番外編6: 「脱力」で得られるものは何もない

公開日: 2016年8月30日火曜日 ピアノ 脱力

こんにちは、リトピです。

ピアノのコツとも言われる「脱力」、他にも「力を抜く」や「力を緩める」という言葉がありますが、このアドバイスで得られるものは何だと思いますか?実は何もない…それどころか、下手すると害になっちゃうんです!なぜ、そうなってしまうのか、というのがこのお話し。

「力を抜く・緩める」とは

この記事では、内容をわかりやすくするために、かなりアバウトな表現を使っています。若干事実とは異なる部分がありますが、ご了承いただければ幸いです。

練習初日: 「脱力」で得られるもの

例えば。ピアノは「80」の力があれば弾ける、と仮定しましょう。

もし…ピアノを「100」の力で弾いてしまったら、それは力の入れすぎです。きっと身体はガッチガチ。

ここで「脱力」、つまり「力を抜け・緩めろ」という指示があったとしましょう。その指示通り、今の「100」という力から【「20」減れば】、ちゃんとピアノが弾けますね。

図1. 「脱力」によって得られる学習結果

この説明だけ見ると…「えっ、「脱力」という指示で十分じゃん」と思うでしょう。でもこれには大きな落とし穴があります。次の内容をよく覚えておいてください。この「脱力」という指示で得られた(学習できた)のは、弾けない時は力を【「20」減らす】(抜く・緩める) 、ということです。

この「脱力」という指示で得られたもののどこが落とし穴なのでしょうか…。。。まずは、一旦ここまでの内容をまとめます。

  1. 理想: 80の力で弾く
  2. 現状: 100の力で弾いている
  3. 指示: 「脱力」しなさい
  4. 結果: 力を【「20」減らす】と弾ける
    = 練習による学習結果

練習2日目: 先日の練習で得られたものは?

前回の練習で得たものは、「力を【「20」減らす】と弾ける」ということでした。「…あれ?最初どれくらいの力で弾いてたっけ?」(←これが「脱力」練習のダメな理由の一つ)。

と、とりあえず…今日の練習では、「力を抜く」ということを意識しすぎて、「60」の力で弾いてしまったとしましょう。

これでは、力が足りな過ぎ。これではピアノは全然弾けません。。。

ここでも「脱力」、つまり「力を抜け・緩めろ」という指示をする…なんてありえないだろ!、と思う方がいらっしゃると思いますが、ここで登場するのが、先日の「脱力」練習で得たもの。

先日の練習で得られたものは「力を【「20」減らす】と弾ける」です。もし、ここで、「現状は、力が足りな過ぎて弾けない」ということに気付けなかったら…もしかしたら、「今日も、昨日の練習と同様に、力を抜けば弾けるかも」と思い、それを試そうとする、というのは十分あり得ると思えませんか?

以上をまとめるとこんな感じ。

  1. 前回の学習結果: 力を【「20」減らす】と弾ける
  2. 最初: なぜか前回の学習結果が使えない。。。
    → とりあえず、力を抜いて(60の力で)弾く
    → うまくいかない
  3. 指示1: 前の学習結果を利用して「脱力」してみよう
    → うまくいかない
  4. 結果1: まだ脱力が足りない?
    = 練習による学習結果
  5. 指示2: 前の学習結果を利用して「脱力」してみよう
    → うまくいかない
  6. 結果2: まだ脱力が足りない?
    = 練習による学習結果
  7. 以下繰り返し…(この練習は悪い練習)
図2. 「脱力」による練習で得た学習結果を利用…できない

これが、「脱力」という指示による練習の落とし穴です。これが続くとどうなるか。。。

恐らく…必要な力(支え)までもが抜け、身体のバランスが崩れます。この崩れたバランスによって倒れないように・ケガしないように、今の状態を耐えようとするでしょう。もっとピアノが弾けなくなりますね。

さらに…この状況でも「脱力」という言葉にとらわれていると、「ピアノが弾けない = 力が抜けてない」という思考になり、今のバランスが崩れた状態を耐えようとする力までもを抜こうと躍起になるでしょう。。。

それが続くとどうなるか。。。小さな痛みから始まり、それが蓄積し、下手するとピアノが弾けなくなるほどの大けがをするかもしれません(詳細は、記事「番外編2: 「脱力」というワードは危険」を参照)。

「脱力」という言葉が怖いのはこの部分。ケガしたら元も子もないですからね。。。

練習での正しい考え方

大事なのは、ピアノを弾くためには「どれくらい力を入れるか」を知ること。つまり、最初の時点で「80」を探す方法で練習をすればよかったんです。

「脱力」という指示の場合、最初に弾いた「100」の力を【基準】にしています、それが間違っているにもかかわらず。。。この間違った基準から【どれだけの力を抜くか】という練習に意味はありません。練習中に【どれだけの力を抜いたか】という結果に意味はないので。。。

そういう場合は一旦止めて、「次は、どれくらいの力を入れればいいかな?」と【新しい方法】で弾くようにすると良いでしょう。

図3. 大事なのは「どれくらい力を減らしたか・抜いたか」を知ることではなく、「どれくらい力を入れるか」を知ること

このとき、別に間違っても・ミスしてもいいんです。その間違い・ミスは「この力・弾き方じゃうまくいかないよ」というのを我々に教えてくれますから。

一旦ここで、以上のまとめをしておきます。

    <練習初日>
  1. 理想: 80の力で弾く
  2. 現状: 100の力で弾いている
  3. 指示1: 次はAという力で弾こう
    → うまくいかない
  4. 結果1: Aという力じゃ弾けない
    = 練習による学習結果
  5. 指示2: 次はBという力で弾こう
    → うまくいかない
  6. 結果2: Bという力じゃ弾けない
    = 練習による学習結果
    ...
  7. 指示n: 次はXという力で弾こう
    → うまくいく
  8. 結果n: X(= 80)という力で弾ける
    = 練習による学習結果
  9. <練習2日目>
  10. 前回の学習結果: いろいろ試した結果、X(= 80)という力で弾ける
  11. 最初: 前の学習結果を利用して、X(= 80)という力で弾く
    → うまくいく
  12. 繰り返す必要なし。(この練習は良い練習)
図4. 良い練習の例: 練習初日では、「どのくらい力を入れればいいか」を意識。
図5. 良い練習の例: 練習2日目。初日の練習で得た学習結果を利用することで、スムーズにピアノが弾ける。

まとめ

今回の内容のまとめです。以下の点に気をつけて練習すると、より効率の良い練習ができるようになるでしょう。

  1. 「脱力」による練習: 「どれくらい力を抜けばいいのか」を探る
  2. 「どれくらい力を抜けばいいのか」という結果は、得ても意味はない
    → 結果、「脱力」で得られるものは何もない
  3. 本当に必要な練習: 「どれくらい力を入れればいいか」を探る
  4. 「どれくらい力を入れればいいか」がわかれば、ピアノは弾ける

補足: 人間は、「力を抜く」ということを実行できない

そもそも、人間は、脳からとある筋肉に向けて「力を抜け!」という指令を出すことができません(詳細は、記事「番外編1: 重力を利用した演奏方法の正しい解釈」を参照)。そのため、たとえ、「脱力」という練習で、【どれだけの力が抜けたか】ということがわかったとしても、絶対に「力を抜く」ということは実行できません。

そういったことも踏まえると、やはり練習では、「どれくらいの力を抜けばいいのか」ではなく、【どれくらいの力を入れればいいか】を意識して練習する方が良い、と言えるでしょう。

では。

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