読むときに気を付けるべき書籍2-2(推測・考察編): 『目からウロコのピアノ脱力法』

公開日: 2019年8月7日水曜日 ピアノ 持論 重力奏法 書籍 脱力

こんにちは、リトピです。

こちらは、個人的に、間違いやミスリードの記述が多いと感じた書籍をご紹介するコーナーです。 本来ならば購入しない方が望ましいのですが、何かの手違いですでにご購入されてしまった方への 救済として本コーナーを設けております。

これは前回の続き。

『目からウロコのピアノ脱力法』
馬場 マサヨ 著, yamaha music media

今回は、前回説明したこの書籍の「矛盾が多い」という説明の続きです。

では早速、この説明に入ります。

ヘンな点2. 推測・考察が甘い

この書籍、読めば読むほどわかってくる……ような気にさせる文章が多いこと多いこと。でも、読む人が読めば、その内容の詰めの甘さを感じずにはいられない。今回はそれを説明。みなさんは、この書籍の文章を読んでわかった気にならないよう十分気をつけましょう。

2-1. 肘関節の伸展の動き

この動き、この書籍のポイントの一つだと思うのですが、推測・考察が甘い、甘すぎる。この書籍にはこう書かれています。

 和音などを強い音で演奏しなければならないときに、腕の落下運動を利用することがあります。それには、「肘関節の伸展の動き」を使うのが最も効率的な弾き方です。
 ここで考えてほしいのは、「肘関節の伸展の動き」は、上腕屈筋の力を抜くことができれば、何もしなくても前腕にかかる重力が勝手に肘関節を伸展させるということです。(p.18,19)

これはおしい。でも、残念ながら「強い音で演奏しなければならないときに」は、実際プロもいろんな筋肉を使っています(参考: ピアニストのための脳と身体の教科書 第11回 「力み」を正しく理解する (5)エコ・プレイ:力まずに弾くスキル(2))。

また、この書籍では重力によって伸ばされる「肘関節の伸展の動き」のコントロール方法について一切触れられていない(「腕の重さを変える」などは、コントロールの説明になっていない)。実はこれは、上腕二頭筋の【伸張性収縮】を使っているということがすでに研究でわかっています(詳細は記事 「番外編1: 重力を利用した演奏方法の正しい解釈」を参照)。

ちなみに、この書籍では「伸張性収縮」を「筋肉にとっては最も過酷な状態(p.65)」と言っていますが……残念ながら、実際プロは、重力奏法をする際、打鍵するときの前腕の勢いの調節でその【伸張性収縮】をやってるんですよ(重力を利用した打鍵の場合、それを使う以外のやり方で、より効率よく肘関節の伸展をコントロールする方法がないので)。

さらに、この書籍ではこう続けています。

大きな音を出そうと頑張るときに、知らないうちに上腕屈筋に力が入っているかもしれないのです。(p.19)

えっと、「かもしれないのです」と言うのはいいけど……ホント推測・考察が甘すぎるなぁ。。。実際は、大きな音を出そうと頑張るとき、初心者は上腕伸筋(上腕三頭筋)を使っていることが、すでに研究でわかっています(詳細は記事 「番外編7: プロと初心者の「打鍵の仕方」の違い」を参照)。その理由は、上腕伸筋(上腕三頭筋)の(短縮性)収縮の方が上腕屈筋の【伸張性収縮】よりもコントロールしやすいから(初心者は単に後者の方法に慣れてないだけ、だと思う)。

そういえばこういう伸展する力の使い方って西洋的だってこの書籍には書いてあったっけ?西洋的な弾き方は初心者そのものってこと?これもわけわからん。

2-2. 手首の動き

でました、手首の動き。この書籍での手首の扱いは矛盾しているだけじゃなかったんです。この書籍で手首は、こう扱われています。

力が抜けていれば、手首は自由に動くものです。(p.44)

……ねぇ、重力はどこに行ったの?もしアナタが地球上にいる場合、手首の力を抜いたら……その先の手・指全体はどうなるか、みなさんは知っていますよねぇ?

さらに、馬場さんは手首についてこう続ける。

手首が上がった状態をキープしていると言うことは、手首を屈曲させる筋肉に絶えず力をいれているということですから、その筋肉は疲れてしまいます。(p.48)

えっと、「手首が上がった状態をキープしている」場合、確かに「手首を屈曲させる筋肉に絶えず力をいれているということ」もあり得ますが、それ以前に、「手首が上がった状態をキープしている」って、手首の過剰な「脱力」指導として有名な【おばけの手】のポーズ(詳細は記事「お悩み相談室16: 手首が下がるのですが…」を参照)そのものじゃん。ここで「その形がキープされているのは力が入っているからだ!」と有無を言わさず断定する推測・考察理由はなんだ?ホント、意味がわからないよ。。。

2-3. 見た目で判断

こういった不思議な推測・考察をつらつらと書き続けた最後にはこう締めくくられていました。

たとえば打鍵後に指が鍵盤を押し続けているとき、指の動きはそこで静止しています。そのときどのように力を入れて鍵盤を押し続けているのかを見ただけで判断するのはとても難しいことです。(おわりに)

あっ、なるほど。だから馬場さんは推測・考察が甘かったのか。。。だって、実際は……

  1. ×見ただけで判断するのはとても難しいことです。
  2. ○見ただけで判断するのは不可能です。実際に調べてみないとどうなっているかはわかりません。

と、考えなければなりません。馬場さん、自身が目の錯覚に陥っていることに気付いていないよ(詳細は記事「特集2: プロは本当に「脱力」や指の「独立」をしているのか」を参照)。現に、馬場さんは「見ただけ」だったから、その後の「判断」が誤ってる。見たことによって(?)見つけた「打鍵後に指が鍵盤を押し続けている」という前提がおかしいから、その後の考察もおかしくなっている(= 妄想)、ってこと。

前回も紹介しましたが、これを研究によって実際に調べたところ、そもそもプロは鍵盤を【押し続けてない】というのがすでに判明ています(詳細は記事「番外編7: プロと初心者の「打鍵の仕方」の違い」を参照)。ね、見ただけで判断するのは不可能です。実際に調べてみないとどうなっているかはわかりませんってば。うーん、この書籍、2018年に出た書籍とは思えない。。。

2. 小まとめ~推測・考察が甘い~

さて、この書籍の推測・考察の甘さをいくつか紹介しましたが……こういうたぐいの書籍って、そういう甘さがあっても(その甘さのおかげで?)、(ピアノをどう弾いていけばわからない迷える子羊的な)読者をわかった気にさせちゃう、というのが怖いところ。だって、あんだけ自信満々に文章が書かれてるんだもん。上記で紹介した研究内容・結果を知らなかったらさ、この書籍で書かれていることが本当だと思っちゃうじゃん。。。

そういうことに気を付けるのが、監修者であったり、出版社であったりすると思うんだけどなぁ。。。残念ながら今回は(も?)監修者や出版社による校閲がちゃんと機能していないように思います。

この書籍の紹介(批判?)は、あと2回続きます。

では。

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