理系ピアノ奏者におすすめの書籍15: ピアノと友だちになる50の方法 からだの使い方

公開日: 2019年9月17日火曜日 アレクサンダー・テクニーク ピアノ 演奏 書籍 脱力

こんにちは、リトピです。

こちらは、理系である私がおすすめする書籍をご紹介するコーナーです。 今回ご紹介する15冊目はこちら。

本書の著者は、なんとあの『ピアニストならだれでも知っておきたい「からだ」のこと』の監訳をされていた小野ひとみさんです。(実は、小野さんは、あの『音楽家のための アレクサンダー・テクニーク入門』も監訳されている)

実は小野さん、日本初のアレクサンダー・テクニーク教師なんです(参考: アレクサンダー・テクニーク教師 ワークショップ講師, AMAC) 。そりゃ、精力的にアレクサンダー・テクニーク関連の海外書籍の監訳をするわけだ。

で、『ピアニストならだれでも知っておきたい「からだ」のこと』では監訳の立場でしたが、ピアノ弾きのからだについての著者になったことで、小野さんはどんなことを書きまとめてくれているのかが気になり、つい購入してしまいました。本書の監修者がピアニストってのも、本書の面白いところ(であり、一部問題があるところ)です。早速以下で気になったものを紹介します。

この書籍を読んで、特に目から鱗だったものはこちら。

からだを自由に動かすために必要な【支え】は、重力を利用することによって得られる
これは、ボディワークの基本ですね。本書ではこんな風に書かれています。
重力を利用し、からだを支えバランスをとっている「有能な」状態があるからこそ、人は歩いたり、しゃがんだり、座ったりと、いろいろな動作(パフォーマンス)を自由に行うことができるのです。(p.15)

そのいろいろな動作(パフォーマンス)を自由に行うための方法を【見つけるコツ】が、本書にはたくさん詰まっています。

からだの状態や動きが悪いときは、自身の「ボディ・マップ」が悪い
実は本書、(たった一つを除いて)「脱力」や「力を抜いて」などという表現が一切ないんです。

でも、それもそのはず。だって、からだの状態や動きが悪い(不快に感じたり不自由に感じたりする)ときは……
  1. × 余計な力が入っているから、その力を抜かないとダメ
  2. ○ 「ボディ・マップ」が誤っているから、それを【精確】にしないとダメ
……だからです。これは、書籍『ピアノがうまくなるからだ作りワークブック』でも同じようなことが言われています。これ、何度も言いますが、 自身の「ボディ・マップ」が誤っていたら、どんなに力を抜こうが、「脱力」を強く意識しようが、絶対にからだが楽になることはありません。

そして、からだの状態や動きが悪いとき、まず先に自身の「ボディ・マップ」を修正しようという意識がなければ、誤ったからだの使い方(誤用)をし続けてしまい……最終的には大きなケガをしてしまう恐れがあります(【誤用】については記事「「力を抜く」だけでは絶対に解決しないことがある」をご参照ください)。

ちなみに、【精確】は誤変換ではなく、本書での表現。からだは一人ひとり違うので、「ボディ・マップ」に正誤はなく、あるのは【自分自身の「ボディ・マップ」の精度の高さ】だけ。本書ではそれを表現すべく【精確】という表記を使っています。

大事なのは【バランス】をとること
本書では、からだの使い方を良くしていくために「ボディ・マップ」を【精確】にさせていくとき "6つのバランスを確認する" ことが大切だ、と言っています。そして、そのバランスがとれること(× 「脱力」すること)で「からだの自由な動き」を獲得できる、と説明しています。

詳細は本書にゆだねますが、この6つのバランスを認識したとき(= 「6認」と呼んでいる)を基に、どのようにピアノを弾いていけばよいか?というのが明確に、たっぷりの写真付きで説明してくれます。これは本当にわかりやすい。

この【バランス】については、以下の表現も本書にはあります。
演奏しているあいだ、多くのひとは体勢を変え、体重も移動させます。ですから、これが唯一の「正しい姿勢」というものはありません。そこには、良いバランスと適切な動きがあるだけです。(p.48)

これ、「そこには「脱力」があるだけです。」となっていないのがポイント。要は、良いバランスをとったり、適切な動きをするためには、力を【適切に使う】ことが重要ってことです。

さらに大事なのはやはり、からだの「コーディネート」
「6認」を取り入れてこのステップを進めていくと、からだの能力がより有効に引き出されます。この経験を通じて、手と腕、そしてからだ全体のコーディネーション(協調性)が洗練されていき、機能的で美しい動きが身に付きます。(p.55)

本書は、これをいい感じに図解し、「認識の環」(p.75)という名前を付けています。こういう考え方はいいですね。

「指の独立」を考えてはいけない
ピアノを弾くときは指で鍵盤を押しますが、鍵盤を押している指が何本であれ、手全体で弾いている動きをしているということを、よく認識してください。
これも、書籍『ピアノがうまくなるからだ作りワークブック』でも同じようなことが言われていますね。

また、こんなことも本書には書かれています。
指の動きは手の動きであり、手首の関節を介して腕の動きを引き出す(p.78)
指が思うように動かない原因が、からだ全体のどこかにあるのではないかと考えてみましょう。(p.80)

要は、指を動かすときは、動いている指だけを(独立するように)意識すればいい……というわけにはいかない、ということ。ここ要注意!

さて、本書の一番のポイントは、からだの動きを自由にしてピアノ演奏に臨むためには、元々持っている自身の「ボディ・マップ」をより【精確】にしていくことだ、ということを我々に伝えてくれていることです。そして、そのためには、以下のようなことを意識することが大切。

不快感や負担、苦痛を感じたときには、そこでちゃんと自覚を持っていったん立ち止まってください。
(中略)
不快感や負担、苦痛が解消されないときは、自分の「ボディ・マップ」をもう一度修正、洗練しましょう。そしてまたピアノの前に戻って、練習の目的を自覚して練習を続けましょう。(p.76)

立ち止まらずにピアノを弾き続けてしまうと、自身の悪い「ボディ・マップ」がまったく【精確】になることなくからだを動かすことになるので、結果として身体の【誤用】が続き、そのせいで最終的に身体を壊す恐れがあります。

恐らくこれが本書で一番大事な部分。これ、次の話にとーっても重要なので、ちょっと覚えておいてください。

本書唯一の問題点: ピアニストのワンポイントアドバイス

本書は「小原孝のワンポイントアドバイス」という内容で、本書のところどころに、ピアニストの小原孝さんがコメントを書いてくれています。で、その一つにこんな内容があるんです。

出来ない部分は歯を食いしばって練習するのではなく、よりゆっくり、より細かくていねいに、そしてより「pp」で力を抜いて弾いてみましょう。 (p.82)
これを読んで、ものすごーーーーーくガッカリした & 怒りを覚えた。私はこの文を読んで「もしかして小原さんって……監修者なのに、本書の大事なポイント、まったく理解できてないんじゃないの!?」って思った。

だってさ、本書のことがちゃんとわかっている人だったら、出来ない部分("不快感や負担、苦痛を感じたとき" に相当)に出会ったら、【いったん立ち止まり】、【自身の「ボディ・マップ」を修正・洗練する】ことが大事だ、って言うはず。

何度も何度も言ってますが、自身の「ボディ・マップ」が誤っていたら、どんなに力を抜こうが、「脱力」を強く意識しようが、そして、どんなに「ゆっくり」 & 「細かくていねい」に弾こうが、絶対にからだが楽になることはありません。この問題は、ピアノを弾いているとき【自分のからだを今どう使っているか】をまったく意識していないことにあります(小野さんは本書を通じてそれを強く指摘してくれている)。

せっかく著者の小野さんが「脱力」とか「力を抜いて」という言葉を(あえて?)避け、言葉巧みにからだの使い方についてかなり具体的に説明してくれているのに、この小原さんのワンポイントアドバイスの一言で、それが台無し。。。

本書の彼のコラムがとっても良いだけに、この部分が非常に残念。彼のコラムは、アドラー心理学にある「大切なのはなにが与えられているかではなく、与えられたものをどう使うか」(『嫌われる勇気』p.44)という考え方に沿っている部分が数多くあり、読んでいて非常に勇気づけられる。なのに。。。

もし、小原さんがいまだに「出来ない部分は「ゆっくり弾く」「力を抜く」ことで上手くいく」と信じているのであれば、それがモトで、またケガする恐れがあるのでは、と私は懸念しています。そうならないためにも、小原さんには、もう一度しっかり本書を読んでほしい、と切に願う。

まだまだこの書籍から学んだことはたくさんあるので、ご紹介していきたいのですが、今回はこの辺で。

では。

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