新ピアノ奏法3: 鍵盤が重いと感じる理由とその改善案2

公開日: 2015年12月7日月曜日 ピアノ 持論

こんにちは、リトピです。

自分が良く弾くピアノは、軽々弾けるようになったのに、他のピアノを弾くと「あれ?鍵盤が重たい!」と感じてしまう。 今回は、前回の記事「鍵盤が重いと感じる理由とその改善案1」に続く、よくあるそんなお話について。

今回も大事なのは「インピーダンスマッチング」

他のピアノを弾くと「あれ?鍵盤が重たい!」と感じたとき「あぁ、これって単に鍵盤が【重い】んだな。」と思うでしょう。でもその考えは違います。前回の記事「鍵盤が重いと感じる理由とその改善案1」で…

ピアノの調律・修理などをしている会社のサイト、うたまくらピアノ工房によると、現在のピアノの鍵盤の重さは、ほぼ50 g前後とのこと。昔は鍵盤の重さが100 gのピアノもあったようですね。
ポケットティッシュ1袋の重さは大体10 gです(参考: Nittosha)。 つまり、現在の鍵盤の重さは、ポケットティッシュ5袋分、そして、昔のピアノでも、その鍵盤の重さは、たったのポケットティッシュ10袋分。(中略)

さて、これは鍵盤の重さ(質量、もとい慣性モーメントの大きさ)が単に重いだけで、「あれ?鍵盤が重たい!」と本気で感じられるものなのでしょうか?
というお話をしました。そして、鍵盤が重いと感じる理由は「インピーダンスマッチング」ができないせいで起こるエネルギーの反射が原因、と考察しました。

この理論を使って、他のピアノが重いと感じたとき、自分のピアノとでは、何がどう違うのか、考えてみましょう。

ピアノの場合(イメージ)

さて、記事「コラム4: あんなところやこんなところに「インピーダンスマッチング」」で、インピーダンスマッチングが身近に感じられるようになった(?)ところで、ピアノの話として進めます。 ここで、自分と自分のピアノの鍵盤とで「インピーダンスマッチング」を取ることができると仮定します。 そして、他のピアノの鍵盤の重さが、自分のピアノの鍵盤の重さの2倍だと仮定します。(どちらもパラメータは適当) このときのインピーダンスマッチング度合いのグラフを図1に示します。

図1. 自分と自分のピアノ、他のピアノ(鍵盤の重さ2倍)のインピーダンスの関係1
複雑になると困るので、こちらも横軸は実数部(運動インピーダンスの粘性)のみを変更させています。青い線が自分のピアノの鍵盤とのインピーダンスの関係、オレンジ色の破線が鍵盤が重いピアノとのインピーダンスの関係です。 鍵盤の重さが変わる、というのは機械インピーダンスの質量Mが変わる、ということなので虚数部が変わります。

よって、鍵盤の重いピアノを弾こうとしたとき、実数部(運動インピーダンスの粘性)を変更させただけでは、水の中を歩くときと同じで、絶対にインピーダンスマッチングが取れないのです。なので、どう頑張っても、自分のピアノと同じように弾いても重いと感じる(エネルギーの反射が起こる)んです。これは、単に鍵盤の重さが変わっただけが原因ではなく、鍵盤の重さが変わったことにより、人間の身体とピアノの間でインピーダンスマッチングの関係が変化したことが原因だ、ということになります。 さて、困った。

鍵盤の重いピアノを楽に弾くための改善案

上記の問題は、人間側の実数部(運動インピーダンスの粘性)のみ変化させているということでした。鍵盤の重さが変わったとき、変化するのは虚数部なので、人間側の虚数部(運動インピーダンスの慣性と剛性)を変化させればいいことになります。仮に、運動インピーダンスの剛性が変えられたとすると、図2のように鍵盤の重いピアノでもインピーダンスマッチングを取ることができるようになります。

図2. 自分と自分のピアノ、他のピアノ(鍵盤の重さ2倍)のインピーダンスの関係2(運動インピーダンスの剛性を変化)
赤い線が人間側の虚数部(運動インピーダンスの剛性)を変化させたときの新しいインピーダンスの関係です。鍵盤の重いピアノを弾く場合、解決方法は力を入れる、という方法ではなく、もっと別のアプローチ(人間の運動インピーダンスの粘性を変化させるだけではダメ。慣性や剛性を変化させること)をする必要がある、ということです。

次に大事なのは「フィードフォワード制御」

ここで気になるのが、「じゃあ、どうやって、人間の運動インピーダンスを鍵盤の機械インピーダンスに合わせていくの??」ということ。

さすがに、個人で、自分の運動インピーダンスの変化度合いや、自分の持っているピアノの鍵盤の機械インピーダンスを計測するのは無理ですよね。誰か、この内容について研究で取り上げてくれないかな?(ぇしかし、人間と鍵盤との「インピーダンスマッチング」が取れたとき、打鍵が軽くなり、音もよくなる、ということはわかっています。そこで役立つだろうと考えられるのが人間のフィードバック制御でしょうか。(この詳細は、次の記事で再度わかりやすく図付きで取り上げる予定です。以下はちょっとしたメモ書きです。)

安易にフィードバック制御を利用するのは危険

打鍵時の鍵盤のタッチの感覚は、皮膚・筋肉・関節などの感覚受容器で感知され、その情報が脳にフィードバックされます。よく言われる「鍵盤の重さを感じる」なんかは、この感覚受容器からの情報でしょう。そして、打鍵後にピアノの音が耳に入りますが、この情報もフィードバックに利用されます。よく言われる「ピアノの音をよく聴きなさい」はここにあたるでしょう。

しかし、よく考えてみてください。これら情報のフィードバックには必ず時間遅れがあります。皮膚・筋肉・関節などの感覚受容器で感知された情報はもちろんのこと、ピアノの音なんて打鍵後に耳に届くわけですから、現在の打鍵にはほぼ役に立ちません。そのため、それらの情報から現在の打鍵の良し悪しを判断して、次の打鍵に利用する(次はどう打鍵すれば鍵盤との「インピーダンスマッチング」が取れるかを考える)という学習には最適のように感じますが…

ここで注意したいのは、人間は「ずさんな感覚意識」を持っているという点です。このせいで、正直、打鍵時のフィードバック情報(皮膚・筋肉・関節などの感覚受容器+耳からの情報)だけを信用するのはあまりにも危険だと、私は思っています。(例えば耳。「この音が好きだ」と言っても、その打鍵が本当に正しいとは限りません。好みで物事を判断するのは非常に危ないです。)

プロはフィードフォワード制御を上手に使えているのかも

しかし、人間というのはうまくできています。この「人間のずさんな感覚意識」で行われてしまうフィードバック制御の補正をする機能があります。それは人間のフィードフォワード制御です。このフィードフォワード制御をうまく使って、打鍵の方法を模索すれば、確実に鍵盤との「インピーダンスマッチング」(もしくは極小点)が取れるようになるはずだと、私は推測しています。

そして、この制御は小脳を介して行われているようですね。ピアニストの小脳が一般の人と比べて大きいという研究結果が出ているようですが(参考『ピアニストの脳を科学する』)、私の見解では、ピアニストはこのフィードフォワード制御をうまく使えているから、ピアニストの小脳が大きいのでは。

このフィードバック制御とフィードフォワード制御については、次の記事でまとめようかと思っています。一応、予習として、以下のページのリンクを貼っておきます。人間の運動のフィードバック制御とフィードフォワード制御の話がちょっと載ってます。ご興味があればどうぞ。運動制御 Motor Control

「アレクサンダー・テクニーク」理論も実証可能!?

ちなみに、この考え、「アレクサンダー・テクニーク」で言われている「抑制」や「方向性」、そして「自分自身をコントロールするな」という考えに合致している気がします。 フィードバック制御の利用に注意を払うのが「抑制」、フィードフォワード制御として「人間のずさんな感覚意識」を補正するフィードフォワード制御自体が「方向性」であると考えられます。

さらに、このフィードフォワード制御をやりすぎるとフィードバック制御に用いる情報がすべてかき消されてしまうので、フィードフォワード制御をさせ過ぎない=「自分自身をコントロールするな」という具合です。疾患を持っている人は小脳がより大きいと聞きましたが、もしかしたら自分自身をコントロールさせようと意識しすぎたからジストニアなどの音楽疾患が起きてしまったのでは?この件に関しては、今度考察してみます。

現段階では、この結びつけはちょっと無理やり感満載かもしれませんが、もうちょっと落ち着いて考えてまとめれば「アレクサンダー・テクニーク」の理論を科学的に実証出来るのかもしれません。うーん、誰かそんなことやってる研究者いるのかなぁ? この新奏法およびこれらの理論は、今後も、もっとわかりやすくまとめてみたいと思いますが、とりあえず今はこの辺で。。。

では。

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