番外編10: 指に腕の重さを載せることを忠実に行うとどうなるのか

公開日: 2019年8月21日水曜日 ピアノ 持論 重力奏法

こんにちは、リトピです。

近年のピアノ奏法は重力奏法だ!と言われています。その弾き方として説明されるのが「腕の重さを鍵盤(や指先)に載せて弾きなさい!」というセリフ。当ブログでは何度も何度も否定している内容ですが、今回は趣向を変えて、なぜ腕の重さを鍵盤や指先に載せるのがダメなのかを示します。

指に腕の重さを載せるということ

早速ですが、次の写真(図1)をご覧ください。

図1. 1俵60 kgの米俵を5俵も抱えている女性たち(山形・山居倉庫資料館)

この写真を見て、「うわっ、ツラそう……」と思ったアナタ、「腕の重さを鍵盤(や指先)に載せろ!」というセリフによって、生徒にこの非常にツラい状況を強要していた。。。というのを知ったらどう思います?

えっ、これはあまりにも大げさだって??じゃあ、このたとえが本当に大げさかどうかを調べてみましょう。

各パーツにかかる圧力(正確には応力)を考える

さて、ピアノを弾いたとき、仮に、腕の重さ1 kg分が指に載っかったとしましょう(図2)。

図2. 腕の重さ1 kg分が指に載ったときの図

このとき、図1の状態でウエストにかかる圧力と、図2の状態で指にかかる圧力の両方を考えてみましょう。圧力Pは、押す力Fを断面積Sで割った値(P = F/S)で表されるのは、みなさんご存知ですよね(圧力とは単位面積あたりにはたらく力のこと。これ、中学物理です)。

ここでもし、両者の圧力が同じであれば、図1も図2も各パーツにかかる負担やそれに耐えるツラさは同じだ、ということがわかります。早速考えてみましょう。

まず、ウエストの断面積が指の断面積の300倍と、おおざっぱに考えます*(図3)。

図3. 指の断面積とウエストの断面積の関係

図1の米俵1俵は約60 kg(参考: 俵, wikipedia)なので、5俵でだいたい300 kg。これは、図2で指に載せている腕の重さの300倍です。……っということは、圧力の計算式を考えれば、指にかかる圧力とウエストにかかる圧力は同じ、という結果になります(図4)。

図4. 図2の指にかかる圧力と図1のウエストにかかる圧力をそれぞれ計算

指に腕の重さを載せる、とはこういうこと

上記の結果より、図1のたくさんの米俵を背負ったときに耐えなければならないツラさと、図2の腕の重さを指に載せたときに耐えなければならないツラさは同じだという主張は、まったく大げさではない、ということがわかったと思います。改めて図で表すとこんな感じ(図5)。「腕の重さを鍵盤(や指先)に載せて弾きなさい!」と言っている人は、この状態で「米俵を背負ったまま歩け!」と言っているのと同じなんです。ひでぇなぁ、おい。。。

図5. 米俵の重さに耐えている人を腕の重さと指に見立てた

確かに、身体を鍛えれば、「米俵を背負ったまま歩け!」というのは可能でしょう。でもね、そもそも米俵を何かが【支えて】くれれば、わざわざ身体なんて鍛えなくてももっと楽に歩けるんですよ。例えばこんな感じに(図6)。

図6. 米俵(という腕の重さ)を、クレーン(という上腕・肩)で支えてあげれば、人(という指)は、もっと楽に動ける

要は……腕の重さは、弱っちい指なんかで必死に耐えるのではなく、もっともっと力の強い上腕や肩で支えてあげることが、手や指をもっと楽にする唯一の手段です(参考: 書籍『ピアノを弾く手』)。これが、楽にピアノを弾くための第一歩となります。

まとめ

みなさん、「腕の重さを鍵盤(や指先)に載せて弾きなさい!」ということがどれだけツラいことなのか、わかっていただけたでしょうか?確かに、身体(指)を鍛えれば、腕の重さに耐えながら弾くことは可能でしょう。でも、わざわざそんなことをしなくてももっともっと楽に弾く方法があるのに、あえて腕の重さに耐えるという苦行の道を進む意味はどこあるのでしょう?そもそも、プロのピアニストだってそんな弾き方をしていないというのに。。。(詳細は記事「番外編4: 重力奏法を徹底解剖!」を参照)

また、腕の重さを指に載せるという、指に負担をかけた弾き方は、長時間の演奏が難しくなるだけでなく、いずれ大きなケガにつながる恐れがあります。ピアノを楽しく、長く続けたいのであれば、腕の重さを指に載せる行為は今すぐにでも止めましょう。

さらにここで、「肩・腕の脱力を!」と言う人がいるけど……この腕を【支える】ために使われる力は「無駄な力」ではなく【必要な力】です。必要な力が何かもわからず、ただ適当に「○○の力を抜け!」と言うのはそろそろ止めませんか?

では。

*) 念のため、ウエストの断面積が指の断面積の約300倍という見積もりに妥当性があることを以下に示す。

<指の断面積>
- 指を円柱と仮定
- 指の半径: 約0.5 cm(リトピの人差し指をメジャー)
→ 指の断面積(円): 約0.785 cm2(= 半径 x 半径 x 3.14)

<ウエストの断面積>
- 女性のウエスト平均: 67.5 cm (参考: ショップジャパンのダイエットラボ
- ウエストを楕円と仮定、長軸と短軸が3:2と仮定(ウエスト断面図の目測)
- ウエストの長軸: 15.15 cm, ウエストの短軸: 5.05 cm (参考: 楕円の面積, keisanより探索)
→ ウエストの断面積(楕円): 約240 cm2(= 長軸 x 短軸 x 3.14)

→ → ウエストの断面積と指の断面積の比: 約306(= 240 / 0.785)//

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