理系ピアノ奏者におすすめの書籍12: 成功する音楽家の新習慣

公開日: 2019年9月15日日曜日 アレクサンダー・テクニーク ピアノ ゆっくり弾く 持論 書籍 脱力

こんにちは、リトピです。

こちらは、理系である私がおすすめする書籍をご紹介するコーナーです。 今回ご紹介する12冊目はこちら。

この書籍は、楽器演奏が好きな方全員にオススメ!っというか、現状では(アマチュアを含む)音楽家に絶対に読んでほしい書籍No.1じゃないかな。この書籍は、楽器演奏の練習方法はもちろん、本番での振舞いやケガ(故障)の予防方法、さらには普段の生活から就職・キャリアまで、音楽を愛する人の人生すべてを網羅していると言っても過言ではないでしょう。

本書のメイン・ターゲットは、内容的に恐らく音大の学生さんだと思われますが、アマチュアも十分楽しめる(そしてかなり実用的)なものになっています。そして、少なくともピアノ(に関わらず楽器関連の)教師は、今後も何年も教師として人生を歩みたければ、この書籍は絶対に読む必要があります。それについては後述。

この書籍を読んで、特に目から鱗だったものはこちら。

音楽と触れ合えることに常に感謝しよう
本書が他の書籍と一線を画しているポイントの一つはこれ。今までこんな素晴らしいことを説明している書籍は読んだことないかも。例えば、こんな説明があります。
練習に入る前に少し時間を取って、自分がすばらしい機会に恵まれていることを改めて意識しよう。 (p.15)

普段から、こうやって音楽に触れ合えることに感謝する余裕を持つことで、演奏にもゆとりが生まれる、ということなのでしょう。こういう感謝は、毎日続けていきたいものですね。

何から何まで説明が【具体的】すぎる(いい意味で)
本書は、ちょっと大きめのB5版。……にもかかわらず、結構文字がぎっしり埋まってます(もちろん、説明用に楽譜や身体の写真が載ってたりしますが)。でもそれには理由があるんです。

それは説明が【具体的】であること。音楽などの芸術指導でよくある「見て覚えろ!」「感覚で覚えろ!」みたいなのを結構文字に起こして説明しているように感じました。でも、それでいて読みにくくない!わかりやすい!!ってのが本書のとってもいいところ。著者のジェラルド氏、結構お茶目なところがあるかもしれません。

ミスや変化を受け入れることが、さらなる成長につながる
ここら辺は、書籍『ミスタッチを恐れるな』『楽譜を読むチカラ』等ですでに散々言われていること。本書でもその大切さを著者のジェラルド氏(& 翻訳者の藤村 氏)の言葉で述べられています。これ、恐らくその2冊のものより読みやすいかも。ちなみに、要所々々で、以下のような(音楽家以外の人たちも含む)プロの方々のコメントが見られます。
「常に変化を求めようとすること - それが音楽の秘けつだ」 (by チェリスト: パブロ・カザルス氏) (p.31)

それらを読むだけでも十分面白いし、非常にタメになります。

「ゆっくり練習」「指の独立」という言葉には気を付けよう
本書では、暗にそれらに注意しろと言っています。例えば…

演奏でのケガ(故障)の原因と予防対策の新提案
本書の「第III部:音楽家であり続けるために」が、恐らくこの書籍の目玉。なんたってこの部の監修者が、あの日本で最先端のピアノ奏法などを研究している第一人者であり書籍『ピアニストの脳を科学する』の著者である古屋晋一先生なんですから。どうやら、演奏家の大半は「演奏スキルの習得には痛みが伴うもの」と思っているらしい。これ、ヤバイって。

本書で古屋先生は、そういった痛みの原因を身体の「過用」(使い過ぎ・弾き過ぎ・オーバーユース)というよりかは身体の【誤用】(ミスユース)の積み重ねだ、と言っています(【誤用】については記事「「力を抜く」だけでは絶対に解決しないことがある」をご参照ください)。これは、今後の音楽界のトレンドとなっていくでしょう。

ちなみに、上記には挙げてませんでしたが、本書の「第II部:恐れずに演奏する」にある演奏時の不安に対する対処方法は秀逸。演奏不安に対するよくあるアドバイスは「場数を踏め。そしたら慣れるから。」というもの。

で・す・が、それって実は効果がないらしい。この本書は、どうすれば演奏不安にならずに済むか(もとい、その不安があっても演奏パフォーマンスの質を落とさずに済むか)という【スキル】を教えてくれます。これは生まれ持った性格でもなんでもなく【スキル】なんだから、誰でも訓練すれば絶対に身に付けられるんです。いつも本番等で演奏不安に陥ってしまう人は必読!!

なお、上記の「目から鱗」でこれを挙げなかった理由は、元々私があまり演奏不安に陥らないから(ぇ)。ただ、本書を読んで、なぜ私が演奏不安に陥らないかの理由がわかった。えぇ、そこに書かれていることの大半をやってたんッスよ、私は。どうやら私は、知らぬ間にこの書籍に書かれていることを、かなり昔から実践していたようです。つまり、少なくとも1人(私)は、本書に書かれている演奏不安対策に絶大な効果があることが実証された、と(笑

また、最初の方に「教師は、今後も何年も教師として人生を歩みたければ、この書籍は絶対に読む必要があります。」と言いましたが、本書にはなんと、「困ったら【信頼できる】教師に聞いてみよう!」というのが多々出てくる。しかも、「優れた教師の探し方」なんてのも載っていて、その探し方が非常にえぐい(優れた教師を探している生徒にとってはいい意味で)。そのため、今後も何年も教師として人生を歩みたければ、本書を読んで、その対策を十分に練ってほしい。

ただし、その対策を練るには、音楽的な知識だけでなく、「解剖学」「生理学」「運動学」といった理系の知識も必要になってきます。それらが理解できず、本書に書かれていることにまったく対応できない教師は、今後、自然と沙汰されていくと見て間違いないでしょう。

だって、もし本書が、メイン・ターゲットの音大生だけでなく、一般人アマチュアの我々にまで広まってしまったら……。いや、本書は本当に良書なので、私がこうやってブログでちまちまと広めなくても、確実に十分広まるでしょう。そうなる前に、教師の皆様はすぐ対策を練る必要があるんです。手遅れになる前に、急いで!!!

で、その理系の勉強に苦しんだら……是非、当ブログに足をお運びください(笑

ところで。
正直なところ、この書籍は、『音楽家のための アレクサンダー・テクニーク入門』『ミスタッチを恐れるな』といった今までに出版された書籍を読んだときほど、私は感動しなかった。なぜなら、それらの話がふんだんに詰め込まれているからだ(実際、本書は、この2冊が参考文献として挙がっている)。

実は本書、2009年にアメリカで出版された "The Musician's Way" の翻訳です(リンクは著者のホームページ)。当時から(もちろん今も)この書籍はアメリカで多くの演奏家たちの圧倒的支持を得ているとのこと。で、日本でこの翻訳書が出版されたのが2018年の9月。オリジナル版がアメリカで出版されてから9年後、日本で出版されたこの書籍は、出版社であるヤマハ・ミュージック・メディアさん曰く……

日本では日本語版の発売後、音楽書としては異例のスピードで増刷を重ね、楽器や専攻、プロ・アマを問わず、多くの演奏家の方々から幅広く支持されています。
(引用元: ジェラルド・クリックスタイン氏インタビュー)

……っということらしいが、それについて著者のジェラルド氏はこう語ったそうだ。

日本での反響は「意外ではありません」
(引用元: ジェラルド・クリックスタイン氏インタビュー)

この発言に、私はとっても【残念な気持ち】になった。考えてもみてください。アメリカで10年近く前に流行った(無論、今も流行っている)書籍が日本に来ても「なんだ、こんな書籍、時代遅れでまったく話ならん」ってなっていないんですよ!それが私は非常に悲しい。

だってね、この書籍に書かれていることって、大半はそれ以前にすでに出版されている以下の書籍に書いてあるんですもの。。。(★マークは、本書の参考文献に挙がっているもの)

上記の書籍を読んできた私からすれば、本書の大半は私にとって、今まで理解してきたことの再確認的な位置づけでしかなかった。だから、約10年後に翻訳された本書が、現在日本で人気になっていることに対してとっても【残念な気持ち】になった理由は……

「ぉぃ、これら今までに出版された良書、誰も読んでねぇのかよ!!」

ってことです。。。あっ、もちろん、だからといって、本書がオススメ出来ないという意味ではないです。なんたって、上記の書籍の内容のエッセンスがこの1冊に詰まっているんですから。私が上記で「音楽家に絶対に読んでほしい書籍No.1じゃないかな」と言ったのは、音楽家に必要な事項をほぼ網羅している、という点です。

誰かに「音楽家に1冊だけ本を紹介してください」と言われたら、私は迷わずこの書籍を紹介します。それくらい、この書籍は素晴らしい。でも、欲を言えばもう少し早く日本で本書が出版されてほしかった。。。

そうそう、素晴らしいと言えば、本書にある「練習シート」や「練習記録」などのツールが、出版社であるヤマハ・ミュージック・メディアさんのサポートページから日本語版をダウンロードできること。本書を読んで「使ってみたい!」と思った人は【コチラ】にアクセス!!

最後に。
本書を読んで一番心に残った内容を乗せておきます。

「真実と言う剣は、必ずしも切り刻むために使う必要はない。指し示すのに使ってもいいのだ」 (by 作家: アン・ラモット氏) (p.313)

これ、ピアノ関連関係なく、深く心に刻んでおくことにします(原文は "You don't always have to chop with the sword of truth. You can point with it too."))。理系はよく、指し示すつもりで、相手をメッタメタに切り刻んでいることが多い気がする。しかも無自覚に。。。当ブログも、読み返すと……そういうところがあるある。。。うん、今までの記事、時間があるときにちゃんと書き直そう。ちなみに、この "Sword of Truth" は、長編ファンタジー小説のタイトルらしい。

まだまだこの書籍から学んだことはたくさんあるので、ご紹介していきたいのですが、今回はこの辺で。

では。

番外編: 本書に書かれている「脱力」について

本書を読んだ人の中には、この中に「脱力」や「力を抜いて」という表現が散見しているのに気づいている人が多々いるでしょう。でもなぜ、「脱力」という表現を敵視しているこの私が(笑)、ここまで本書を良書としているのか。

それは、本書で使われているそれらが、日本での「脱力」と意味が違うように見受けられたからです。本書を読み進めると、ここで書かれている「脱力」や「力を抜け」という表現は、どうも【演奏中の違和感(身体の誤用)を減らせ】【身体のバランスを取れ】【身体と心の緊張をほぐせ(リラックスしろ)】【ポジティブな意識を持て】と言っているようにしか思えない(「力を抜け」と書かれている後の文章を読むと、そう理解しないと話がつながらない部分が多々ある)。

そのため本書での「脱力」という訳は、恐らく翻訳者の藤村氏自身によるものと考えられます。オリジナル版ではどんな英語が使われているかわかりませんが、翻訳するときには、何でもかんでも「脱力」とか「力を抜いて」じゃなくて、もうちょっとジェラルド氏の言いたいことのニュアンスを汲み取ってほしかったなぁ、と思った……が、これが今の日本音楽界の限界なんだろうな、とも思った。やっぱり、いまだに「脱力」って表現って支持されているのね。。。

本件について、余力があればオリジナルの英語版を購入し、本書に散見している「脱力」や「力を抜け」の元の単語・文を見てみたいと思っています。それが出来次第、以下で表にまとめて紹介します。(取り組み時期: 未定)

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