「ゆっくり弾くこと」の罠5: 今自分が弾けるの「最良のテンポ」を探そう
こんにちは、リトピです。
ピアノ上達方法、練習方法において、「ゆっくり弾くこと」が挙げられることが多いですが…練習時のテンポってどれくらいにすべきなのでしょうか?また、目標にすべきテンポはいくつにすべきなのでしょうか?今回はそんなお話。
「最良のテンポ」とは
導入部
初回の「「ゆっくり弾くこと」の罠1: 「ゆっくり弾くこと」の罠とは」では、以下の点について問題提議をさせていただきました。
- 「ゆっくり弾くこと」が練習の目的になっていませんか?(解決)
- 練習中、テンポ取りをメトロノーム任せにしていませんか?(解決)
- 練習の前後で、自分の弾き方がどう変化したか、把握できていますか?(解決)
- 普段の練習が、反復練習・機械的な練習になっていませんか?(解決)
- ゆっくりな動作と速い動作の大きな違いに気付かれていますか?(解決)
- 今の自分のレベルで確実に弾けるテンポ、どれくらいか把握されていますか?
記事「「ゆっくり弾くこと」の罠2: 大事なのは「何をどう弾くか」」では、上記の罠1, 罠2を解きました。また、前回の「「ゆっくり弾くこと」の罠3: 速く弾くためには「速く弾く練習」が必要」では、上記の罠3, 4, 5を解きました。
今回解く罠はコチラ。
- 今の自分のレベルで確実に弾けるテンポ、どれくらいか把握されていますか?
では、さっそくこの最後の罠を外すことに取りかかりましょう。以下では、テンポに関する「ゆっくり弾く練習」の捉え方と【リトピ案】の捉え方の2つの視点で考えていきます。
練習の「目的」
記事「「ゆっくり弾くこと」の罠2: 大事なのは「何をどう弾くか」」では、練習の「目的」を掲げることが大事だ、というお話しをしました。では、目指すべきテンポ・練習中のテンポは、どのような「目的」で決められるのでしょうか。「ゆっくり弾く練習」と【リトピ案】で考えてみましょう。
-
<目指すべきテンポ>
- ゆっくり弾く練習: インテンポ、指定速度
- リトピ案: 自分らしく演奏できる「最良のテンポ」
「インテンポ」や「指定速度」を目指すことに何の意味があるのでしょうか。ハノンやツェルニーでさえ、テンポ重視で練習をしてしまうと、ややもすると、練習が単なる「反復練習」や「機械的練習」になってしまいます。それは、非常に危険です(詳細は、記事「お悩み相談室7: ピアノの練習方法を教えてほしいのですが…その1」を参照)。
もちろん、指定速度が大事なのは確かです。でも、自分がその速度・テンポで演奏できるかどうかは、目指すべきテンポを「インテンポ・指定速度」にしたかどうか…ではなく、正しい練習(速く弾けるようにする練習)をしているかどうか、です。大事なのは、テンポ云々ではなく、練習方法だ、というわけです。
一方、リトピ案では、自分らしく演奏できる「最良のテンポ」を目指すべきテンポとしています。これを目指すべきテンポとすることで、練習中や本番で、良い効果が得られます。
例えば…もし、目指すべきテンポを「インテンポ・指定速度」にしてしまうと、もしかしたら、練習不足なのにも関わらず、本番で無理やりインテンポで弾こうとしてしまうかもしれません。その代りに、「最良のテンポ」を目指すべきテンポにすることで、そのような事態を防ぐ効果がある、と私は考えています。
次は、テンポに関する「ゆっくり弾く練習」と【リトピ案】の練習方法の違いについてです。
どのくらいのテンポから練習を始めるか
「ゆっくり弾く練習」の場合、大抵は以下のようなことが練習で言われているでしょう。
-
<「ゆっくり弾く練習」で言われること>
- 非常にゆっくり(指定テンポの半分の速度など)で弾きなさい
- ミスしない速度でゆっくり弾きなさい
これらは、次の2つのミスを犯しています。
- 「ゆっくり」という指示だけでは不十分。ゆっくりした動作をするだけでは上達しません(詳細は、記事「「ゆっくり弾くこと」の罠2: 大事なのは「何をどう弾くか」」を参照)。
- ゆっくりした動作中に起こるミスを気にしても意味がない。ゆっくりした動作における難しさは、速い動作の時の難しさと違います(詳細は、記事「「ゆっくり弾くこと」の罠3: 速く弾くためには「速く弾く練習」が必要」を参照)。
一方リトピ案では、以下のようなことが意識できるテンポを「最良のテンポ」とし、練習中にもこのテンポを基準とします。
-
<リトピ案による「最良のテンポ」>
- 演奏中に(1)確認、(2)準備、(3)行動が意識できる
- ミスしたとき、「なぜミスしたか」を明確にできる
上記(2)については、「ゆっくり弾く練習」とは対照的ですが、非常に重要です。「Q. 練習中にミスをしていいんですか?」「A. いいんです!」。ミスのおかげで「なぜ、今自分はここが弾けないのか」「どうすればここが弾けるようになるのか」を探すことができます。ミスについての詳細は、書籍『ミスタッチを恐れるな』をご参照ください。
練習を始めるテンポに関する、「ゆっくり弾く練習」と【リトピ案】の両者の関係を以下の図に示します。
図1. 初期テンポ設定の違い |
どのようにテンポを上げるか
上記で、練習初期のテンポ設定について考えてみたところで…次は、練習中、どのようにテンポを上げるべきかを考えてみてみましょう。まずは、両者の違いをご覧ください。
-
<テンポの上げ方>
- ゆっくり弾く練習: メトロノームの1目盛りずつ、など
- リトピ案: 上げたくなったら、上げられそうだと判断したら
まずは、「ゆっくり弾く練習」から。よくある話が「メトロノームの1目盛りずつ」などといった、「テンポをある一定数、ちょっとずつ上げていく」という練習。これは、単に反復練習や機械的練習をしているにすぎません。この練習方法は、非常に非効率なだけでなく、そのような危険(詳細は、記事「お悩み相談室7: ピアノの練習方法を教えてほしいのですが…その1」を参照)もはらんでいます。
また、どんなに弾けるテンポが上がっても、目指すべきテンポである「指定速度」との差はあるわけですから、練習中は常にそのギャップにさらされます。そのため、いくら練習しても、その練習の達成感は非常に低いでしょう。そのため、「ゆっくり弾く練習」はつまらないと感じるのでしょう。
一方リトピ案では、テンポの上げ方について、練習する人の主体性を尊重します。「速く弾く練習」((1)確認、(2)準備、(3)行動が意識)を行うと、どうすれば自分はこの部分が速く弾けるかがわかってくるので、もっと速く弾きたいと思えるようになります(実際、そのときには今まで以上に速く弾けるようになっています)。
また、リトピ案では、目指すべきテンポが「最良のテンポ」であるため、変なギャップを感じずに済みます。つまり、ちょっとでも演奏できるテンポが上がれば、以前より速く弾けるようになったと【素直に】喜ぶことができます。それに、現時点でも十分満足できる、というのがポイントです。なぜそれがポイントなのかは後述。
テンポの上げ方に関する、「ゆっくり弾く練習」と【リトピ案】の両者の関係を以下の図に示します。
図2. テンポの上げ方の違い |
本番での演奏テンポ
一番重要なのはここですね。「ゆっくり弾く練習」とリトピ案との間の違いは以下のようになっています。
- ゆっくり弾く練習: インテンポで弾けない = 練習不足、ダメな演奏
- リトピ案: 自分らしく演奏できる「最良のテンポ」を保っていればOK
「ゆっくり弾く練習」で心配なのは、本番までに、目指すべきテンポである「インテンポ、指定速度」に達せなかった場合。下手すると、「インテンポで弾けない = ダメな演奏」と捉え、本番が乗り気じゃない、本番の演奏で本気になれない、などと考えてしまうかもしれません。
また、「インテンポで弾けない = 練習不足」と捉えると「まだインテンポで弾けないから(本当はもっと練習すればもっと弾けるんだぞ!)。。。」などの、上手に弾けなかったときの言い訳としても使えそうですね。…それはあまりにも不誠実ですが。。。
一方リトピ案では、もともとの「最良のテンポ」が目指すべきテンポであり、上記で説明したゆっくり弾く練習とは違い、変なギャップを感じず、今の自分が引き出せる最高の演奏を行えます。少なくとも、そのような考え方をすることで、心に余裕ができ、身体の中から沸き起こる演奏の意気込みを感じることができるでしょう。
本番での演奏テンポに関する、「ゆっくり弾く練習」と【リトピ案】の両者の関係を以下の図に示します。
図3. 本番演奏でのテンポ |
まとめ
今回のまとめです。以下の内容を意識しながら練習して、充実した練習を行いましょう!
- 自分らしい演奏できる「最良のテンポ」を目指そう
- 練習では、テンポを上げることを第一にしないこと
- なぜミスしたかが理解できる速度で練習しよう
- 本番でも「最良のテンポ」をキープしよう
補足: なぜ本番で走るのか
本番で走ってしまう理由はいくつか考えられると思いますが、その中で、大きな要因となっているのは、【自分の最良のテンポが狂っているから】というのが挙げられると思います。
「ゆっくり弾く練習」では、今自分が弾くことのできる「最良のテンポ」を調べないまま、いきなりメトロノームを使用して「とってもゆっくりしたテンポ」から練習を始めてしまいます。 そのような、メトロノームを使った反復練習・機械的練習では、自分にとっての、自分らしく弾くための「最良のテンポ」を見つけることができません。
恐らく、「ゆっくり弾く練習」では、自分の「最良のテンポ」が狂ったままのため、本番で走ってしまうのでしょう。
では。
0 件のコメント :
コメントを投稿