読むときに気を付けるべき書籍2-1(矛盾編): 『目からウロコのピアノ脱力法』

公開日: 2019年8月7日水曜日 ピアノ 持論 重力奏法 書籍 脱力

こんにちは、リトピです。

こちらは、個人的に、間違いやミスリードの記述が多いと感じた書籍をご紹介するコーナーです。 本来ならば購入しない方が望ましいのですが、何かの手違いですでにご購入されてしまった方への 救済として本コーナーを設けております。

悲しくも(?)2冊目を紹介しなくてはならなくなりました。それはコチラ。

『目からウロコのピアノ脱力法』
馬場 マサヨ 著, yamaha music media

著者である馬場さんは、この書籍の「はじめに」で、

私が長い年月をかけてつかんだピアノ演奏の脱力法を、少しずつご披露していきたいと思います。(はじめに)

と言っています。なるほど、書籍内の文章を読む限り、人柄の良さそうな感じを受けました。。。が、だからと言って、書かれていることが正しくなる、というわけではない。彼女のファンがいたら申し訳ないが、ここはいつも通りズバズバと切り捨てていきます。

最近、岳本さんの書籍『ピアノ脱力奏法ガイドブック 1 』など、人間の骨格や筋肉に着目したピアノ奏法の説明書籍が増えているように感じます。これはいい流れ……とは現状ではいかないのが悲しいところ。この大きな問題は、その中身の【質】です。

残念ながら、彼らの書籍は『ピアノ・テクニックの科学 』の足元にも到底及ばない。『ピアノ・テクニックの科学』のような、膨大な研究結果に基づいた物理的思考による考察と、彼らのような自分の(周りだけという浅い)経験や(ずさんな)感覚に基づいた考察(もとい、単なる思い込みによる自説)じゃ、月とすっぽん。

どうやら、岳本さん同様、馬場さんも積極的にセミナーを開かれているようですが……なぜこうも、こういう人たちが積極的にセミナーなんかするかなぁ。。。その精力的な活動をする前に、もうちょっと自身の知識不足解消に力を入れてほしい。。。

先に、この書籍でよかったことを挙げると…
すみません、今回に限っては印象に残っているよかったことがない。。。だって、この書籍は(上記の岳本さんの書籍も同様に)、端的に言えば「今まで人間の骨格・筋肉を知らなかった人たちをカモにした書籍」です。読んでいて、全然面白くない。

馬場さんは、いろんな知識はあるようですが、物理知識がそれに追いついておらず、それらを十分に活かしきれてない。悪く言えば「頭でっかち」です。(これは岳本さんも同罪。まぁ、『ピアノ脱力奏法ガイドブック 1』にあるような「フワフワ感」とか「グラグラ感」とかいう意味不明な表現がない分、彼よりはマシですが……ドングリの背比べかもなぁ。。。)

また、馬場さんはフェルデンクライス・メソッド(参考: フェルデンクライス・ジャパン)を学んでいたとのことで、実のところ(ちょっとは)期待してたのですが……。申し訳ないけど、本当に学んだの?と疑いたくなるレベル。それとも、これが文系が理解できる限界なのか?本当は文系も理系も関係ない!と思いたいけどさ。。。

それに、この書籍が2018年に発売、というのもビックリ。すでにいろんなことが研究で明らかになっているのに、それを完全に無視して持論(もとい、妄想)を展開するのはいかがなものか。出版社であるヤマハさん、音楽分野を科学的支点から考察したテーマ等の研究活動支援をしてるならさ、こんな程度の低い書籍が世の中に出ないようにもうちょっと厳しい目で見てほしい。もっと、真面目な研究者たちの研究結果を(よりわかりやすくして)世に出すとかして、彼らの支援を続けていこうよ。

ヤマハさんよ、今のままじゃ……日本におけるピアノ奏法研究者の第一人者である古屋先生著書の『ピアニストの脳を科学する 超絶技巧のメカニズム』や、ピアニストに必要な「からだ」を正確にかつわかりやすくまとめている『ピアニストならだれでも知っておきたい「からだ」のこと』、そして「正しい身体の使い方の本質を見つける方法」が学べる唯一の書籍『音楽家のための アレクサンダー・テクニーク入門』などを出版している春秋社に、書籍ので負けてるよ!?(ただし、ヤマハミュージックメディアさん出版の書籍『ミスタッチを恐れるな』と『自分の音で奏でよう!』は別格。それらは素晴らしい書籍。うーん、もしかして、担当者の問題??)

また、Amazonでの評価欄では、この書籍を「間違いなく、最先端をいく本だと思います。」と評価されていたけど……どんだけ世の中を知らないんだろう。 これ、ブライトハウプトの重量(重力)奏法(『自然なピアノテクニック 第二巻 第二版』)(1905年ごろ)の内容からほぼ変わってないから。今、何年だと思ってるの??

……前置きがかなり長くなってしまいましたが、リトピがこの書籍に対しておかしいと思うところを一つ一つ挙げていきます。(以下、引用に書かれているページ数は、『目からウロコのピアノ脱力法』のもの)

ヘンな点1. 矛盾が多い

この書籍、読んでいてわかり難いと思ったことないですか?これ、別に聞きなれない筋肉や関節の名前が飛び交っているから……ではないです。

というのも、この書籍に書かれていることが矛盾だらけなんですよ。えっ、書籍だから仕方がないって?セミナー聞きに行けばわかるって?いやいや、そういうレベルの問題じゃない。たぶん本人は矛盾していることに気付いていないよ。早速見ていきましょう。

1-1. まず最初に知るべき「使われる筋肉」はどこ?

この書籍の最初の方には、こう書かれています。

合理的な動き方とはどんな弾き方なのかを知り、そのときに使われる筋肉がどこの筋肉なのかを知ることが大切です。無駄な力を抜きたいのであれば、まずは、正しいところに力を入れることを学ばなくてはならない。(p.13)

これは私も同意。まず先に「使われる筋肉がどこの筋肉なのか」とか「正しいところに力を入れること」がわからなければ、何が「無駄な力」かはわかりませんからね!しかし、この次に書かれている言葉が衝撃だった。

具体的には、次の4つの筋肉の緊張が「重力に逆らう無駄な力」です。(p.16)

……この文章が目に飛び込んできた瞬間、すぐにでもこの書籍を投げ捨てようかと思った。。。おい、ついさっき「まずは、正しいところに力を入れることを学ばなくてはならない。」って言ったのはどこのどいつだ?

ただ、この文言を読んでこの書籍を投げ捨てようかと思ったのは、単に内容が矛盾していることだけが原因じゃないです。重力に逆らうために使われる力をなぜ「無駄な力」と呼んだのか?重力に逆らう力が無駄という文言が出た時点で、馬場さんは実はフェルデンクライス・メソッドを学んでないんじゃないか(もしくはまったく理解できていないんじゃないか)、と強く感じた(その理由はまた今度)。それが一番の原因。非常にガッカリ。。。しょっぱな読む気失せたわ。

1-2. とある部分に力を入れ続けると疲れるんでしょ?

この書籍には、こういうことも書かれていました。

前腕の内側が疲れるのは、そこに力を入れ続けて弾いている結果なのですから、その疲れを解消するには、その筋肉の力を抜けばよいわけです。(p.48)

これには私も同意。確かに、そういった筋肉疲労は、運動中に起こる筋収縮、もしくは傷ついた筋繊維やその周辺組織が回復するときに起こす炎症によるもの、と言われています(参考: V drug, 筋肉疲労)。

しかし、後の重力奏法の説明で、馬場さんはこういうことを言っています。

(前略)腕の重さが鍵盤を下に押し下げるのですが、鍵盤が底に着くと反作用は最大になって腕の重さと同等になります。レガートで演奏するときは、この状況で指は腕の重さを支え続けなければなりません。(中略)指で鍵盤を押し続けている筋肉は緊張を続け、腕の重さを支えることができるのです。(p.71)

ん??「指で鍵盤を押し続けている筋肉は緊張を続け、腕の重さを支えることができる」と言っているが、それこそが「そこに力を入れ続けて弾いている」状態を作り、「前腕の内側が疲れる」要因になっているのではないか?これ、まったくもって意味わからん。

実際はどうなの?

さて、実際プロはどうやって弾いているんでしょう?実はそれを調べた研究があるんです。記事「番外編7: プロと初心者の「打鍵の仕方」の違い」で紹介していますが、鍵盤底にセンサーを置いて、プロとアマチュアは打鍵後にどういう力を鍵盤に加えているかを見たところ、プロは鍵盤がそこに到着した後、すぐ(鍵盤を押し込む)力を抜いていることがわかっています。

打鍵後、沈み込んだ鍵盤の底に何も力がかかっていないということは、「腕の重さは鍵盤に乗っていない = その腕の重さは指で支えられていない」ということになります。いいですか、大事なのでもう一度言いますが、プロは打鍵時、指には腕の重さを【乗せていない】ので、鍵盤を押し続けている筋肉を緊張させる必要も【ない】んですよ。

これなら、「そこに力を入れ続けて弾いている」必要はないですから「その筋肉の力を抜けばよいわけ」で、「前腕の内側が疲れる」こともなくなります。ハッキリ言いましょう、無駄なのは「指で鍵盤を押し続けている筋肉」の緊張だ、ということを。

これからわかることは……馬場さんは、自らダメだと言っている「(無意味に)指に腕の重さを乗せ、鍵盤を押し続けている筋肉を(無駄に)緊張させる弾き方」を、この書籍で教えようとしている、というわけ。ね、矛盾しているでしょ?ってか、これが「私が長い年月をかけてつかんだピアノ演奏の脱力法」なの?ウソでしょ!?

長い年月をかけ……る前にさ、まず、この矛盾に気付こうよ。。。

1-3. スタカートってどう弾くの?

さて、気を取り直して次に行きます。スタカート(スタッカートと書きたいが、今回はこの書籍に表現を合わせる)の弾き方について、馬場さんはこう言っています。

強い打鍵が必要となるスタカート(p.94)

いやいや、スタカートって音を短く切ることでしょう?その動作に強い打鍵が必要な理由は何??

ま、まぁ、それはとりあえず置いといて。。。とりあえず読み進めよう!

打鍵の方向を「下方向」にするためには、指の動きに「上から下の方向」だけではなく「向こうから手前の方向」の動きを加えることが必要になります。(中略)その「下」に向かう力は手首の力と指の力が合わさった強いものになるのです。(p.94)

ふむふむ、なるほど、スタカートでは「手首の力」も合わせて使うのか。勉強になr……あれ、妙だな……手首といえば、その該当ページにこう書かれていたぞ。。。

弱い打鍵をしっかりしたものにしようとするために、「手首の屈曲」という動きを使い始めます。つまり、手首を折ること(手首関節の屈曲)によって鍵盤を下げ、腕の重さを鍵盤に伝えようとするのです。こうして、手首が上がったまま弾き続けるという、良くないフォームができあがります。
「手首を上げるように折り曲げること(屈曲させること)をやめよう!」と思えばよいのです。(p.48)

「あれれぇ~おかしいぞぉ~?」(CV: 高山みなみ)
スタカートの説明では、「強い打鍵が必要となる」スタカートのために、指の力だけでなく「手首の力」も合わせて使うことを推奨しているのに、手首の説明では「弱い打鍵をしっかりしたものにしようとするために」使われる「手首を上げるように折り曲げること(屈曲させること)をやめよう!」と言っている。これ、どうやって解釈すればいいんだ?

えっ、スタカートしている写真では、手首は上がっているような形に折れ曲がってないからいいんだって?いやいや、むしろ、手首を屈折させる力を使わずに、手首の力を「下」に向ける方法があるなら教えてくれ。申し訳ないが、打鍵前に手首が上がっていようと下がっていようと、手首を屈折する方向に曲げなければ、手首の力はどう頑張っても「下」に向かないのですが。。。

1-4. 禁止事項が多いと楽しくないんでしょ?

さて、書籍も終盤にきたところで、子どもに指導するときの注意点を述べた「第6章 子ども時代に無理な力をいれないようにするには」という章にさしかかってきた。ここで馬場さんはこう語る。

「自由にピアノを鳴らしてはいけない。」「手を丸くしなければピアノを弾いてはいけない。」こんなピアノのイメージが、子供の中にできあがっていきます。ピアノに対するワクワクした楽しいイメージは、「禁止事項の多い」「楽しくないもの」に変わってしまいます。(p,104,105)

これも、私は同意します。こういった大人のエゴを押し付けた指導は、子どもの自由でのびのびとした気持ちを委縮させてしまう……というのは、書籍『ミスタッチを恐れるな』でも似たようなことが言われていました。

なるほどなぁ。馬場さんってやっぱり人格者だn……って、待て待て。アンタ、この書籍で散々……

  • 重力に逆らう力を使ってはいけない
  • 肩を上げてはいけない
  • 手首を上げるように折り曲げてはいけない

みたいなこと言い続けてたやん。この書籍、禁止事項ばっかりで楽しくないなぁ。。。

1. 小まとめ~矛盾が多い~

さて、この書籍の矛盾をいくつか引っ張り出してきましたが……これが、この書籍をわかり難くしている要因の一つである、というのを納得していただけたでしょうか?

なぜ、こんなにも矛盾が多いのか考えてみました。恐らく、馬場さんの中で前提となっている(古い)「重力奏法」の知識に、全体の話が引っ張られているからだと思います。前提がおかしかったら、その後の考察・結果がとんでもない方向にいってしまうのは容易に想像ができますから。

えっと……思ったより指摘内容が多くなってしまったので、4回に分割します。

では。

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