お悩み相談室16: 手首が下がるのですが…

公開日: 2017年10月16日月曜日 ピアノ 持論 脱力

こんにちは、リトピです。

さて、今回の「お悩み相談室」の内容はこちら。

悩み15: 手首が下がってしまう

初心者、特に子どもに多いこの悩み(ん…?実際に悩んでるのは、そんな生徒やお子さんをもつ先生や親かな?)。Web上などでは、これの原因や直す方法として、いろんなウワサ(?)が飛び交っていますが…今回は、その悩みを理系目線で捉え、ズバッと解決させちゃいます。

手首が下がる原因と対処法: 導入編

リトピが考えている「手首が下がる」という原因は…

原因: 過剰な「脱力」指導によるもの

…です。この「手首が下がる」という悩みは、「脱力」というおかしな考えによって生み出されてしまった弊害だと、私は考えています。恐らく、過剰な「脱力」指導によって、【必要な力】までもが、「脱力」されてしまったのが原因でしょう。この詳細は後述。

そして、これに対する対処法は…

対処法: 上腕二頭筋の力を使って前腕を支える

…たったこれだけ。「脱力」によって失われてしまった【必要な力】を使うようにすれば、ただそれだけで「手首が下がる」という悩みは解消されます。

では、詳細に移りましょう。

手首が下がる原因: 過剰な「脱力」指導

手首が下がる原因を、私は、【過剰な「脱力」指導】だといいました。これは、特に以下の2つが原因だと考えています。

  1. 手首の「脱力」
  2. 腕の「脱力」

なぜ、この2つの【過剰な「脱力」指導】が、「手首が下がる」という問題を作り出してしまうのか…一緒に考えてみましょう。

まずは、話を簡単にするために、人間の腕・手・指の骨格を簡易的に表します(図1)。

図1. 横から見た人間の腕・手・指の簡易的な骨格。四角が骨、丸が関節を表している。

この図1を基に、手首が下がっている状態を図にすると、図2のようになります。なぜ、こうなってしまうのか?その原因を探ってみましょう。

図2. 手首が下がってしまっている。なぜ?

原因1. 手首の過剰な「脱力」指導

さて、手首の過剰な「脱力」指導として有名なのが、【おばけの手】のポーズ。図1の模型を基にそのポーズをすると、図3のようになります。

図3. 過剰な「脱力」指導で有名な(?)おばけの手のポーズ

そして、この手首の過剰な「脱力」指導の次に来るのが、【その状態で鍵盤に手を載せる】という行為。このとき【手首は「脱力」、でも、指先はしっかり】というアドバイスも付くことがありますね。図1の模型を基にその行為を表すと、図4のようになります。

図4. おばけの手のポーズの状態から、鍵盤に手を載せると…こうなる。

おぉ、なんだか良さそうなフォームになっていますね。では、このまま、腕の「脱力」に移ってみましょう。

原因2. 腕の過剰な「脱力」指導

腕の過剰な「脱力」指導として、よく使われるのが、【腕の力を抜いて、腕の重みで打鍵しなさい!】というフレーズ。では実際に、図4の状態から、腕を「脱力」させてみましょう。図5をご覧ください。

図5. 手首の過剰な「脱力」のまま、腕を「脱力」すると…こうなる。…あれ?

あ、あれ…?なんだかおかしいですね。。。「脱力」指導で言われていることを忠実に再現すると、今回のお悩みである「手首が下がる」という状態と同じになってしまいます。さぁ、大変だ!

でも…よくよく考えると、これは当然の結果。手首を「おばけの手のポーズ」状態にしたまま(手首が完全に「脱力」されたままの状態)だと、手首の関節がまったく固定されていないので、腕が下がる勢いが全て手首側で吸収・いなされてしまいます。

そして…この状態から、もっと腕が下がり、手首がこれ以上曲がらないという状態になると…以下の図6のように、ようやく打鍵できる、というワケです。そして、この打鍵の仕方が、過剰な「脱力」指導で教えようとしている「理想の打鍵方法」です。恐ろしいでしょ?

図6. 「脱力」信者が広めようとしている打鍵のフォームはコレだ!

えっ、違うって?いやいや、そんなことないでしょう。上記の図は、一部の「脱力」信者が散々言っている(1)手首の「脱力」と(2)腕の「脱力」によって実現される打鍵です。彼らの(トンデモ)理論を基に、打鍵方法を考えると、上記のようにしかならないと思うんだよなぁ。。。

手首が下がらないようにするために

実のところ、原因(問題)さえハッキリとわかってしまえば、対処法は、ほぼ見つかったようなものです。何故かって??では、まずはその理由を説明します。

対処法: 腕を支えよう!

かの有名なアインシュタインは言いました。

「55分は問題を明確にすることについて考えることに費やすでしょう。
そして、5分でそれを解決しようと試みるでしょう」
これはどういうことか。サイト「人生の目的が見つかる『ジブン物語戦略』講座」によると…
じつは問題解決の肝は、これです。

問題を明確にする。
※「適切な問いを見つける」というのも同じこと。

問題が設定できれば、およそ解決策は見つかるものです。

つまり…この「手首が下がる」という問題を明確(その原因は【過剰な「脱力」指導】だ!)にしたことで、この問題を解決する方法はもう想像がつくというわけです。それがコチラ。

対処法: 上腕二頭筋の力を使って前腕を支える

上腕二頭筋は、肘を曲げる筋肉ですが、前腕(肘から手首の腕)を支えるためにも使われます。要は、問題となっている「脱力」の反対をやってみよう、ということです。これを図にすると、こんな感じ(図7を参照)。

図7. 上腕二頭筋の筋肉を使い、腕(前腕)を支えると、手首が下がらない

簡単に言うと、手首が下がってしまうフォームにならないように、キチンと腕を支えればいいだけ(つまり、手首が下がる原因は、「手首」ではなく「腕」の方にあった、というわけ)。…非常に簡単ですね(ここら辺の話は、記事「なぜ「脱力」は敵なのか6: まとめ ~打鍵後の「脱力」はダメ~」にも書いてますので、お時間があればそちらもどうぞ)。

これを過剰な「脱力」指導によって、【腕の支え】という【必要な力】までも抜き去ろうとした結果が「手首が下がる」という問題に発展してしまうんです。ホント、「脱力」信者は、この辺まで考えてアドバイスを考えてほしい。。。

打鍵するときは…

さて、この状態でどうやって打鍵するのか?その詳細は、記事「番外編8: プロと初心者の「打鍵の仕方」の違い~簡易版~」に任せるとして、ここでは手首にフォーカスしてお話します。

図7の状態から打鍵をするには、腕の支えを【弱めて】、腕を下ろしながら打鍵しますが…このとき、手首は【腕の勢いが手首より先に伝わって打鍵できるように、鍵盤からの抵抗力に負けないくらいの力】で、手首を固定させる必要があります(図8を参照)。

図8. 鍵盤の抵抗力に負けない程度に手首を固定することで、正しく打鍵できる

ここで、「えっ、手首を固定するのってダメじゃないの?」と思う人もいるでしょう。でも、図5の話を思いだしてください。

もし、この打鍵のときに手首を「脱力」させてしまうと、手首の関節がゆるゆるになるので、「腕が下がる勢いが全て手首側で吸収・いなされて」しまいます。そうすると図9のようになり、また「手首が下がる」という問題が出てきます。

図9. 手首を「脱力」させると、鍵盤の抵抗力に負けてしまい、手で鍵盤を下げることができず、代わりに「手首が下がる」

なぜ「関節を固める」必要があるのか、というのは、サイト「ピアニストのための脳と身体の教科書: 第07回 「力み」を正しく理解する (1)力み(りきみ)とは何か?」でも説明されています。

鍵盤から指先に加わる力に抗するためです。指先が鍵盤に力を加えると、同じだけの力を鍵盤は指先に対して加えてきます。ここで、関節が全く固まっていないと、鍵盤からの力に負けてしまって、音が鳴りません。
たまに、「関節を固める」という行為自体を【悪】と考える人がいますが…そういう人は、どうやって打鍵しているのか教えてほしいですね。。。(もし、その人が人間であれば、ピアノを弾くとき、絶対どこかの関節を固めています)

まとめ

さて、「手首が下がる」という悩みについて、原因とその対処法について今回はお話ししました。まとめるとこんな感じ。

  • <手首が下がる原因>
    • 過剰な「脱力」指導
      • 手首の「脱力」
        → 関節が固定されず、腕を下げても打鍵できない
      • 腕の「脱力」
        → 腕の支えが足りず、手首が下がって見える
  • <対処法>
    • 腕(前腕)を(上腕二頭筋で)支える

まさか、よく言われている「脱力」指導が、「手首が下がる」要因になっていたなんて、なんとも皮肉なものですね。。。みなさんは、そのような「脱力」信者のトンデモ理論による指導に惑わされないよう、十分お気を付けください。

番外編: 巷でウワサの対処法はどうなの?

さて、今回は、Web上などで言われている「手首が下がる」理由と対処法について、番外編で考察してみようと思います。よく見る内容は以下の4つではないでしょうか。

  1. (特に子どもは)筋力が足りない
    → 筋力が付くまで頑張る
  2. 姿勢が悪い
    → 背筋をピンと伸ばす
  3. イスの高さが合っていない
    → イスの高さを変更する
  4. 対処法: 手首の下に何かを置いて「触れちゃダメ!」

1. 筋力が足りない(特に子どもは)

これを「手首が下がる」という原因だと言っている人に、まず述べたいのは…

ふざけるなっ!!

他では「脱力」「脱力」と言いながら、なぜこういうところは「力任せ」に解決させようとするのか。。。馬鹿の一つ覚えみたいに「力を抜け」と言いながらも、よくわからないところで「力(筋力)が足りない」って…マジで何考えてんの?

ハッキリ言います。「力(筋力)が足りない」と感じるのは、確実に【その弾き方が悪い】。それは恐らく、「腕の重みで打鍵しなさい!」とか「肩の力を抜きなさい」などというトンデモ理論による指導を鵜呑みにしているせい(それに関する正しい打鍵方法の詳細は、記事「番外編4: 重力奏法を徹底解剖!」を参照)。

考えてみてください。肩や腕の力の抜けた重たい腕全体(体重50 kgの人であれば、片腕は3 kg = 子ども用ボーリングの玉程度)を手首や指先だけで支えようとするとどうなるのか。。。。要は、図10(a)のイメージを想像してみてください。これは子どもでなくとも、大人も相当な筋力がないと、腕全体を手首や指先だけで受け止めるのは無理です(だから、「力(筋力)が足りない」と勘違いする)。

一方、その腕全体を肩で支えようとしてみてください。イメージ的には図10(b)になります。こうやって、力強い肩で腕全体を支えてあげれば、手首や指先が楽になります。ざわざわ手首や指先という弱い部位が頑張らなくてもいいんです(これが、身体のコーディネート)。

図10. 腕全体を(a)手首・指先で支えた場合と、(b)肩で支えた場合。さて、どちらがより楽でしょう?

ここで、「えっ、ピアノって、腕の重さを鍵盤にかけないとダメないんじゃないの?」と思ったアナタ。。。とりあえず、中学物理をやり直しつつ、記事「プレ「脱力」: 「脱力」って何ぞや?」をご覧ください。

2. 姿勢が悪い

これは正しい。ただし、問題は「背筋」の方ではなく、【腕(特に前腕)の位置(角度)】です。手首が「脱力」されたまま(手首の関節がゆるゆるのまま)、前腕を支える力が弱まって、前腕の位置(角度)が下がると、「手首が下がる」という問題が発生します。「手首が下がる」という問題を解決したい場合は、この点を意識すると良いでしょう。

図11. 前腕を支える力が「脱力」されてしまうと、「手首が下がる」という問題が発生してしまう。

3. イスの高さが合っていない

結論から申しますと…イスの高さは、全く関係ないです。。。

考え…なくてもわかりますが、根本的な原因が払拭されなければ、そもそもの問題は解決しません。そのため、根本原因である過剰な「脱力」指導による手首と腕の「脱力」をやめない限り、「手首が下がる」という問題は解決しないです。

つまり、「手首が下がる」という根本原因が解決されない「イスの高さ変更」という行為は、残念ながら、ここでは全く意味がないです。

図12. イスを変えても、原因が解消されなければ、「手首が下がる」という問題は解決しない。

一方、根本原因を解消する「キチンと腕(前腕)を上腕二頭筋の力で支える」ということをしていれば、たとえイスがどんな高さであろうと、「手首が下がる」という問題は起こりません。

図13. 原因さえ解消されれば、イスを変えようが変えまいが、「手首が下がる」という問題はなくなる。

ここで実際に、イスの高さを変えて問題が解決した(と思い込んでいる)人は、恐らく…

  1. イスの高さを変える前→悪い癖によって「手首が下がる」
  2. イスの高さを変えると…
  3. 悪い癖が一旦見えなくなる→「手首が下がる」という問題が出てこない

…という状況になっていると思われます。一見すると、「手首が下がる」という問題がなくなって、「ばんばんざい!」に見えますが、この後どうなるかというと…

  1. 変えたイスの高さに慣れてくる
  2. 慣れた弾き方に戻り、前の悪い癖が再来!
  3. また「手首が下がる」という問題が発生!!
  4. ふりだしに戻る(またイスの高さを変えて…?)
…という状況に陥るはずです。いくらイスの高さを変えても、「手首が下がる」という状況の根本的な問題(過剰な「脱力」指導)が解消されていなければ、何度も現れてしまうのは当然ですよね。。。

実際に、イスの高さを変えても、「手首が下がる」という問題が何度も何度も発生して困っている人(もしくは、そういう生徒・お子さんをもつ先生や親)、いるのではないでしょうか?その原因は、単に「根本的な原因・問題が解決されていない」だけかもしれませんよ。皆さんは、このような状況に陥らないよう、十分気をつけて練習に励みましょう。

4. 「触れちゃダメ!」作戦

これって要は、生徒に対して「手首が下がってしまうフォームにならないように、キチンと腕を支えればいいだけ」というのを回りくどくしているだけですよね。。。そもそも、最初からそう言っていれば、そういう「手首が下がる」という問題は元々起こらなかったのでは??

図14. 手首の下に触れちゃいけない何かを配置。そうすることで、手首が下がらないようにキチンと腕を支えることができるらしい。

ここでよくあるのは…「自分の指導で、生徒の「手首が下がる」問題を解決できてハッピー。私の指導ってスゴイ!」と(多少なりとも)考えている人。そもそも、生徒に変な癖(「手首が下がる」など)がついたのは、アンタらのわけわからない「脱力」指導であることを自覚しなさい。

そうやって、生徒に変な癖(「手首が下がる」など)を身につけさせて、その後、(得意げに)「触れちゃダメ!」作戦などで、(先生が自分で生徒に付加させた)変な癖(「手首が下がる」など)を解消させて、「私の指導ってスゴイ!」というのは…単なる【先生の自己満】に過ぎないと、私は思う。

要は…自分でまいた問題の種を、成長した後で自ら刈り取る行為と同じ。これって、「問題を刈り取ってる自分がスゴイ!」ではなく、そもそも、まず初めに【問題の種をまいてしまった自分が問題】なわけで…今後、同じような問題が出ないようにするためには、「どうやって・如何に問題を刈り取るべきか」ではなく、そもそも【どうやったら自分が問題の種をまかずに済むか】ということを考えるべきではないだろうか。。。

つまり、ここで先生は、まず【自分の指導で、生徒の「手首が下がる」という問題に発展してしまった。私の指導のどこが悪かったのだろう?】と考えるべきではないだろうか。そういう考えをする先生が非常に少ないから「脱力」というわけのわからない指導が今も続いているのではないだろうか。先生は、自分の指導によって、生徒がどう影響され、成長していくかを、ちゃんと観察すべきで、それこそが先生の責務・職務だと、私は思います。

図15. 本当の問題は「生徒の手首が下がること」ではなく【生徒がそうなってしまう問題の種をまいた自分】です。

では

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