本当は怖い重力奏法5: ピアノの音量を決める本当の要素

公開日: 2015年10月13日火曜日 ピアノ 持論

こんにちは、リトピです。

前回の記事「「脱力」したまま音量のコントロ―ルはできるのか2」では、重力奏法として、打鍵時に「脱力」するだけではピアノの音量をコントロールすることは不可能、というお話をしました。ピアノの音量のコントロールに必要な要素の一つは「鍵盤にかける力」です。 今回は、もう一つの要素を利用して、ピアノの音量を決める、弦を叩くハンマーの速度をどうコントロールするか、についてお話しします。

キーワードは運動量と力積

では、実際にハンマーの速度をコントロールするにはどうしたらいいのでしょうか。 打鍵時の簡単なイメージを図1に示します。

図1: ピアノを打鍵するときの簡単なイメージ

打鍵後のハンマー速度 vを変化させるには、運動量の法則を考えます。 まず、ハンマーにかかる力について考えます。もし、鍵盤の支点から打鍵位置の距離とハンマーの位置の距離が等しかった場合、てこの原理より、ハンマーにかかる力F'は、打鍵時の力Fと同等になります。(実際は違いますが、簡単にするためにそうしています。)また、ハンマーの質量をm、鍵盤に力Fをかけ続ける時間をtと置くと、運動量の法則より、以下の式が成り立ちます。

  1. 運動量の法則: mv = F't = Ft
上式右辺は力積と呼ばれています。ハンマーの質量mは不変なので、上式より、ハンマーの速度を変更するには、下記2つの要素が必要です。
  1. 打鍵時の力: F
  2. 鍵盤に力Fをかけ続ける時間: t
言い換えると、ピアノの音量をコントロールするには、力積Ftを変化させる必要があります。

ここで、前回の記事「「脱力」したまま音量のコントロ―ルはできるのか2」でも出た『楽器の物理学』, 丸善出版(株), p.359の図12.9 打鍵力を変えたときのハンマーの速度とキーの押下時間を与える曲線から、pp-ffまでの音量変化に必要な力積を求めてみましょう。

表1: 鍵盤にかける力と打鍵時間 (鍵盤に力をかけ続けている時間)から
算出される力積とピアノの音量の関係

なお、運動量の法則の式からわかると思いますが、理論上は、F, tをどう変えても最終的に力積の値が同じなら、ハンマーの速度は理論上は変わりません。力積は図2で言う各図形の面積に相当します。

図2: 鍵盤にかける力Fと鍵盤に力Fをかけ続ける時間tの関係。

表1は図2のAのような打鍵方法(一定の力をかけて打鍵)でしたが、図2のBのような打鍵方法 (Aに比べて4倍の力をかけた後だんだん打鍵の力を抜いていく。打鍵時間はAの半分)にしても、AとBの力積の面積が同じなので、理論上はピアノの音量は変わりません。

つまり、逆に、表1に書かれている力積値になるように、力積の要素である「鍵盤にかける力: F」と「鍵盤に力Fをかけ続ける時間: t」を図2のように自在に変化させることで、所望のピアノの音量を得ることができる、というわけです。(『ピアニストの脳を科学する 超絶技巧のメカニズム』にも同じようなことが書かれています。)

打鍵時は、「脱力」などせず、重力奏法なんか忘れて、腕や肩周りの筋肉を柔軟に用いて、「鍵盤にかける力」や「鍵盤に力Fをかけ続ける時間」を自在に変化させ、ピアノの音量を思いのままにコントロールしましょう。

次回は、この連載「本当は怖い重力奏法」最後の記事「なぜ「脱力/重力奏法」でうまく弾ける人がいるのか」です。 こんなに明確に、「脱力」による演奏や、重力奏法はピアノ演奏に役に立たない、いや百害あって一利なしだ、ということが理論的に証明されたのに、なぜうまく弾ける(と感じている)人たちがいるのでしょうか。ちょっと考察してみたいと思います。

では。

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