理系ピアノ奏者におすすめの書籍14: ピアニストのためのアレクサンダー・テクニーク

公開日: 2019年9月16日月曜日 アレクサンダー・テクニーク ピアノ 持論 書籍 脱力

こんにちは、リトピです。

こちらは、理系である私がおすすめする書籍をご紹介するコーナーです。 今回ご紹介する14冊目はこちら。

なんだか怪しいタイトルに感じますが、アレクサンダー・テクニークとは、ボディワークの一種で、簡単に(語弊を恐れず)言えば、「結果」ではなく【過程】を大事にすることで、身体の動きを良くするコツを見つけよう、というものです。

っとはいえ、このアレクサンダー・テクニークというものをまったく知らない人が、『ピアニストのためのアレクサンダー・テクニーク』と表紙にデカデカと書かれた本書を手に取るのは、とっても勇気がいるものだと思います。

そんな書籍を平然と手に取ってしまうのがこの私(笑)。でも、それだけ、アレクサンダー・テクニークを知っている人にとっては、ピアニストに有益な情報がたくさん詰まった書籍なんだな、ということがこのタイトルのおかげですぐわかります。

その有益な情報について、ここでちょっとだけ皆様に紹介。少しでも興味があるトピックがあれば、是非本書を手にお取りください。絶対後悔はさせません。本書は、決してアヤシイものでもありません!!(笑

この書籍を読んで、特に目から鱗だったものはこちら。

アレクサンダー・テクニークの教えとその良さを十二分に味わえる
アレクサンダー・テクニークの簡単な成り立ちから、その教えを基にしたピアノ奏法までもをわかりやすく学べちゃうのが本書の良いところ。今まで、アレクサンダー・テクニークを知らなかった人たちは、是非本書を手に取って、その素晴らしさを体感してください。ちなみに、著者は、なんとドイツでアレクサンダー・テクニークを習ったのだそう。

大事なのは「結果」ではなく【過程】である
著者は、本書の最初の方でこう言っています。
本来備わっている身体能力を生かしていくワークをすると、無駄な力が抜けて身体や気持ちが楽になったと感じることがあります。すると、その感覚が衝撃的で、「無駄な力が抜けた!」と強く記憶に残ります。そして、身体能力を生かすという過程を忘れ、身体の力を抜こうとしてしまうのです。(p.11)

これ、「力を抜け」が良いアドバイスだと勘違いしてしまう原因と見て間違いないでしょう。

これを解消するためには、本書の言葉を借りれば、からだの「力が抜ける」ようになるためには、からだの「力を抜く」とは別の方法を見つけ出さねばなりません。

アレクサンダー・テクニークを知らないと「えっ??」となる説明内容ですが、本書を読めば、その言葉の本質・重要性が見えてきます。

そういえば、「結果」と【過程】(プロセス)の関係については、私も記事「番外編1: なぜ人は「脱力」できたと思うのか」で紹介してたな。

「脱力」という考え方に、待ったをかけてくれる
例えば以下の部分。
やみくもに脱力しようとするのではなく、「なぜそもそも脱力が可能なのか」を物理学の観点から考えてみましょう。
(中略)
体は、支えられているからこそ、その重さを任せることができるのです。(p.27)

これって、書籍『ピアノを弾く手』と言っていることがほぼ同じ。やっぱり、アレクサンダー・テクニークの教師だろうと、音楽家の手を診るお医者さんだろうと、身体のことを知り尽くしたプロはこの同じ結論に辿り着くのでしょう。

また、本書にはこういう表現も出てきます。
余計な力を使わないで演奏している時の手首や腕の動きは、指先の要求に従って、指に腕全体がついて行く際に結果的に「起こる」ものであり、演奏者が意図的に「起こす」ものとはまったく質が異なります。(p.107)

これを補足的に説明するならば、 "余計な力を使わないで演奏" できるのは、余計な力を使わないという状況が "結果的に「起こる」" から(= 体の支えなどを作ること(これが、いわゆる「過程」)で、余計な力を使わなくて済む(という結果が「起こる」))であり、我々が余計な力を使わないという状況を "意図的に「起こす」" (= 意識して「脱力」(という「結果」を)しようとする)からではない、ということ。

この言っている意味が本書を通してわかってくれば、アナタの演奏はもっと楽になります。

さらに、本書の「第5章 よくある疑問について」の「6 「脱力」ができるようになりたい」の項は、「脱力」に悩まされている人、必読です。

ピアノは、「弾く前」から勝負は始まっている
本書では、ピアノを弾く時に起こってしまうクセや体の力みの原因をこう説明しています。
普段のクセはピアノを弾く時にも持ち込まれます。(中略)普段から体に負担のかかる使い方をすることは、「負担のかかった状態で演奏する」ための準備をしているようなものです。(p.15)
演奏中の力みは話題になることがよくありますが、その力みはたいていの場合、弾き始める前からすでに始まっているのです。(p.79)

手や腕の痛みの原因や予防も学べる
著者は、手や腕などの痛みの原因を、筋力が足らないせいなどではなく、 "負担のかかる体の使い方によって筋肉を酷使していることによって" 起こる、と言っています。そして……
再発を防ぐためには、無理のない身体の使い方を学んでいくことが大切です。(p.107)

と、言っています。

これって、書籍『成功する音楽家の新習慣』にあるような、身体の【誤用】の考え方そのもの(【誤用】については記事「「力を抜く」だけでは絶対に解決しないことがある」をご参照ください)。

やっぱり、この考え方はトレンドになってきていますね。この流れ、どんどん来てほしい。

本書は、全体的に「脱力」や「力を抜いて」という表現を巧みに避けているように感じます。これって、アレクサンダー・テクニーク関連の書籍『ピアノがうまくなるからだ作りワークブック』『ピアノと友だちになる50の方法 からだの使い方』も同様。もしかして、アレクサンダー・テクニークのようなボディワークを知っている人は、そういう曖昧な言葉を避ける傾向にあるのかも(私もそうなので)。

実際、身体の動きに関すること(「解剖学」「生理学」「運動学」の総合)を調べれば調べるほど・勉強すれば勉強するほど、そういった「脱力」とか「力を抜いて」というアドバイスがなぜダメなのかがよくわかります。そういった意味で、本書はその勉強の第一歩として役に立つ書籍の一つだと、私は感じました。

ただ、残念な点が一点。この書籍、タイトルが非常にもったいない気がする。アレクサンダー・テクニークという言葉を広めようと思ったのでしょうが、これは逆効果なんじゃないかな、と。

だって、上記で説明したように、アレクサンダー・テクニークというものをまったく知らない人は、恐らくこういった「よくわからないタイトルの書籍」を手に取るって、よっぽどのことがない限り、なかなかないと思う(だって、本棚にたっくさーんの本が並んでいる本屋で、知らない言葉が入っている書籍って、本屋にいる時間がないときほど、ほとんど目に留まらないでしょう?)。

で、逆に、アレクサンダー・テクニークを知っているピアノ弾きにとっては、本書はすっごく見つけやすい。いつも気にしているワードだからね。でも、そこに書かれている内容って、彼らにとっては、ほとんど、すでに知っていることばかりなんじゃないか?と思う(残念ながら、実際、私はそうだった。購入したのは、ほぼこの書籍レビューのためだけ)。

要は、「本書のターゲットにしたい層」(アレクサンダー・テクニークを知らない人たち)と、「本書を手に取ってくれる層」(アレクサンダー・テクニークというワードに敏感な人たち)に隔たりがあるように見受けられる、というのが非常にもったいないと感じた。

これ、マーケティング的にはアウトなんじゃないかな。どうも【タイトルありき】な(「何を」売りたいか、が優先されている)ような気がする。(マーケティングの基本は、「何を→誰に(→どのように)、売るか」ではなく【誰に→何を(→どのように)、売るか】という順番で考えなければいけない。つまり「誰に」という顧客を無視して、「何を」という商品から考えることはダメ。「何を」売るかを先に決めてしまったら、本当に届けたい「誰に」という顧客には響かないものができてしまう)

一方、本書と大体同じような時期に出版された『ピアノがうまくなるからだ作りワークブック』『ピアノと友だちになる50の方法 からだの使い方』はタイトルがうまいと感じた。どちらもアレクサンダー・テクニークの教師によって執筆された書籍だが、それが全面に現れていない(ただし、内容はガッツリなのが非常に良い)。どれもヤマハ・ミュージック・メディアさんから出版されているのに、本書だけ、なぜ??

逆に『音楽家のための アレクサンダー・テクニーク入門』のような書籍のタイトルになら、「アレクサンダー・テクニーク」を入れてもいい。なぜなら、この書籍はアレクサンダー・テクニークを知らないで読もうとすると、この書籍の内容はよく理解できないので(ただし、入門にしてはレベルが高すぎるので、その部分はちょっとタイトル付け失敗?)。

まだまだこの書籍から学んだことはたくさんあるので、ご紹介していきたいのですが、今回はこの辺で。

では。

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