますか?
- 今の自分のレベルで確実に弾けるテンポ、どれくらいか把握されていますか?
前回の「「ゆっくり弾くこと」の罠2: 大事なのは「何をどう弾くか」」では、上記の罠1, 罠2を解きました。今回解く罠はコチラ。
- 練習の前後で、自分の弾き方がどう変化したか、把握できていますか?
- 普段の練習が、反復練習・機械的な練習になっていませんか?
- ゆっくりな動作と速い動作の大きな違いに気付かれていますか?
では、さっそくこの3つの罠を外すことに取りかかりましょう。
目的の達成度を練習後に確認しよう
まずは、「罠3: 練習の前後で、自分の弾き方がどう変化したか、把握できていますか?」「罠4: 普段の練習が、反復練習・機械的な練習になっていませんか?」を解くことから始めます。
普段、何気なく練習をしていると「あれ、いつの間にかここが弾けるようになっている!」と思うことはないでしょうか?これは、特に「ゆっくり弾くこと」を練習に取り入れている場合に多いです。でも…なぜ弾けるようになったか(つまり、練習の前後で、自分の弾き方の何が変わったのか)をハッキリと感じることはできるでしょうか?
練習の前後で、自分の弾き方がどう変化したか把握できなかった場合、大抵は【反復練習】によって弾けるようになったと【錯覚】させられてるだけです。自分の中での変化を感じないのに弾けるようになったのは、反復練習によって悪い弾き方の精度が上がっただけだ、とお考え下さい。
悪い弾き方の精度が上がっただけなのであれば、またその部分が弾けなくなったり、手や腕を痛めたりする恐れがありますので、単なる【反復練習】は絶対に避けなければなりません(参考記事: お悩み相談室7: ピアノの練習方法を教えてほしいのですが…その1)。
この罠3を解くカギは、前回の「「ゆっくり弾くこと」の罠2: 大事なのは「何をどう弾くか」」でお話しした、練習の【目的】です。
練習の【目的】を掲げることで、練習後に「その【目的】はどれくらい達成できたか?」という評価ができます。また、その【目的】を達成するために、主体的に弾き方等を試行錯誤するわけですから、「今自分が何をしているか?」「今やってみたことは目的を達成できそうか?」を考えることができます。
そのため、練習の【目的】を掲げて練習することによって、「【目的】を達成できたと感じた = 練習の前後で自分の弾き方がどう変化したかが把握できた」となるわけです。
「ゆっくり弾くこと」の落とし穴
次は、「罠4: ゆっくりな動作と速い動作の大きな違いに気付かれていますか?」を解いていきましょう。
ここで…「ゆっくり弾くこと」は、「なぜ今の自分は上手に(速く)弾けないのか」という問題を模索するため(【理想】【現状】【過程】を把握するため)にやっているんだ、と考えている人は要注意です。その考えには大きな落とし穴があります。
まずは、下の図をご覧ください。とある練習の簡易的な流れです。
図1. 練習の簡単な流れ。上は「ゆっくり弾くこと」を問題探しに利用、下は「ゆっくり弾くこと」を問題解決の【手段】として利用。「ゆっくり弾くこと」の扱い方によって、練習の良し悪しがガラッと変わる。 |
実は、「ゆっくりした動作」と「速い動作」では、動作の難しさの性質(その部分が上手に弾けない理由)が異なります。もし、速く弾けない問題を「ゆっくり弾くこと」で探そうとすると…「速い動作」の難しさの性質Aを見落としてしまうだけでなく、「ゆっくりした動作」の時に現れる「難しさの性質B」を「速い動作」の難しさの性質と誤認してしまう恐れがあります(図1の上側)。これは効率の良い練習とは言えません。
「速い動作」を上手に行えるようにするには、その動作の「難しさの性質A」は何か、を知る必要があります。それを知ることができれば、何をどう練習すればその難しさを解消できるかが見えてきます(図1の下側)。
「ゆっくりとした動作」と「速い動作」におけるそれぞれの難しさは、実際に自分でやってみる(歩く・自転車をこぐ、などという動作を極端にゆっくり・速くやってみる)と、何がどう難しいのかがわかってきますが、大抵、以下の難しさが感じられるでしょう。
- ゆっくりした動作の難しさ: ゆっくりな動作をずーっと続けることができるか
- 速い動作の難しさ: 短時間に(どれだけの距離を)素早く正確に動かせるか
速く弾くためには、この「速い動作」のときに現れる難しさを乗り越える必要があります。よって、「速く弾く練習」とは、速く弾くときに現れる難しさを解消させるために行うもの、とお考え下さい。
この「速く弾く練習」の具体例については、次の記事「「ゆっくり弾くこと」の罠4: 「速く弾く練習」の具体例」でご紹介します。
まとめ
今回のまとめです。以下の内容を意識しながら練習することで、アナタの練習効率がグッと上がりますよ。
- 練習の【目標】を練習前に(明確にして)掲げ、練習後にその達成度を確認しよう
- 「ゆっくり弾くこと」の繰り返し = 単なる【反復練習】と心得よ
- 「ゆっくり弾くこと」で見つけた課題は、速く弾くために乗り越えるべき課題ではない
- 「速い動作」の難しさを克服するには、「速く弾く練習」が必要
余談: 「ゆっくり弾くこと」は退屈?
よく「ゆっくり弾くこと」を練習に取り入れていると「退屈だ → 練習を真剣にしていない」や「勝手に速くなる → それが速く正確に弾けない理由」などと言われますが、それらは、速く弾くために乗り越えるべき課題ではありません。単に練習の仕方が悪いだけです。
実は、それらの言葉の内容自体が「ゆっくりした動作」の難しさの性質をよく表しています(つまり、それらは「速い動作」の難しさを表していない)。どういうことか、以下で解説します。
「ゆっくり弾く」と「退屈だ」と言いたくなるのは正常な反応
人には、心地よいテンポやスピードというものがあります(参考: 最も心地よいテンポとは?)。心地よいテンポではない演奏に対して「退屈だ」と思うのは当然。悪いのは、練習でやみくもに「ゆっくり弾く」からであり、決して「練習を真剣にしていない」わけではありません。
また、この「ゆっくり弾く練習」の「退屈さ」に耐えたとしても、得られるのは【「ゆっくりした動作」の難しさを克服】だけですので、ご注意を。
「ゆっくり弾く」と「勝手に速くなる」のは正常な反応
人は、普段の慣れた速度よりも極端に遅くなるとイライラします。渋滞とか、レジ待ちでハマったときを想像してください。その状況で「もっと速く進みたい」と思うのは当然。悪いのは、練習でやみくもに「ゆっくり弾く」からであり、決して「それが速く正確に弾けない理由」というわけではありません。
また、この「ゆっくり弾く練習」の「勝手に速くなる」気持ちに耐えたとしても、得られるのは【「ゆっくりした動作」の難しさを克服】だけですので、ご注意を。
では。
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