番外編1: 重力を利用した演奏方法の正しい解釈

公開日: 2015年10月24日土曜日 ピアノ 持論

こんにちは、リトピです。

私のピアノ持論の一つである「本当は怖い重力奏法」においてですが、重力を利用することについては まったく否定をするつもりはありません。むしろ、利用できる外力があるのであればガンガン使うべきでしょう。 否定していたのは、その利用の仕方ですので、悪しからず。

正しい解釈とは

さて、まずはピアノ演奏において、当たり前すぎて考えてもいなかったことにメスを入れていきましょうか。

人間は、どうやってピアノの鍵盤を打鍵しているのか

突然ですが、人間の筋肉は収縮しか出来ません。筋肉を作っている筋繊維一つ一つの長さが短くなることで、全体として筋肉の長さが短くなり、関節を軸にして腕や足を動かしています。 腕を伸ばすときは、その縮んだ筋肉が自発的に伸びることは絶対になく、反対側の筋肉が収縮することで、縮んでいた筋肉が伸ばされます (この伸ばされている筋肉の状態は、収縮の反対である「弛緩 (しかん)」といいます)。

さて、ピアノを弾くとき、腕を支えるためには「上腕二頭筋」が大いに活躍しますが、 打鍵時、鍵盤上に上げていた腕をどうやったら下せるのでしょうか。 腕を下ろすとき、腕の動作方向と重力のベクトルは同じ方向 (打鍵方向)に向いているので、結果として重力を利用しているのは明白なのですが、 なぜか腑に落ちない。だって、筋肉は収縮しかしないんでしょ?ということは、腕を支える力をなくす以外、打鍵方向に向かって腕を伸ばすことはできないことになってしまう。。。 (「上腕二頭筋」の反対にある「上腕三頭筋」を収縮させれば腕は伸びますが、重力を利用した力より大きな力を必要としない限り、活躍しないはず。)

つまり、重力の利用方法は「脱力」しかありえないのでしょうか?でも待って。

「脱力」 = 力を抜く = 弛緩 (筋肉を緩めるとほぼ同義)

と考えると、納得がいきません。なぜなら、看護roo! によれば、

中枢神経からの指令は、収縮させたい筋肉にしか届かないということです。弛緩の命令は下りません。
つまり、人間は、筋肉を収縮させろ、という命令は出せますが、弛緩 = 「脱力」をしろ、という指示は一切出せないわけです。さて困った。

必要なのは力の入れ具合をコントロールする能力

そうだ。腕を下ろすスピードを変えられるってことは、その力をコントロールする何かがある、と考えても良いのでは。

独自に調べた結果、以下のことがわかりました。

打鍵時、腕は「上腕二頭筋」の「脱力」ではなく「伸張性収縮」によって下降している*1。 その収縮は筋繊維の使われている量が短縮性収縮より少なく*2、サイズの原理を無視して速筋線維から動員されている*3。 (サイズの原理: 運動強度が高くなるにつれ運動ニューロンが小さなものから大きなものへと順序良く活動し始めるということを説明した原理。筋線維タイプの動員: サイズの原理通りでは「遅筋線維→中間線維→速筋線維」の順に活動*3)

  1. 短縮性収縮: 筋肉の収縮で長さが短くなる収縮
  2. 伸張性収縮: 筋肉が収縮しようとしても伸びる方向に動いてしまう収縮
  1. <参考HP>
  2. *1: "ピアノ打鍵動作の熟練技能:「重量奏法」の科学的検証," 古屋晋一ら
  3. *2: "運動にブレーキをかけるときの筋肉の仕組みとは?,"やさしい筋肉学, 石井直方
  4. *3: "筋肉の収縮様式," LIFE ORDER
つまり、この「伸張性収縮」のコントロール方法をマスターすれば、ピアノをもっと楽に、かつ思い通りに弾けるようになるのではないでしょうか。

少なくとも、ピアノを練習するときは、

  1. × いかに力を抜くか、という「脱力」ありきの考え
  2. ○いかに力の入れ具合をコントロールするか、という「伸張性収縮」ありきの考え
と、いう意識が大事かもしれませんね。なぜなら、人間がコントロールできるのは筋肉の収縮量 (詳しくは筋繊維が短くなる数)だけであり、「脱力」しろという指示は出すことすらできないわけですから。つまり...

ピアノ奏法における「脱力」神話が崩壊

したわけですね。これは、「脱力」信者や重力奏法を謳う人たちが散々言っている「余分な力や無駄な力を抜け」ということ自体、人間にとって実行不可能な内容だったわけで、記事「なぜ「脱力」は敵なのか4: 脱力なんていらない」で主張した「そもそも余分な力などない」という私の考えは正しかったという証明にもなるでしょう。あぁ、よかった。 実際にピアノを打鍵するときの考え方については、次の記事「正しい解釈をピアノ打鍵へ応用」で。

では

P.S.
いやぁ、これで長年疑問に思っていたものが解決した気がします。ピアノ演奏における「脱力」すなわち「弾くという力を入れる行為をしながら、力を抜け」という指示は、前々からおかしいと思っていたんです。 この事実、実際のレッスン風景やネット上のやり取りに当てはめてみると、とっても滑稽だと思いません?

あるレッスン風景 or ネット上のやり取り

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