番外編2: 正しい解釈をピアノ打鍵へ応用

公開日: 2015年10月25日日曜日 ピアノ 持論

こんにちは、リトピです。

前回の記事「番外編1: 重力を利用した演奏方法の正しい解釈」では、正しく重力を利用する方法は、人間が指令できない「脱力」(弛緩)ではなく、上腕の筋肉の「伸張性収縮」がカギだ、というお話をしました。 では、それをピアノの打鍵に応用してみましょう。ただし、かなり簡素化します。腕は剛体なので、並進運動だけではなく、回転運動(慣性モーメントやトルク)も考慮しなきゃいけないのですが、それだと、とても複雑になってしまうので...

打鍵に必要な力とは

ピアノの打鍵にかかわる力は図1の通り。

図1: 打鍵時に必要な力。Fmは主に上腕二頭筋によるもの。
ここで、「脱力」信者や重力奏法を謳う人たちの大半は、打鍵力Fを以下のように解釈しています。なお、ここでは打鍵方向を正に取ります。 (式内の"x(t)"は、変数t (時間)の関数x という意味ですが、ここでは自分で値をコントロールできるもの、と定義します。)
  1. F = m(t) g
  2. (m(t): 打鍵時、指に(鍵盤へ)かける重さ)
...ぉぃぉぃ。確かに打鍵時に指へかける重さは変えられるかもしれませんが、物理学でいう力"F = mg"のmは質量なので、通常普遍的です。まあ、自分の腕の質量を自在に変化させることができる特殊な能力を持っていれば話は別ですが。。。要は、指にかける重さの感覚というのはピアノ演奏において副次的なものであり、打鍵力Fの調整には直接影響しません。

重力を利用した正しい解釈における打鍵力は以下のように示されます。

  1. F = mg - Fm(t)
  2. Fm(t) = 0: 自由落下
    Fm(t) = mg: 上腕二頭筋の等尺性収縮
    Fm(t) > mg: 上腕二頭筋の短縮性収縮
    Fm(t) < mg: 上腕二頭筋の伸張性収縮
ここで、収縮に関する用語を簡単に説明します。
  1. 等尺性収縮: 筋肉が収縮しても長さが変わらない収縮(実際にはちょっと縮んでいて腱が伸びているらしい)。腕を落とさず支えている状態。
  2. 短縮性収縮: 筋肉の収縮で長さが短くなる収縮。腕が持ち上がる状態。
  3. 伸張性収縮: 筋肉が収縮しようとしても伸ばす方向に動いてしまう収縮。本日のメイン。重力の方が強いので、力を使っても打鍵方向へ腕が伸びる。
このFm(t)をどれくらいにするか、つまり、「伸張性収縮」させるために収縮させる筋線維 (詳しくは速筋線維)の量を全体の何%にするか、がピアノ演奏のカギとなります。簡単に言えば、力の入れ具合をどうするか、ということです。これは力の抜き具合をどうするか、という風に考えることもできそうですが、それは全く違います。

何度も言いますが、人間が直接筋肉に指示できるのは収縮させろという命令だけです。なので人間は、筋肉に対して、弛緩しなさい、つまり「脱力」しろ、という命令はそもそも出せないんです。これは「脱力」信者や重力奏法を謳う人たちの主張を大きく覆す衝撃な事実でしょうね。

では

P.S.1
外から見れば、力の入れ具合も、力の抜き具合も同じように感じますが、全く違うことをすぐ実感できる方法があります。水の入ったペットボトルを持って、ダンベルと同じ要領でその腕をゆっくり下におろしてみてください。もし力を抜くという行為が可能なら、重力と同じ方向におろすので、持ち上げるときより力を使わずに楽に下ろせるはずですが、そんなことないのを体感されたと思います。実はこの動作、力を入れながら (しかも持ち上げるよりも大きな力で)腕を伸ばして (実際は伸ばされて)いるんです。 これは、筋トレ界ではお馴染のようで「エキセントリック収縮」と呼ばれています。

P.S.2
本当の打鍵力の式は以下のようになりますが、ちょっと複雑になるので今回は割愛で。

  1. F = mg - Fm(t) + Fs(t)
Fsは前腕の回転力。詳細は記事「お悩み相談室3: 速いパッセージが弾けないのですが…」を参照のこと。 これだけの力をうまく活用すれば、超大作でない限り、腕が疲れる、ということはないでしょう。もし「腕が疲れた」と感じたら、弱い筋肉を酷使しているか、間違った打鍵イメージによって打鍵に必要ではない筋肉を使ってしまっている証拠。これは身体からの警告ですのでご注意を。

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